【インタビュー】上越市の中川幹太市長「日本はIT推進が急務。上越市でもIT人材を養成しなければならない」
昨年11月に就任した上越市の中川幹太市長は、上越市のNPO事務局長、上越市議会議員(2期)などを経て、2度目の挑戦で当選を果たした。就任半年を経過した今、中川市長に政策の進捗状況や今後の方針などを聞いた。
上越市の豊かさ、素晴らしさを市民の皆さんに見つめなおしてもらい、市外の多くの人に知ってもらいたい
中川市長は関西で生まれ育ち、20年ほど前に上越市に移住してきた。その後、結婚し、子どもも生まれ、両親も呼び寄せた。
「人口減少を少しでもくい止める政策を進めていく。通年観光プロジェクトを進め、市が誇れる魅力的な資源を磨き上げ発信し、訪れた人に褒めてもらえば、地元の高校生も地元に誇りを持ち、進学等で転出しても、また、戻ってくるようになるかもしれない」と大きく期待を寄せる。
さらに、「東京で生活していくにはすごくお金がかかる。国交省の調査によると、東京都における全世帯平均の可処分所得は全国3位だが、そのうち上位40%から60%の中央世帯では全国12位。一方で、東京の中央世帯は食糧費や家賃、光熱水費などの基礎支出が全国で最も高く、可処分所得から基礎支出を差し引いた差額は全国42位となっており、東京都の中間層の世帯の暮らしは、他地域に比べ経済的に豊かであるとは言えないと分析されている。それに比べ、上越は自然も食も豊かで、若い人は子育てがしやすい。災害時にこれほど安心な地域はほかにないと感じている」と、阪神淡路大震災や中越地震を経験した自身の経歴を踏まえ実感を込めて語った。
中川市長は、「市民には、生まれ育ったこのふるさとに誇りを持って暮らしてもらいたい」と話し、厳しくも豊かな自然と共存してきたこの地域の逞しさや素晴らしさ、受け継がれてきた生活文化は、世界に誇る価値があると熱く語る。それらはすべて、自らの経験に裏打ちされた本心から発せられる言葉であるからか、40代の若い市長でありながら非常に力強く説得力を伴う。
自身が掲げた公約を基に、「8プロジェクト+1」を立ち上げ
優秀な若い人材が集い、他の地方都市に負けない、活気がある街へ。こうした街を目指し、特にIT企業の集積について、中川市長にはこれまで温めてきた構想、持論がある。
「上越妙高駅前はまだ土地があるのでIT企業の誘致が進められる。日本はIT化が遅れており、とにかくエンジニアの人材が不足しているので、上越市でも養成しないといけない」とし、「例えばアメリカでは、IBMなどは高校生からプログラミングなどを教えて、高校を卒業したらすぐにスカウトするというくらいだ。これらの人材は、ブルーカラー、ホワイトカラーとは違う『ニューカラー』と呼ばれており、新たに注目されている。まずは、高校の関係者に提案してみたい」と話した。
上越妙高駅前には、これまでに6社のIT企業が進出しているほか、高田本町商店街では町家をリノベーションしてIT企業を含む2社の企業が立地するなど、市の支援制度の後押しもあり、特にここ数年の動きが活発化している。
市ではこうした動きを受け、令和3年度からテレワーク等の拠点となるコワーキング施設の整備や新たにオフィスを設置する際の家賃補助の制度を設けたほか、令和4年度には、IT企業に精通する民間企業に誘致活動を委託し、取組を強化しながら、IT企業のサテライトオフィスの進出を目指している。
サテライトオフィスを例に挙げれば、1つ1つの事業所は決して大きくはないが、集積が進み、地域の若者の就業先の一つとして認知されることにより、人材育成を進め若年人口の流出抑制に少しでも歯止めをかけたいという中川市長の思惑が読み取れる。コロナ禍で 地方でのリモートワークやワーケーションへの企業の関心が続くなか、地方都市が様々な人材を受け入れるうえで、また起業を後押しする意味でも、確かにコワーキング施設の充実も待ったなしと言えるだろう。
「雪国文化を通年観光の核の1つにしたい」
