男性の多い社内で将来を見据えた体制づくりに挑戦するヤマナリ猪又産業(新潟市)取締役・猪又優苗さん
有限会社ヤマナリ猪又産業(新潟市江南区、猪又治忠社長)は事業所や家庭から排出される古紙、鉄、非鉄金属を購入・分別・加工(リサイクル)し、製紙メーカーへ販売している。世界的にも廃棄物削減が重要課題となっているなか、再利用可能な資源を生み出し、排出事業者にとっては処理費用の削減につながる事業と言える。
社会貢献に繋がる事業だが、業界に対しては一般的に男性社会というイメージが強いのではないだろうか。そんななか、猪又優苗さんは取締役として経理のほか、製品(製紙原料)の品質チェック、仕入れの見通し、在庫状況などを確認しながらメーカーとの間で出荷の調整を行ったり、運送の手配をしたりしている。メーカーから数百トン欲しいと言われ、それ以下の量しか対応できなければ発注元は他社に発注し、以降、少ない発注枠しかもらえなくなることも考えられることから重要な仕事と言える。
猪又さんは新潟市の出身。大学を機に上京。「もともと人と接することが好きだった」(猪又さん)ことから、大学時代は帝国ホテルでアルバイトをし、国内外の要人の荷物を預かる業務に従事した。卒業後は帝国ホテルでのアルバイトで感じた英語力の未熟さを強化する狙いもあり、カナダにあるホテル・レストラン関連の学校に通ったという。
平成24年、東京で就職するためにアルバイトとして入社。一旦退職するが平成27年に今度は社員として入社。入社後は事務の業務からスタートし、平成31年の冬に取締役に就任した。
入社当初から、いずれ自分が会社を引き継ぐことになるという意識はあったものの、「どういう方向性で頑張っていけば良いかわからなかった」(同)と振り返る。そこで「まず現場のことを知ろう」と社長に黙って、中型免許(マニュアル)を取得し、現場責任者に頼んで自らトラックによる古紙回収業務を行ったこともあるそうだ。「現場のことをすべて知っていなければ経営者として指示を出せないという思いがありました」(同)。
しかし、社長からは指示は出すなと言われたり、熟練の現場社員が誇りを持ち作業を行っているのを見たりする中で、徐々に「日常業務のいろはを全て知ることではなく、社員の労務管理や労働環境の整備、トップダウン型ではなく現場を熟知する社員と話し合い業務の改善などを行っていくことが大切で時代の流れである」と考えるようになった。
そうした考えから、昨年、リスクアセスメント(※)の一環として、「労働安全委員会」を発足、月1回のペースで開かれるようになった。委員会では“万が一”が起きることを前提に、問題点を話し合い、改善点などを抽出している。発足当初、社内には会議をしたり社員自らが提案したりする習慣はなく、初めは意見がなかなか出て来なかったが、今では社員が積極的に意見を述べるようになり、「保護具着用の凡事徹底」「毎朝のラジオ体操」などが行われるようになった。また、こうした活動を通じ、「古参の社員との距離感は(入社当時と比べ)着実に縮まっている」(同)と話す。
次のステップとしては、先輩社員の背中を見て学ぶことが多いと言われる業務をマニュアル化し、そのマニュアルで基本を学べて社員の早い成長につながる体制づくりに取り組んでいきたいと言う。
新規事業の立ち上げも検討
現在、社員は18名(うち女性が2名)。経理は猪又さんと女性社員で行っているが、11月には女性の経理担当が入社する。この2人に現在自身が行っている経理などの業務を振り分けながら、自身はより会社全体を見た仕事に取り組んでいきたいという。
実際にまだ着手には至ってはいないが、「女性の雇用」、「障がい者の雇用」で取り組んでみたいことはあるそうだ。
女性の雇用で言えば、女性が収集運搬業務を担当している同業他社のケースがあることから、自社でも「現場を担う女性の人材を育成したい」(同)という思いがある。障がい者雇用では、機械内部の非鉄金属の分別作業を就労支援施設に委託、最終的には自社の倉庫整備を行い雇用の場を設けたいという思いがあるそうだ。
さらに長期的な目標を尋ねてみると、昨今問題になっているプラスチックリサイクルなど新たな事業に挑戦したいという。「祖父(現会長)が古紙回収・リサイクルを始め、父(現社長)が鉄回収・リサイクルを始めた。私もいずれは会社の柱となる事業を立ち上げたいと考えています」(同)。
(※)事業者が自主的に個々の事業所の設備や原材料、作業などに起因する危険性や有害性などの調査を実施することを努力義務化した労働安全衛生法が改正。平成18年4月から事業所に同法に規定される最低の基準として危害防止基準の遵守以外に自主的な安全衛生管理が求められるようになったが、事業所におけるこの活動を「リスクアセスメント」という。
【㈲ヤマナリ猪又産業 概要】
本社住所/新潟県新潟市江南区山二ツ332番地
電話/025-287-2100(代表)
業務内容/
・製鉄、非鉄、製紙原料の購入販売
・中古機械の買取
・産業廃棄物の収集運搬業務
サイト/http://www.yamanariinomata.com/index.html