【特集】上古商店街&沼垂テラス、新潟市のリノベーション商店街(下)
商店街のコンセプト・特徴
全2回に渡り上古町商店街と沼垂商店街を特集している。前回は両商店街のリノベーションまでの経緯を解説したが、今回は両商店街のコンセプトと現在力を入れている活動について注目したい。
上古町商店街のコンセプトは「温古知新」。大規模で新しい店舗や、大手チェーン店が比較的多い5から7番町古町商店街と異なり、古くから営業する店やリノベーションされた小規模な店舗が立ち並ぶことが特徴である。通りを歩く客層は地元の人々のほかに、古町に拠点を置くオフィスの従業員や、専門学校生が目立つ。基本的に幅広い年代の人々が来店するが、近年は特に家族連れが多い印象があると迫氏は語る。現在は新型コロナウイルスの影響があるが、以前は古町という立地上、コンサートや音楽ライブを目当てにやってきた観光客が立ち寄ることも多かったという。
商店街そのものが主催するイベントには、毎年10月に開催される「門前市」がある。これは、商店街の通りで市場や縁日の出店ほか、銭湯での音楽ライブイベントなどが行われる催しである。また、1月には「カミフル餅つき」も開催される。しかし商店街主催のイベントよりも、周囲の寺社が中心となって開催する「豆まき」「愛宕神社義人祭」へ協力することが多いという。
周囲の観光施設としては、まずは1番町のすぐ目の前の白山神社が挙げられる。商店街内部には愛宕神社や妙覚寺、商店街に隣接する西堀通にも小路の名前の由来になった眞浄寺や超願寺などが点在している。また新潟市美術館などの文化施設や旧斉藤家別邸などの歴史的建造物が並ぶ西大畑地域にも近い。こうした周囲の施設には、各地に設置されたレンタルサイクルを使っての周遊が可能なほか、駐車場が充実しており自動車での移動に利用できる点も特徴だ。
沼垂テラス商店街のコンセプトは「ここでしか出会えないモノ・ヒト・空間」。レトロな長屋という独特の空間と、そこで生まれるコミュニケーション、工房などで作られるオリジナリティある商品などと出会う体験を重視している。客層は新潟や佐渡へ行く観光客が立ち寄ることが多く、新型コロナウイルスが国内で流行する以前は関西や東海地方からの旅行者が、「るるぶ」などの観光情報を見て来ることもあったという。また、高岡氏は「SNSをよく見たり、いわゆる“インスタ映え”スポットを探してカメラを持ち歩く若い人が多い印象にある」と語る。
沼垂テラスの特徴として、商店街が主催するイベントが定期的に開催されていることも挙げられる。例えば、4月から11月の間には「朝市」が開催される。これは、商店街の各店舗が一斉に開店するのに加え、市内外からの特別出店も行われるイベントで、合計60から70の店舗が立ち並び、1日約4,000人以上の来場もあったという。他にも、夜間開催の「夜市」や冬季開催の「冬市」など、バリエーションも豊富だ。
沼垂テラス商店街近隣には真善寺などの寺院が並んでおり、御朱印を集めるために来る観光客も存在する。また、1958年に廃駅となった信越本線の旧沼垂駅に隣接することから、鉄道・廃線マニアが立ち寄ることもあるという。商店街から少し足を伸ばした範囲には、ほんぽーと(新潟市立中央図書館)といった文化施設や、峰村醸造などの観光施設も存在している。一方で、駐車場が少なく、遠方からの利用者はバスやレンタルサイクルを用いることが多いという点が課題となりそうだ。
両商店街ともに、新潟観光をする旅行者の第2第3の目的地となっている面が大きい。観光情報サイトによる影響もあるが、各店舗が積極的にSNSを用いた発信を行っている影響もあると思われる。20代から40代の若い経営者が多い、リノベーション商店街ならではとも言える。
また、現在は新型コロナウイルスの影響で旅行者やイベントの開催が減少しているが、代わりに遠方への旅行ができない地元からの集客が増えている。これを受けて両商店街では独自の戦略をとっている。上古町では10月から、古町に住む・働く人、あるいは商店街を日頃利用している人へ向けてクーポン券を発行する「カミフルエールプロジェクト」を開始した。一方沼垂テラスは、新聞折り込みなどを用いて近隣への紙媒体広告やマップの配布を増やしており、これまでよりも高い年齢層の人が来るようになったという。
地域と繋がる商店街
上古町商店街の「hickory03travelers」では美術系の大学などからインターンを受け入れていれており、同店の代表者迫氏が商店街の理事であることから商店街で使用するポスターなどの製作をしてもらうこともあるという。「私が長岡造形大学で非常勤講師をしていることもあり、弊社ではここ5年ほど、毎年10人程度をインターンで受け入れている。最近は地域貢献に関心のある学生さんは非常に多くて、『どうやったら自分の地元に帰って貢献できるか』、『地元が廃れてきているけどどうしたらいいだろうか』という意識を持っている。現場で実際のデザインをしながら学んでいってもらっている」(迫氏)。上記「カミフルエール」のチラシも学生の手によるものである。また地元の小中学校の職場体験の受け入れなども近年盛んに行っているようだ。
2016年からは、迫氏を含む若手の経営者数人で「カミフル団」結成という新たな動きも出ている。こちらは、経営者内での勉強会の開催や、町歩きイベントの主催、観光マップの作成とSNS発信などを行っている(関連記事 「カミフル団(新潟市中央区)が「新潟島」の地図を新たに作成」 2020年2月27日)。
沼垂テラス商店街では前述の通り、周辺地域の空き家・空き店舗を利用したサテライト店舗を拡大している。これは、高齢化により空き家になっている家屋や店舗をリノベーションしており、商店街の拡大と地域の活性を同時に行うものである。「商店街としての機能が向上することで、『ここに住みたい』という人が増えてほしい。沼垂エリアそのものの人口や活気を向上させていきたい」と高岡氏は話す。
これまで見てきた経緯や現在の活動により、沼垂テラス商店街は共同通信社と地方新聞が主催する「地域再生大賞」準大賞を2016年に、グッドデザイン賞を2017年に受賞している。こうしたノウハウは、他地域の商店街復興を目指す地域住民、行政、企業、建築家などの人々に注目を浴びており、積極的に視察研修も受け入れている。
湊町新潟に形成され、一度は衰退したが、そこへ新たな価値を見出す人々が蘇らせた上古町商店街と沼垂テラス商店街。今、あえて古い店舗をリノベーションして使うことについて迫氏は「新しい店舗はいくらでも設計できるけど、古いものはつくれない」と語った。高岡氏も「この沼垂テラスが持つ独特のまったりとした空気感、ノスタルジックな雰囲気がお客様も出店者も惹きつけている」と話した。古いからこそ貴重であり、どこか人の心が落ち着ける雰囲気が漂う。2つの商店街は、「商店街」が単なる商業施設ではなく人が暮らす場であることを再認識させてくれるだろう。(文:鈴木琢真)
【関連リンク】
上古町商店街 webサイト
http://www.kamifuru.info/
沼垂テラス webサイト
https://nuttari.jp/
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https://www.niikei.jp/44016/