【連載】新潟の教育 第1回「新潟コンピュータ専門学校 IT高度専門学科・AIシステム科」

豊富な選択肢を持つ新潟県内の進学事情

新潟市中央区のNSGsquare7階、新潟コンピュータ専門学校

2020年10月現在、新潟県には19校の大学、5校の短大、2校の大学院、1校の高等専門学校があり、さらに各分野に特化した専門学校の総数は50校を超える。そして近年は、企業と協力してより実践的な人材を育成する機運も高まっている。

こうした教育機関で専門知識を身につけた彼らは、一体どのような会社へ入社し、どのような業務を行っているのだろうか。そして、県外へ人材が流出しているのであれば、新潟に新たな産業が生まれる余地があるのではないだろうか。

第1回となる今回は、新潟市古町七番町に拠点を置く、新潟コンピュータ専門学校システム関連の学科を取り上げる。プログラミングを学ぶことができるだけでなく、AIやゲーム制作、eスポーツに特化した学科を展開する同校の教育と進学、そして企業との関わりについて、講師、生徒、そして就職先企業を招いて解明していった。

新潟コンピュータ専門学校の教室

 

現在のIT業界に必要とされる人材とは

新潟コンピュータ専門学校は、新潟市中央区「NSG square」に拠点を置いている。学科は「AIシステム科」、「情報システム科」、「CG・Webクリエーター科」、「ゲームクリエーター科」、今年開設された「eスポーツ科」、そして4年制の「IT高度専門学科」が設置されている。

今回取材した「情報システム科」と「AIシステム科」では、プログラミング言語の授業からスマートフォン向けアプリケーションの開発のような応用的な演習、さらにはIT関連を重視した英語授業のような多彩な教育を行い、人材を教育している。

しかし、こうしたITの知識を身につける授業を展開する一方で、現在のIT業界には、専門的な知識以上に求められるものがあると、AIシステム科・情報システム科講師の江村智史氏は話す。「今のIT業界では、コミュニケーション能力や、“人間力”のようなものが絶対条件として求められている。実際の開発環境はチームワークであるし、我々が作るシステムは現実の問題を解決するために用いられるわけだから、問題を発見し解決していく思考能力や、困っている人の痛みや課題への理解力が不可欠」。

ITシステム科1年次のカリキュラムの一例

こうした理由もあり、新潟コンピュータ専門学校では企業と協力した授業を展開している。例えば、ネットワークセキュリティ分野の株式会社ラックの社員による特別授業の開催など、講演会のような形で実際の業務の内容を学生へ伝える機会を増やしている。また、就職活動の準備段階として、毎年早い年次から学生を東京のIT系企業への見学へ向かわせ、学校の中だけで留まるだけでなく、現場で働く人々との接点を作っていることも、就活生にとっては武器となりうる。

コンテストへの出展も専門学校の特徴の一つ。株式会社新潟人工知能研究所、技術開発部長の佐藤修一氏は「コンテストのような対外的な活動で、教科書では学べない、納期などのひっ迫した状況を体験して現場力を身につけた学生は、企業としては心強い」と話した。

今年は、新型コロナウイルスの影響でこうした講演会や企業見学ができない状況が続いている。しかし、そこはやはりITを専門とする専門学校。現在はZoomなどを用いたオンライン講演会などの計画が進められているようだ。

 

仕事へ繋がる実践的な授業

IT高度専門学科4年生の畠隆七さんは福島県の出身。「最初は大学進学も考えていたが、基礎教養科目を取得する必要がなくて、実際に手を動かしながら仕事へ繋がる知識が身につけられる点で専門学校が魅力的に見えた」と語る。また、2年制・3年制だけでなく、4年間の深い学びを通して高度専門士の資格を取得することができることも決め手だったという。

AIシステム科の2年生、ジシャン・カジさんは、一度海外の大学で近代工学を学び、その後に新潟コンピュータ専門学校へ入学した。「私はデータ解析を学びたいと思い、そのことがサイトに明記されていたこの学校へ入学した。日本で仕事をしたいから、日本の学生に混ざって言語だとか、雰囲気だとかも学びたいと考えていた」と話す。

彼らのように、新潟県外、特に東北地方や甲信エリアの隣県から来る学生や、一度大学、あるいは社会人を経験してから改めてIT分野の門を叩く人も一定数存在している。

IT高度専門学科 4年生 畠隆七さん

AIシステム科 2年生 ジシャン・カジさん

個人で単位を取得していく大学と異なり、カリキュラムが決まっており、クラス単位で動くことになるのも専門学校の特徴。そのため、生徒間や担任教師との関係が親密である印象が強い。畠さんも「プログラミングは最初の環境構築の時点でつまずく方が多いなかで、先生方が一人一人熱心に教えてくれることが心強い」と話す。講師陣とSNSなどで繋がりを持ち続ける卒業生も多く、そうした接点から卒業生が講演や実習を担当することもあるようだ。

また畠さんは、「分かれてはいるけど、他学科との壁のようなものはあまりない印象がある。授業でも一緒になることがあるし、仲のいい友人も多い。例えば、ゲーム科の人と自分たちは使用するソフトやプログラムが違うから、交流すると刺激になるし、自分たちの学科に無い機材を使うことになった時には貸してもらったり、ノウハウを教えてもらったりすることもある」と他学科との接点も多いことにも言及する。学校の側としても他学科との交流は重視され「やはりシステム科の生徒たちはシステム開発の学びが基本になるので、デザインなどの面を他学科の生徒と共同しながら作品を作っていくという機会を作っている」(江村氏)。

