コジマタケヒロのアルビ日記2022 Vo.8 「千葉和彦という教科書」
若さは勢いを。積み重ねた経験は落ち着きを。サッカーに限らず、どんな組織においても、それぞれに役割があり、周囲に及ぼす影響にも違いがある。
松橋力蔵監督は、チーム最年長ディフェンダーをこう表す。
「明るくて面白くて、みんなを励ましてっていうようなところが前面に出ていると思うんですけど、彼の普段のサッカーに取り組む姿勢、向き合い方っていうのが、一番、彼のストロングポイントだと思います。それがあっての、ほんのちょっと、そういう面白い部分というかみんなを和ませる。みんなを引っ張って、という部分があると思います。僕はもう本当に単純にサッカーに向き合う、その姿勢に素晴らしさを感じています。トレーニングに対してそういう準備ですよね。これまで僕が出会った素晴らしい選手たちは、何かにつけ優先順位をしっかりとつけられる。トレーニングすべきか、それともケアが先なのか。彼は常に優先順位をつけられる選手。大きなけがもなく、ベストなパフォーマンスを今の年齢で年間通して続けられるというのは、並大抵の努力じゃないと思います」
最後尾から前線へのパス。体を張ったディフェンス。プロとしての姿勢とサポーターを楽しませるエンターテイナー性も持ち合わせる選手。
背番号35・千葉和彦選手。
「名古屋のときは、結構やっていたんですよ、刈り上げ。少し飽きたので、去年1年間はやめていたんですが、リキさん(松橋力蔵監督)を見ていたら、刈り上げ熱が再熱してきて……。監督の影響って大きいですよね」
千葉選手一流のユーモアで番記者たちに笑いを提供したかと思えば、「今一番前線がいいのは距離感よくサッカーをできているから。僕から一発でいくというよりも、その距離感がいい選手を使いながら、崩していくというイメージですね」と厳しい表情とはっきりとした口調で、番記者からの問いに答える。
「監督は練習で選手のことをすごく見てくれている。そう、選手全員が感じています。だからこそ、言葉は悪いですが、『あいつができるなら俺もできる』というふうに捉えて、出場機会を得た際には強い気持ちで試合に臨んでいます。ずっとメンバーに入っていない中でも腐らずに練習に臨み、練習での手応えや練習試合でのパフォーマンスが監督に認められて、チャンスを掴んでいる選手が今年はたくさんいます。そのひたむきなサッカーに臨む姿勢が試合での活躍につながっている。全員がチャンスに飢えているというか、俺もできるという強い想いを去年よりも持って、今年はシーズンに臨んでいます。それが試合ごとにヒーローが誕生している要因ではないでしょうか」
こう話す千葉選手と好対照となる選手といえば、小見洋太選手。決して饒舌ではないが、独特の空気感を持ち合わせる、今年2年目となる19歳だ。
そんなふたりは何かと絡むことが多い。今年の「亀田製菓presents 2022アルビレックス新潟激励会」。千葉選手からの呼び込みで披露することになった小見選手のPKパフォーマンス。J2リーグ・第17節、横浜FC戦(H/○3−0)に勝利後、人間ボーリングパフォーマンスでの耳打ち……。年齢を超えて、千葉選手との仲の良さを感じせる。
「師弟関係でもなんでもないですよ、きっと彼はなんとも思ってないはずですから(笑)。横浜FC戦は彼の良さが十分に出た試合だと思います。自分の武器をより突き詰めていかなきゃいけないと思いますし、ひとつ自信になったんじゃないでしょうか。これから過信せずに、もっとどんどんやってもらいたいですね。彼ならできると思います。彼は去年から最終目標をリヴァプールとずっと言っているので、早く行ってほしいですね。僕たちが自慢できるような活躍をしてもらいたいですよ」
自らとストイックに向き合うプロの選手が身近にいること。
多くの経験を積んだベテラン選手が怠ることなく、真摯にサッカーを向き合っている。
数多くのことを知る千葉選手の存在・言動は、若い選手だけではなく、チーム全体に刺激を与えてくれている。チームに欠かせない、重要な教科書なのではないだろうか。
◎アルビライター コジマタケヒロ
練習、ホーム戦を中心に日々取材を続ける、アルビレックス新潟の番記者。また、タウン情報誌の編集長を務めていた際に、新潟県内の全日本酒蔵をひとりで取材。4冊の日本酒本を出した、にいがた日本酒伝道師という一面も。(JSA認定)サケ・エキスパート