【特集】「エネルギー王国新潟」(中)「下越エリアは再生可能エネルギーの一大集積地に」
実は日照時間が長い新潟市
前回の特集(上)では、新潟東港に集積するエネルギー施設に関して書いたが、今回は新潟東港以外の再生可能エネルギー関連施設の現状と今後についてレポートする。再生可能エネルギーには、太陽光発電、風力・海洋エネルギー、地熱、水力などがあるが、前半では、その中でも特に県内で稼働が多い太陽光発電に着目したい。
太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を国が定める価格で20年間、電気事業者が買い取ることを義務付ける制度である再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)」に基づき2012年にスタートした。これに伴い、一気に国内で太陽光発電が広まったと言われている。
日本海側というと、「冬が長く、曇り空の日が多い」というイメージが強く、新潟県は太陽光発電に向いていないと考える向きもあると思うが、ある業界関係者は「新潟市の5、6、7月の日照時間は東京と引けをとらない」と話す。
実際、新潟市には大型の太陽光発電所が複数ある。現在、新潟市北区には新潟県競馬組合厩舎跡地、新潟市西区にはオリックス株式会社(東京都)が運営するメガソーラー、新潟県四ツ郷屋発電所があり、新潟県阿賀野市には新潟県が運営する新潟東部太陽光発電所があるほどだ。
しかし、新潟市や下越地域にメガソーラーが多いのは別の理由もある。ある業界関係者は「ソーラーは敷地の確保が難しく、敷地の広さで発電量が決まってしまう。その意味では、新潟県はゴルフ場などの遊休地や雑木林があり、安価に広い土地が手に入りやすい」と分析する。
いずれにしても、新潟東部太陽光発電所は1号系列が2011年に稼働を開始するなど新潟県におけるソーラー発電の先駆けであり、新潟東部太陽光発電所は新潟県が推進している新潟版グリーンニューディール政策の一環として、県の企業局が大規模太陽光発電所建設を進めてきたもの。新潟版グリーンニューディール政策とは、地球温暖化問題に対処しつつ、関連産業の振興を図る観点から、再生可能エネルギーの導入拡大を図る等、新たな成長につながる将来への投資に取り組むものだ。
だが、内情は新潟版グリーンニューディール政策と銘打って推進したものの、誘致が進まず、新潟版グリーンニューディール政策はいわば「苦肉の策」であり、後付けとの見方もある。
2007年の県議会12月定例会本会議で、当時の泉田裕彦知事は「やはり団地の特性を生かした戦略的、重点的な企業誘致の強化が必要だろうと思っております」と述べている。また2013年の企業会計決算審査特別委員会では、「昨年度、県営東部産業団地に大規模太陽光発電所の建設を決定したことにより、今年度、関連企業の立地につながったという事例もあります。太陽光発電関連の設備を製造するので、借景として、この場所はお客さまに見てもらうのに最適な場所だということで選んでいただいたわけです」と述べている。だが、実際に団地に入居したエネルギー関連企業は、新潟県東部産業団地に入る約20社ある企業のうち、ソーラーパネル取り付け金具の株式会社サカタ製作所(新潟県長岡市)くらいである。
ところで、メガソーラーに目を向けると、現在、新潟県東部産業団地では県が所有・運営する17メガワットの太陽光発電所(新潟東部太陽光発電所1・2・3号系列)を営業運転中で、同様に県が運営する新潟県競馬組合厩舎跡地で4メガワットの太陽光発電所を営業している。
新潟東部太陽光発電所1号系列では、夏季と冬季で設置角度を変更できる可変式架台を採用しているほか、日本海側内陸部の積雪地域に適した設計として、積雪とパネルからの落雪を考慮した架台高さ(1.8メートル)を採用している。
また、オリックスのホームページによると、2018年から稼働を開始した新潟県四ツ郷屋発電所の年間発電量は、一般家庭約1万6,765世帯分の消費電力に相当する最大出力55.6メガワットとなっている。パネル数は約20万枚。新潟県四ツ郷屋発電所は新潟県下最大級で、全国的にも24位に入るメガソーラーだ(日本全国の太陽光発電所一覧地図ランキングホームページより)。
なお、阿賀野市内では、スイスの太陽光発電事業者であるEtrionが出資するエトリオン・エネルギー6合同会社が同市山寺で出力45メガワットのメガソーラー建設を進めているほか、東京産業株式会社がゴルフ場跡地(笹神ケイマンゴルフパーク)で出力23メガワットのメガソーラーの建設が進めていて、いずれも来年にも竣工する模様だ。これらが竣工すれば、阿賀野市では3つのメガソーラーが稼働することとなり、一大集積地となる可能性がある。
胎内・村上では洋上風力の計画も浮上
