【連載】新潟の教育 第3回「燕三条エリアからイノベーション人材の輩出を目指す三条市立大学」

技術革新を生みだすための、学問領域を超えた学習

三条市立大学のアハメド・シャハリアル学長 ©フォトスタジオウスタ
1966年、バングラデッシュの生まれ。1988年に来日し、東京電機大学フロンティア共同研究センター、新潟産業大学産業システム学部、経済学部、沖縄科学技術大学院大学技術開発イノベーションセンターなどにおいて研究、教育、実務を実践。

新潟県内の学校と企業を取材し、新潟県人材教育と就職について検証する「新潟の教育」。第3回、2校目となる今回は、10月23日に文部科学大臣から設置認可を得て2021年4月に開学する三条市立大学を取材した。

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県央地域初の公立大学である三条市立大学は、今までの教育機関には無い、広範囲の工学知識と社会科学を融合させた授業と、この燕三条というエリアの特色を生かした産学連携実習中心の学習により「技術革新(イノベーション)を生み出す人材を輩出する」というアハメド・シャハリアル学長の理念が宿っている。

同校の大きな特徴は二つ。一つは、専門性ではなく、広い分野の知識を身につけるためのカリキュラム。もう一つは、「企業での学習で浮かび上がった自身の課題」を学校で学び、学校で学んだ知識を実社会の課題解決で発揮するという反復学習。この二つがどのようにイノベーション人材を生みだすのか、まずは前者を詳しく見ていこう。

三条市立大学 大学校舎完成イメージ

既存の大学は、入学した学部や所属するゼミなどにより、一つの分野を深く学習していく。しかし、この学習のやり方ではこれからの時代の産業には対応できないとシャハリアル学長は話す。「かつては様々な産業が分化していたため、一つの分野に深い知識を持つ専門家が必要とされた。だがこれからの産業は、電気電子工学や材料学などあらゆる工学分野の総力を結集して、より高度なモノを作っていく時代。当学では新潟大学工学部と同程度の難易度を想定しているが、入学後の授業内容はまったく異なる」。

三条市立大学では工学知識だけではなく、経営とマネジメントに関する授業も行う。自然科学と社会科学の両面、そして後述する産学連携実習による実践と経験を積んだ学生は、市場の分析、商品の企画、そして技術開発を経て実用的な商品を生み出す過程全体を俯瞰することができる人間へと成長していく。社会で何が必要とされているのか、どのような企画が実現可能なのかを把握できる人間は、今後科学技術がめまぐるしく発展し、AIの登場により工業や労働の変化が予想される未来において産業構造がどのように変化しようと、常に求められる人材でもある。

そのため、指導するための教員も多様性に満ちた、シャハリアル学長の理念に賛同する人間が集められた。「指導する側の教員も、学問分野の境界を超えられるような考え方を持つ人を集めている。イノベーションは、常に異なる分野が重なり合う場所で生まれる。当学は大きい学校ではないが、だからこそ分野同士の垣根を無くして教員同士が繋がる共同プロジェクトを進めていき、そこへ学生も投入させていきたい」(シャハリアル学長)。

 

燕三条地域と共に歩む学習

シャハリアル学長は「知識を使いこなすには、経験が必要だ」と説く。そこで重要となるのが、三条市立大学もう一つの特徴である実務経験だ。学生に早い時期から経験を積ませるために、これまで日本では企業研究・就職活動の一環として見られる趣の強かったインターンシップを教育の中心に据えている。同校では、1年生の秋学期から早くも学生全員を企業見学へ向かわせる。しかし、この時はまだ工学や企業へ対しての知識が浅いため深入りはしない。10社ほどの企業などを回って幅広い分野の工業と会社の在り方を学ぶのである。

2年生となった時には、企業を見学した際に分からなかった部分を授業でより深く学び、秋学期には再び企業へ出向く。今回は2週間に渡る中期の実習を3社でそれぞれ実施し、前年よりもより深い繋がりを企業と作りながら、実務の経験を積んでいく。そして、「自分が大学で身につけた知識が現実でどう利用されているのか、さらに自分にはどのような知識が足りていないのかに気がついてほしい」とシャハリアル学長は話す。

三条市立大学では、大学での学習と企業での実戦経験を反復していく

3年生では大学での授業も変わり、これまでの企業での体験を生かした、商品の企画やマネジメントの授業が用意されている。そして秋学期には実習先を1社に絞り、16週間という長期間に渡り企業で修学しながら、商品企画、技術・製品開発、更には量産化工程等の中で何れか一つの分野を選択し企業現場をより深く学んでいく。最終的に4年生では、企業との共同研究や開発プロジェクトへ身を投じ、「価値のあるモノとは何か」を思考する能力を持って卒業していくのである。

大学の創設地に燕三条地域を選んだことにも意味があるとシャハリアル学長は語る。「燕三条は、家を一歩出たら工場があるという環境。しかも、工場の生産する品物や技術は多様性に溢れている。学生にとって、これほど学びの場がたくさんある環境が他に無い。既存のインターンはある意味企業に丸投げしていたが、当校では企業と大学がしっかりと協力することで、企業現場での経験という活動の威力を十分に発揮させる」(シャハリアル学長)。現時点で、三条市立大学に協力する燕三条企業は92社。若い人材と研究機関の知識が入ることで、企業にも新たなアイデアや変革が生み出されることが期待される。学生との共同開発を通して、数年後にはより強固な関係性が大学と燕三条に構築されていくだろう。

 

新しい時代の人材を生み出す、新しい姿の大学

これからの時代のニーズに合致する、自然科学と社会科学両面の広い知識。それらは企業現場の経験によって学生の脳内で緊密に結び付けられ、技術革新を生む創造力を生み出す。
専門性で既存の大学と戦うのは難しい。しかし、知識と経験がしっかりと噛み合った濃厚な学習は、卒業生をイノベーションを起こす人間、あるいは、イノベーションが発生した時に対応できる人間に成長させる。

シャハリアル学長は話す。「これまでの大学は、ある意味“静的”な研究・学習の機関だった。しかし、三条市立大学は“動的”な大学。新潟県内20番目などとも言われるが、私としてはまったく新しい取り組みを行う日本初の大学だと思っている」。

シャハリアル学長

三条市立大学では11月8日12月6日にオープンキャンパスを開催する。会場は、現在建設中の三条市立大学に隣接する、三条看護・医療・歯科衛生専門学校。大学説明会と入試説明会以外にも、シャハリアル学長による模擬講義「技術マネジメント論」が行われる。参加申し込みは、同校の公式サイトより。また、前述の催しはYouTubeで1週間の限定配信もされる。他にも、体験実験や建設現場の見学、Zoomによる個別相談会も開催予定である。

 

【関連リンク】
三条市立大学 公式サイト

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