通年観光については、「高田城址公園観桜会など従来の季節観光はこれまで通り開催し、市内外からの多くの皆さんに上越を訪れていただきたい。さらに、季節を問わず年間を通じて観光客に訪れてもらう通年観光を進め、上越で泊まっていただく必要がある。今考えているのは雁木・町家の活用だ。雪国の象徴、助け合いの精神でもある雁木をアピールしたい。雁木は年々少しずつ短くなっているが、それでも高田には全12キロメートルを超えるほど残っており、長さは日本一だ」と、“地域の宝”である雪国文化を通年観光の核の1つにしたいと話す。
また、「妙高地域にスキーで来る外国人観光客は、わざわざ新幹線で金沢市や長野市へ行って観光をしている状況。それだけ、上越市に滞在して見るところがないと思われているわけで、雁木・町家をはじめとする歴史・文化の発信により、上越市を周遊してもらいたいと思っている」と、地域の魅力がもつポテンシャルを生かす重要性を語った。
さらに続けて、「例えば、町家の屋根の色を統一したり、できれば電柱も地中化したりするなど景観を維持することも大切であると考えている。上越市内の人にとって雪は大変なものでしかないと思うが、例えば、除雪作業を外国人に見せれば感動するだろうし、ひとつの観光になるかもしれない。雪をプラスに考えなければいけない」と、地域の魅力の活用に関するアイデアが次々に飛び出してくる。
移住者でもある自身の視点や経験から、いまだに新鮮に映る地域の魅力をできるだけたくさんの人に見てもらいたい、観光資源として十分に生かされておらずもったいないとの思いがあるのだろう。プロジェクトにかける意気込みは並大抵ではない。
ふるさと納税の取り組みについては、「事業者からお礼の品を募集した段階で、まずは地元事業者の皆さまの販路拡大につながり、寄附者の皆さんからも喜んでいただける上越産品をきっちりとラインナップしていきたい。さらに、企業や事業所、地域住民に、『もし上越の魅力を発信できる良い特産品やサービスがあれば提供してください』とお願いしていく。これまでの返礼品は、公共施設の入館券や宿泊利用券などであったが、これからは地域の発想でいろいろなお礼の品が出てくると思うので、楽しみにしている」と語った。
中川市長の肝いりでスタートした人事改革プロジェクト
また、中川市長の肝いりでスタートした人事改革プロジェクトについては、「3年で異動という通例を見直し、もう少し職員の専門性を高める仕組みを考えていこうと思っている」と話す。
定期的な人事異動には功罪両面があるが、中川市長は、職員が自身の能力を生かせる希望に沿った業務を担当することで、個々人の力を存分に発揮してもらい、市民サービスの向上につなげるという“プラスの側面”を重視している。特に、地域に最も近い総合事務所の機能を底上げし、頑張っていこうとする地域を後押ししたいとの強い思いがある。
「今年度の予算で、人材を育てるための研修や視察の制度を拡充した。あとは、採用の方法をどうしていくか。採用試験においては、どちらかというと筆記試験より面接試験を重視している自治体もあるようだ。何よりもコミュニケーション能力が大切だ」とし、「さらに、大きな枠組みとして、副市長4人制や政策アドバイザーについての検討も行わなければならない。人事改革は一定程度は令和4年度で解決できる部分はあるが、長期的に取り組む必要があり、継続して行っていくことが大事だと思っている」と話した。
自身のなかで、速やかに変えるべきことと、職員の意識改革も含め、時間をかけて進めていくことをプロジェクトで整理していくとのことだった。
IT企業の集積や通年観光について強い意欲を見せ、ふるさと納税の話題では、地域の産品やサービスが支持されることに自信を覗かせる中川市長。現在、多くの市民を巻き込み、市政の羅針盤となる第7次総合計画の検討も進む。地域に暮らす若者にとって魅力があり、市外の人が多く訪れる活気があるまちへと一歩を踏み出した中川市政を引き続き楽しみに見守りたい。
(文・撮影 梅川康輝)