 

県内IT技術者の就職現状

江村氏によると、生徒の9割以上は、学校での学びを生かした仕事へ就職していくという。業種としてはプログラマが多いが、ネットセキュリティの専門職など、IT系の様々な分野へ進出している。卒業生の多くは企業でプログラムを書いていくところからキャリアを始め、マネージャーやシステムエンジニアへと成長していく。

就職支援としては、講師陣からの企業紹介のほかにも、履歴書の書き方や面接などの基本から就職をサポートしていく体制も手厚い。

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就職先は新潟県外、特に首都圏が多数である。その理由としては、第一にIT系の企業の母数の違いである。特に、AI分野へ本格的に進出している企業は全国で見ても数少ない。また、取り扱う案件にしても、首都圏の方が最新のものが多い傾向にあるため、自分の力を発揮したい学生には魅力的に映るようだ。

新潟コンピュータ専門学校の校舎は2018年に新潟駅前から移築された。SFのような意匠のロビーには、生徒の作品や実績が並ぶ

これからの業界と新潟企業の行方

佐藤氏は、これからAI業界へ進む人には二つの道が分かれていると語る。「一つは、AIを進化させていく道で、こちらは大手企業の研究機関や大学が中心となっていく。もう一方は、研究から生み出された技術を、実際の世の中へ落とし込んでいく実践的な立場。つまりはエンジニアで、専門学校が育成する人材の多くはこちらに該当する。先ほどの話に出たような、現実世界の課題や人が抱えている悩みをしっかりと理解し、解決するために動く人材である。研究職とエンジニアのどちらが、ということではなく、その両者が必要」。

株式会社新潟人工知能研究所技術開発部長の佐藤修一氏

江村氏は教育の観点から「(日進月歩で進んでいく)ITの分野は、今必要なことだけを教えていても卒業することには陳腐化してしまっているかもしれない。先を見て、生徒が社会に出る時に必要になることを教えていかなければいけない」との指針を示す。

前述の通り、新潟はIT系の企業が首都圏に比べて少なく、人材の流出と希望職種へなかなか就くことのできない現状が課題となっている。しかし一方で、新潟県やにいがた産業創造機構(NICO)では起業向けの支援を数多く打ち出し、IT系ベンチャーの創設が期待されている。江村氏も「近年は新潟にUターンして起業する人が増えている印象にある」と語った。NSGグループも起業を推進しており、学校としても起業家の輩出に意欲的だ。

 

受験を考える人たちへ向けて

最後に、IT分野へ興味を持ち、受験を考えている学生や社会人へ向けてのアドバイスを聞いた。

江村氏は、自分の興味のある分野を追求してほしいと話す。「高校の授業は、どこで役に立つのか分からないという思いを抱えて学んでいく人が多いかと思う。しかしIT分野には、プログラマもいれば、ネットワーク構築の仕事もあるし、セキュリティを専門にする人もいて、幅広い仕事があるので、その中で自分が興味のあるものを見つけ出してほしい。好きなことを見つけるためには、いろいろな仕事や世界に触れて、体験してみることが重要」。

佐藤氏は、「思っているよりもチャンスはある、ということを伝えたい。先ほど、新潟での 就職先がなかなか見つからない、という話があったが、AI業界に関しては専門技術を持った人が大都市に集中しすぎて、逆に地方では人材の供給が足りていない面もある。新潟の人材が新潟で学び、地元で就職するサイクルが生まれてほしい」と、新潟からの人材と地元就職への期待を示す。

生徒へ指導する、教務部AIシステム科・情報システム科の江村智史氏(写真左)

実際の学生の立場から畠さんは「技術の進歩が速い世界であることを考えると、入学してからプログラミングを勉強してもまったく遅くないと思う。新しい技術が出てきて、それを触ってみることが大切なので、食わず嫌いをすることは致命的。色々なことをまず体験してから、好き嫌いを判断するようにしてほしい」とIT技術者としての心構えを語る。

ジシャンさんは、「早く仕事をやりたい、という人にとってはとてもいい環境。まったくシステムの勉強をしたことがない人でも、実践的な学びができて、すぐに仕事へ活かすことができる。もっと詳しく研究をしたい人たちは、一度ここで基礎を学んでから将来を決めてみてもいいと考えている」と、IT分野を考える人の背中を押した。

現在新潟コンピュータ専門学校では、3月まで月2回程度の頻度でオープンキャンパスを開催している。江村氏や畠さんが話すように、一度実際の学びの場を体験することが、進学にとって何よりも重要である。

次回は、同じく新潟コンピュータ専門学校から「ゲームクリエーター科」と「eスポーツ科」を取り上げる。県内でも珍しい学科だが、その進学状況、県内就職率、そしてゲーム製作の現場の空気感はどうなっているのだろうか。

【追記 2020年10月26日】「【連載】新潟の教育 第2回「新潟コンピュータ専門学校 ゲームクリエーター科・eスポーツ科」を掲載しました。

 

【関連リンク】
新潟コンピュータ専門学校 オープンキャンパスページ

 

【新潟コンピュータ専門学校】

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