連載 第14回 新潟出身の起業家たち 株式会社ジャパン・ベースボール・マーケティング 村山哲二代表取締役

BCリーグサイトより

アルビレックス新潟の発足時から運営プロモーションに携わる

「新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ(新潟アルビレックスBC)」など北陸、信越、関東、東北、近畿内にある12球団で構成するプロ野球独立リーグ「ベースボール・チャレンジ・リーグ(BCリーグ、命名権に基づく通称はルートインBCリーグ)。今シーズンも、10月27日に行われるルートインBCLチャンピオンシップで幕を閉じた。このBCリーグの運営を行うのは株式会社ジャパン・ベースボール・マーケティング。同社代表取締役の村山哲二氏は新潟県柏崎市高柳町の出身だ。

村山氏は、駒澤大学法学部を卒業後、外車ディーラーを経て、1997年株式会社電通東日本入社。広告担当として、サッカーのアルビレックス新潟の発足時から運営プロモーションに携わり、当時J2アルビレックス新潟の無名だった選手をテレビ、ラジオ、イベントなどに出演させるとともに選手のストーリーなどを紹介してファンを増やしたり、資金集めを行なったりするなどアルビレックス新潟を、地元で愛されるJリーグ屈指の人気チームに育てることに大きく貢献した。

そんな村山氏が野球に関わるようになったのは2004年。アルビレックス新潟設立の立役者である池田弘さんの構想からプロ野球誘致構想が浮上し、現・新潟アルビレックスBC取締役会長の藤橋公一氏(当時・株式会社アルビレックス新潟後援会専務理事)から、「手伝ってくれ」と誘われたのがきっかけだ。

ただ、当時新潟には、日本野球機構(NPB)の基準を満たすスタジアムはなく、球団買収の初期投資やその後のランニングコストを拠出できるオーナーもいなかったことから、プロ野球球団の誘致はハードルが高かった。そこで村山氏は、プロ野球球団の誘致案とともに、萩本欽一さんが2005年に創設した「茨城ゴールデンゴールズ」のように社会人野球チームを作り都市対抗野球に出場することを目指す案、独立リーグを設立する案も作成した。だが、「社会人野球はマーケティング活動が制限され、マネタイズが難しかった」(村山氏)ことからたち消えになった。

独立リーグについては、元プロ野球選手の石毛宏典氏が2005年に開幕したプロ野球独立リーグ「四国アイランドリーグ(現:四国アイランドリーグplus)」を視察に行ったという。村山氏にとって石毛氏は駒澤大学の先輩であるが視察で初めて対面。懇親会の席で、四国アイランドリーグを設立した思いなどを聞いたという。

当時、社会人野球を取り巻く環境は厳しかった。企業のリクルーティングの最先端の役割を担っていた社会人野球チームは全盛期にはおよそ240あったが、リストラの対象となり3分の1近くまで減少していたのだ。一方、アメリカはメジャーリーグ以外にも国内各地に多数のチームが存在し、アメリカの野球界の選手層の厚さや野球人気を支える原動力になっていた。「アメリカに留学しているときに、日米間のこの違いを痛感したことがきっかけとなり独立リーグを創設したということを懇親会の席で石毛氏から聞きました」と当時を振り返る。同時にその席で、「自分たちも独立リーグをやろうという話になった」(村山氏)という。

村山氏は独立リーグの事業計画を策定し提出したところ、、池田氏から「お前が策定したのだからお前が(経営者として)やれ」と言われた。だが、電通勤務に比べると不安定な道であり、当時、子供は生まれたばかりで即断即決はできなかったそうだ。数ヶ月悩んだ末に、「自分が作った事業モデルで他人がやって成功し『俺がやっておけばよかった』と思う失敗と、自分がやっての失敗と、どちらの失敗なら自分は納得できるか考えた時、決断できた」(同)という。

決断した村山氏は当時電通東日本新潟支社で営業部長になっていたが、妻には年収は下がらないからと言って説得したという。「実際はすぐに半分に下げましたが」(同)。

加盟球団一覧

 

球団全体のボトムアップを目指す

BCリーグの発足から14年が経ち、その間に四国アイランドリーグplus、ルートインBCリーグ以外にも各地に独立リーグが誕生した。その中でBCリーグについて特筆すべきことは、事業譲渡でオーナーが変更になったケースはあるものの、球団を一つもなくしていないことだ。また、これまでにNPBのドラフト会議で指名される選手も数多く輩出してきて、「(BCリーグは)日本野球界での立ち位置は高まった」(村山氏)という。

野球選手の傍ら、田植えをしたり地域の会社で働いたりと地域経済にも貢献してきた。「野球は礼儀正しいスポーツであることから、試合中の選手には礼儀を求めているほか、試合前には憲章(https://www.niigata-albirex-bc.jp/team/bcl-charter/)」を読み上げるなど人材育成にも力を入れている」(同)ことから、引退した選手の多くが地域の企業で人財として活躍している。

ただ、課題もあるという。

ジャパン・ベースボール・マーケティングでは、「野球を通じて、地域と共に、地域を豊かに」というミッションと、その達成のため「野球が持つ価値を高め、魅力を伝えます」「スポーツを産業化させ、地域の経済活性化に寄与します」「人とヒトを繋げ、新しい出会いと活気に溢れる球場を創ります」「夢を持ち挑戦し続ける人材を育てます」「地域社会が抱える課題と向き合います」という5つのビジョンを掲げている。

このうちできているものがある一方で、未達のものもあるのだ。人材育成でいえば、先述の通り成功しているが、地域の活性化や活気に溢れる球場は道半ばと言える。

このミッション、ビジョンの達成には、地域との一体感を醸成(地域を巻き込むこと)し集客力強化を図ることなどが不可欠。その地域との一体感を醸成するために重要な役割を果たすのが、地域の人たちが自分たちの球団であるという意識づけにつながる「本拠地球場(フランチャイズ球場)」だ。だが、それを持たない球団がほとんどであることから、Jリーグなどと比べると、地域との一体感醸成のハードルはもともと高いと言える。

だが、そうした中でも、観客に喜んでもらえるイベント(例えば地元のチアリーグや地元学校の吹奏楽部・ダンス部に試合当日に出場してもらい、球場に賑わいを作るなど)などプロモーションをうまく行なって、地元との一体感を醸成しているチームもあり、村山氏は「球団全体のボトムアップが課題である」と指摘する。「各球団の経営能力を高めるため、近く監査法人に球団の経営をチェックしてもらう仕組みを導入する予定です。経営能力を高め、現在、1試合あたり600人ほどの感染者数を1,000から1,500人に増やせれば良いサイクルに切り替わってくると考えています」(村山氏)と話していた。

また、村山氏は、日本独立リーグ野球機構(IPBL Japan)の副会長も務めることか、「全国に独立リーグとNPBのチームが混在する状況を作り日本の野球界の発展に貢献したい」と語っていた。なお近く九州にも独立リーグが発足するそうだ。

村山哲二氏
駒澤大学法学部を卒業後、外車ディーラーを経て、1998年株式会社電通東日本入社。広告担当として、サッカーのアルビレックス新潟の発足時から運営プロモーションに携わり、当時J2アルビレックス新潟の無名だった選手をテレビ、ラジオ、イベントなどに出演させるとともに生き様などを語らせてファンを増やしたり、資金集めを行なったりするなどアルビレックス新潟を、地元で愛されるJリーグ屈指の人気チームに育てることに大きく貢献した

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