【特別対談】「路地連新潟」代表・野内隆裕氏×吉祥寺「ハモニカ横丁物語」の著者・井上健一郎氏
街歩きの魅力や新潟県内の注目スポットなどを語る
NHKの人気番組「ブラタモリ」に出演され、まちあるきグループ「路地連新潟」の代表を務める新潟市在住の野内隆裕さんと、全国の横丁に関する著書「吉祥寺『ハモニカ横丁』物語」(図書刊行会刊)がある上越市在住の井上健一郎さんに新潟市の街歩きの魅力や、2人から見る新潟県内の注目スポットなどざっくばらんに語ってもらった。
井上 野内さんと私は街に関心がない人から見ると、ひとつのジャンルで括られるのかもしれませんが、実際には街を見る視点に違うところがあります。関心が微妙にずれていて、私は野内さんの街へのアプローチの仕方がおもしろいと思っています。
野内 2人とも自分のまちを楽しんで「その楽しさを」発信しているのだと思いますが、アプローチが異なっていますよね。人それぞれ。いろんな目線があって面白いですよね。
井上 今でこそ路地や横丁に関心を持っている人は多いですが、私が活動し始めた2004年頃は、そこまで多くはありませんでした。当時は「変人」みたいな見方をされました。今もかもしれませんが(笑)。それだけに新潟に野内さんがいて、上越に私がいて、県内に同じ方向を向いて街を見ている人がいらっしゃるのは、心強いと思っていました。
野内 「にいがたなじらねっと」というホームページを開設したのが1997年末でして、新潟市の小路の風景や、銭湯、神社仏閣、まちの猫といった、自分のまちの好きなところを発信しておりました。きっかけは学生時代と就職したての頃、東京にいたのですが、Uターンして改めて自分のまちを見たとき、その町並みや歴史に興味を持ったことですね。
2000年頃から実際に案内もするようになり、2004年には、新潟の町の歴史を今に伝える「小路」の案内板や地図を作り案内するようになると、2007年新潟市さんがその取り組みを手伝えないかと声をかけて下さり、一緒に小路めぐりの案内板と地図を作ることになりました。また全国路地サミットというのがあることを知り。2008年、長野県の善光寺で開催された路地サミットに参加させていただき、2010年の路地サミットを新潟に誘致することとなりました。
井上 私が重点的に調査した吉祥寺のハモニカ横丁がある一帯は、終戦直後は更地でした。アリがアリの巣を作るように、人の群れがいつの間にか創り上げていったのがハモニカ横丁の起源となる闇市です。私はいつの時代も、路地のような空間を人間が創り出すメカニズムに魅力を感じています。闇市起源の横丁には、店の陳列物や飲食店の客席が軒先の通路に溢れ出ていてどこからが建物の敷地ででこまでが通路なのか分からないくらい雑踏とした場所が多いです。横丁で飲食していると、自分が店にいるのか、軒先にいるのか分からなくなり、その瞬間、自分は「街にいる」という感覚を抱くことができます。
また、横丁は街の最小単位とも言えます。路地や横丁を見るとこで、街がどんどん見えるようになって新潟に戻ってきた時に、新潟の街も解像度がよく見えるようになったと感じています。
野内 小路のある場所、新潟市の上古町や沼垂、人情横丁、古町花街、寺町、下町、それぞれ新潟の歴史を伝える空間が残っているというのは、大きな魅力だなと思いますね。
井上 新潟のこれからの新しい観光を考えると、野内さん目線で見た新潟も観光になりそうな気がします。
「みなとまち新潟を次世代に伝えたい」(野内氏)
野内 みなとの近くに住んでいますので「みなとまち新潟」をもっと伝えたいですね。
江戸時代初期に湊として使いやすいように整備されたという町並み。それを今に伝えるのが、堀の跡や、小路、花街、寺町、日和山かもしれません。そんな事を次世代の皆さん、学生さんに総合学習や、まちあるき等を通して体験してもらうお手伝いをさせていただいておりますが、ありがたいことですね。
