起業家育成のため、あえて大学生にブース出展を任せたINSIGHT LAB株式会社
あえて会社概要も教えられず、ブーススタッフとして活動した2人
10月15日から2日間、新潟県下最大級のビジネス展示会「にいがたBIZ EXPO」(ビズエキスポ)が開催された。昨年のビズエキスポ出展者は226社、来場者数は延10,994人。今年はコロナウイルス感染症の影響で開催規模が半分程度に縮小され、出展者は115社、来場者数は延べ5,078人となったが、それでも県内最大級の展示会であることに変わりはない。
多くの出展企業が来場者にPRしてビジネスチャンスをつかもうと、企業の精鋭をブースに立たせる中、1社だけ全く違う動きを見せる企業があった。ビッグデータを取り扱い、イスラエルにも子会社を持つ2005年創業のINSIGHT LAB株式会社(インサイトラボ、東京都新宿区)だ。同社は2020年6月1日、「INSIGHT LAB新潟研究開発センター」を新潟市中央区に設立し県内でも活動を行っている。
インサイトラボにとって、今回のビズエキスポは新潟県内の企業との「顔合わせ」とも言える、重要なイベントの一つとなるはずだ。しかし、代表取締役の遠山功氏は、ビズエキスポ出展に関する全てを、2人の新潟大学生に任せた。遠山氏は、何故こうした采配を行ったのだろうか。
新潟に新しい流れを
大学生にブース出展を任せた理由は二つあると遠山氏は語った。
「今回ビズエキスポ出展あたり、大学生に全てを任せた理由の一つは、『新潟に新しい風を吹かせたい』と思ったからです。新潟は良くも悪くも、年功序列の日本式の事業形態を採用している会社が多いです。年功序列は良い面もたくさんあるのは承知していますが、能力のある若い才能が埋もれてしまいがちです。弊社が、若くてできる人物を取り上げることで、新しい流れを新潟に作ることができればと考えていました」と話す。
海外や都心部では、実力主義の流れが強く、若い人間でも実力さえあればプロジェクトの重要な責務を任されるということも少なくない。新潟に、「若い力はもっと活かせる」という視点を持ち込みたかったという。
もう一つは、『若手起業家の育成』という。「私は『SN@P新潟(スナップ新潟)』という起業家育成などを行っている団体の支援パートナーになっています。そこに所属している、起業を志す若手の力になりたいと思っていました。今回のビズエキスポは、起業を目指す若者にとって丁度良い機会です。かなりタイトなスケジュールでしたので、少しでも作業を止めると失敗するという状況から2人にお願いしました。弊社の情報は一切与えず、聞かれたら答えるという形を取りました。必要な情報や物は自分で考えて用意してもらい、ポスターやパンフレットの作成、ブース設営に至るまで、ほぼ全てを任せました。プロジェクトを完遂させるためには、自身で全てに責任を持ってやり遂げなければならず、常に前に進み続けなければいけません。こうした、起業家として大切な感覚を、身をもって学んで欲しいと考えていました」と話した。
さらに続けて、こう話した。「2人のポテンシャルの高さには注目していました。しかし、いくらポテンシャルが高くても、使い方を知らなければ宝の持ち腐れです。ポテンシャルを十分に引き出すためには、能力や知識だけではなく、『飛び込む勇気』や、『どんな時も前を向いて進み続けることができるかどうか』ということも重要なポイントになります。今回の経験は、2人にポテンシャルの活かし方を知ってもらう経験になったのではないかと思います」
遠山氏は、自身が日本から遠いイスラエルという国で子会社を設立したという経験から、ハングリー精神の大切さ、やり切ることの大切さ、前を向き続ける姿勢の重要性を強く認知している。遠山氏は、こうした精神や考え方を次世代に繋いでいくことも重要視しているようだ。
起業を目指す2人の大学生
インサイトラボの展示会出展を任せられたのは、新潟大学経済学部3年の菅野雅史氏と、同じく新潟大学経済学部3年の冨田翼空氏だ。2人は新潟大学でマーケティングやアントレプレナーシップ(起業家精神)を教えている、伊藤ゼミに所属している。