メガソーラー以上に注目されているのが、洋上風力などの風力発電だ。洋上風力で新潟県は後れをとっていたが、少しずつ動きが出てきている。
県内の風力発電事情を見てみると、胎内ウィンドファームが10基の風力発電を2014年から運転している。胎内市の海岸沿いには、少し内陸側にあるものも含め、これまであった、中条風力発電所(1基)、紫雲寺風力発電所(4基)、片山食品(1基)と合わせ、計16基が立ち並んでいる。
海洋上に風力発電設備を作る洋上風力発電の今後の展開もある。洋上風力発電は新潟県北を中心に、今後の有望な再生可能エネルギーとして注目されている。
日立造船が2014年に、出力22万キロワット規模の着床式洋上風力発電を想定した事業検討を開始したが、関係者によると、採算性の問題から2017年に断念したという経緯がある。洋上風力は投資額が巨大なことからその採算性の問題や、漁業などの利権の問題などで実現は難しいとされており、こうしたケースは全国的に見られるという。
そこで国は洋上風力発電導入促進のため、2019年4月に海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)を成立させた。
資源エネルギー庁のサイトによると、再エネ海域利用法は、海外でコスト低下が進み、再生可能エネルギーの最大限の導入と国民負担抑制を両立する観点から重要な洋上風力発電が、①海域の占用に関する統一的なルールがない、②先行利用者との調整の枠組みが存在しない、という課題により導入が進んでいなかったことを受け、これらの課題の解決に向け成立した法律という。
「自然的条件が適当であること」、「漁業や海運業等の先行利用に支障を及ぼさないこと」、「系統接続が適切に確保されること」などの要件に適合した一般海域内の区域を「促進区域」に定め、その区域内では最大30年間の占用許可を事業者は得ることができるようになる。このため、事業者は、長期的な視点で収益いついて検討することが可能となるのだ。
県では、この法律に対応し、2019年6月に洋上風力発電導入研究会を設置し、2019年11月には村上市・胎内市沖地域部会を発足している。また2019年4月には村上市・胎内市沖を、促進区域指定の前段となる「有望な地域」として国に情報提供している。
こうした中、2020年7月3日に毎年実施されている有望な区域等の整理が行われた。「胎内市・村上市沖」については国から既に一定の準備段階に進んでいると認識されているものの、今年7月選定の有望な区域として選定されなかった。胎内市の担当者は「現状はまだ『有望な区域』の選定される一歩手前の状態」と話している。
今回は選にもれたが、新潟県産業労働部産業振興課の堀井淳課長補佐は「安定的に提供するには地域住民や漁業関係者などに理解をしてもらう地味な取り組みが必要だが、地域で利害関係を調整したうえで、できるだけ早期に有望な区域への選定を目指している」と話している。
新潟県は次世代エネルギーとして水素に着目
一方、県では水素自動車などの水素エネルギーにも着目し、普及に努めている。その先鞭を付けたのが、本特集(上)でも取り上げた青木環境事業株式会社であり、同社の敷地内に本州日本海側で初となる燃料電池フォークリフト専用の水素ステーションを2018年に設置し、燃料電池フォークリフトを構内作業用としてトヨタL&F新潟株式会社から導入している。
県ではホンダ社製の水素自動車県を公用車にして、県内で開催される環境・エネルギーイベントなどで展示や試乗会を実施しているほか、岩谷産業株式会社(大阪府)が県から約6600万円の補助金を受け、2019年に新潟市中央区に北信越地方初となる水素を供給する「イワタニ水素ステーション新潟中央」をオープンするなど、県としても水素エネルギーの普及に努めている。
水素は県内の工場からも発生するガスから副産物として出ている物質であり、県の堀井課長補佐は「洋上風力は脱原発が進む北欧やヨーロッパでは進んでいる。洋上風力や水素エネルギーは地産地消型のサプライチェーンとして、自治体が取り組むモデルケースで魅力のある取り組みだと思う」と話している。
洋上風力の実現はまだ先の話だが、実現すれば、陸上と洋上を含めて国内最大の風力発電所になることから、新潟市を中心とした下越エリアは、再生可能エネルギーの一大集積地としてますます注目されることになるだろう。
【関連記事】
増加する新潟県のメガソーラー(2020年6月21日)
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風力発電は、エネルギー王国・新潟の新たな宝になれるのか(2016年6月8日)
https://www.niikei.jp/1065/
(文・梅川康輝)