井上 野内さんが小学校の総合学習に関わることは大事なことだと思っています。その時は気が進まないで歩かされている感じの子どもたちも沢山いると思いますが、きっと大人になっても歩いた経験は体が覚えているはずです。その感覚がしばらく冷凍保存されて、大人になるにつれて徐々に解凍されるかもしれません。それが郷土を愛する気持ちにどこか繋がってくると思っています。
野内 子供さんたちに自分達のまちに興味を持ってもらえたらと2008年から毎年、新潟市中央区本町で開催されている、千灯まつりにて「小路めぐりスタンプラリー」をさせていただいておりますが、楽しんでいただいているようで、嬉しいですね。また、路地連胎内、路地連新発田、路地連新津、路地連加茂といった路地を愛する仲間達が各地で案内している事、新潟市中央区の新潟シティガイドさんをはじめ、上越市直江津、三条市、新潟市南区の白根等で、小路に注目したまちあるきが行われているというのも嬉しい事ですね。
井上 野内さんの活動が特徴的なのは外野から街を語っているだけでなく、日和山カフ
ェのオーナーとなって一商店主となることで、街のプレーヤーとしても参加していることですね。
野内 新潟市の日和山が、新潟市・新潟大学・日和山委員会(官学民)により整備され、新潟シティガイドさん達により案内されるようになった事で、日本各地に残る日和山との繋がりも復活している様に感じています。2017年、文化庁の認定する日本遺産(北前船寄港地・船主集落)に新潟市も選ばれ、構成文化財の一つに日和山が選ばれた事もその一つかもしれませんね。
井上 街を因数分解すると、共通項がどの街にもあるはずです。その共通項を頼りに各地の街を見るのはおもしろいと思います。
野内 興味を持つことが大事。それで同じ何かを持ついろんな町を楽しめるかもですね。
「もうひとつの新潟を探したい」(井上氏)
井上 話は変わりますが、今の中心市街地の商店街を見ると、私が個人的に街にあってほしいなと思う業種のお店が減ってきています。例えば喫茶店や古本屋などです。いずれも、一度立ち寄ればそれなりの滞在時間になり、中心市街地で消費する時間が自然と長くなります。それだけに、上越市高田にある映画館「高田世界館」の隣にカフェができたときはうれしかったです。高田の街に人が滞留する仕組みが少しずつできつつあると思えたからです。
近年では中心市街地に元気がないと言われますが、私は街が少し寂しくなってきたときこそ、面白いことが起きる余地があると思っています。家賃も下がり、若い人が自分のやりたい店を持ちやすくなります。その一例として近年では、上古町で面白い店ができたりしていますね。
野内 上古町や沼垂テラスは商業的には一度リセットされている。そこに新たな価値観を見つけた人たちが集まり再生した。凄いことですよね。古町花街も「みなとまち新潟」を発信する大事な場所、注目し続けたいですね。
井上 そう考えると、県内の中心市街地は少しずつ新しい息吹が吹き込まれつつあるような気がします。上越市直江津のイトーヨーカドー跡地には無印良品が入りましたが、これはとてもうれしいニュースでした。古本も扱う書店コーナーも品揃えが充実していて、テナントにはカフェも入っています。無印良品直江津には、街に人が滞留する要素が揃っているように思います。オープン以来、県内外のお客さんで大変賑わっています。せっかく新潟におもしろいスポットが生まれつつあるわけですから、これからますます地元の人間として発信していきたいと思います。
野内 私は、自分まちの楽しみ方を発信してきただけですが、いろんな世代の皆さんに自分のまちを知り・楽しみ・(その楽しさを)発信し続けていただきたいですし、そんなバトンを誰かに渡せたらと思っています。
井上 県内で長く住んでいると、わざわざ県内の街に観光で訪れることは少ないかもしれません。でもコロナ禍で県外への外出を控えがちな今だからこそ、県内の行ったことがない街を訪れることで、私は「もうひとつの新潟」を探したいと思っています。自分がよそ者になった意識で、それまで知らなかった新しい新潟を発見することが、最近の楽しみです。これからも県内中のおもしろい街と人との出会いを楽しみに、県内を巡ろうと思っています。