菅野氏は、今回のブース出展について、「インサイトラボのブース出展をさせて頂けて本当に色々と学ぶことができました。何よりも良かった点は、遠山さんがプロジェクト進行中にフィードバックをあえて下さらなかった事です。自分の頭と足のみで企画を最後まで進めました。どんなに反省したくても、『行動するより他に無い』といった感じでした。一緒に活動した冨田にも本当にたくさんのことを教えてもらいました。この先も、このとき考えたことや、感じたことが活きてくるだろうなと考えています」と話した。
同じく一緒に活動していた冨田氏は、「展示会というもの自体がよくわからず、展示会の雰囲気や役割について、他社に聞くことから始めました。全て自分たちで考え、準備し、実行しなければいけない環境に置かれて初めて、できること、できないことがわかりました。こうした中で、『自分で動くこと』の責任感の重さと楽しさを感じることができました。また自分で考えることを気付かぬうちに怠ってしまっていたと痛感し、『自分の考え』を再度確認するキッカケになったと思います。今回の経験を活かして起業活動を進めていきたいです」と述べた。
現在、菅野氏は学業の傍ら、ノーコードツール(プログラミングを行わず、WEBサイトやアプリを作ることができるツール)の講師やITツールに関するアドバイザー業、ノーコードアプリ開発などを行っている。今後は、ノーコードとプログラミング技術を併用した、仮設検証から制作までを一括して行う事業なども行いたいという。
菅野氏は、「地方がIT化の波に乗ることができていない現状に、もどかしさを感じています。例えば、『地元のカフェ検索アプリを作ってみたい』思った場合、従来なら、作成から運用に至るまでかなりの手間とコストがかかる。しかしノーコードツールであれば、試作品的な物なら、短時間かつ、非常にローコストで作成することができます。実際に地方に、こういった分野のリテラシーがあれば、もっと地域が発展し、活性化すると考えます。ITに関して造詣が深くない企業や個人でも、うまく生活の中にITを取り込める社会を作りたいです」と語った。
一方、冨田氏はアウトドアサウナ事業を手掛けている。現在はアウトドアサウナのモニターイベントを実際に行っているという。また、他にもサウナを利用した様々な事業を順次展開する予定だ。
冨田氏は、「私は一年前くらいにサウナの魅力に取り憑かれ、そこからサウナの可能性を多くの人に知ってほしいという想いから、アウトドアサウナ事業に着手しました。私の経験からですが、サウナ内の高温という環境下での裸の付き合いは、自然と親密なコミュニケーションを取れるという事に気づきました。しかも、お酒のコミュニケーションとは違い、健康促進という特徴もあります。こうした場は、多くのビジネスシーンとも相性が良いのではないかと考えており、『互いにリフレッシュしながら、交友関係を深める場』として、サウナの可能性と魅力を発信していきたいと考えています」と語った。
新潟でスタートアップの活性を
遠山氏は、「ビズエキスポを、2人に任せて心から良かったと思っています。実際にブースにいらっしゃった新潟の企業の方々も、若いスタッフに興味を持って下さる方が多く、企業の方から熱心にコミュニケーションを取る様子も見られました。新潟は確実に若い力を求めています」と話した。
大学生の2人は、ビズエキスポ終了後もブースに来てくれた企業に対し、1通1通お礼のメールを送るなどをし、大変評判が良かったそうだ。またその後も、展示会を通して関わった企業から数件の問い合わせがあったと言う。
現在、新潟県では、公益財団法人にいがた産業創造機構(NICO、新潟市)と協調しながら、スタートアップ育成プロジェクトチームを結成するなどして、新潟のスタートアップ起業家の育成に力を入れている。先にも出た「SN@P新潟」も、この流れの中、昨年10月に新潟市のスタートアップ拠点として開業した。
スタートアップ事業育成の機運が高まっている中、若手起業家を支える実業家も確実に増えてきている。今後も若手を支援する実業家の動きから目が離せない。また、実業家の後押しを受けながら確実に力をつけているという、若手起業家たちの今後の活躍にも注目だ。
◎INSIGHT LAB新潟研究開発センター
新潟県新潟市中央区東大通一丁目7番7号 IMAⅢ3階A室
【関連リンク】
INSIGHT LAB株式会社公式HP:https://www.insight-lab.co.jp/