ふるさと納税とものづくりの街・新潟燕三条 三条編「直営体制の構築と、市のファンをつくる取り組み」

チーフマーケティングオフィサーとして三条市のふるさと納税チームを率いる澤正史氏

地方創生の手段としてふるさと納税はすっかり定着し、なおもその存在感は年々増している。新潟県内では「米どころ」の魚沼市や南魚沼市も上位であるが、それを押さえて燕市が7年連続で寄付額1位(2020年度時点、約49億円)で全国でもトップクラスだ。隣の三条市も負けていない。2021年度は昨年比2倍を超える寄付額15億円を達成し、2022年度も返礼品点数を増やすなど積極的に展開する。

燕市・三条市がふるさと納税で支持を得る理由には、米や肉といった「お決まりの」品ではなく、両市が「ものづくりの街」として独自の返礼品を用意していることも一因だ。この記事では、そんな燕三条のふるさと納税を追っていく。今回は、三条市でふるさと納税のチームを率いる澤正史氏に話を聞いた。

 

目次

◎市内メーカーとの連携とCMOの任命
◎工業製品と農産物の両輪
◎市職員による直営体制へ
◎深いファンをどうつくるか

 

市内メーカーとの連携とCMOの任命

三条市のふるさと納税寄付額は、市のwebサイトを参照すると、2018年には9億円弱、2020年には約7億8,000万円の実績があるものの、ここ数年は3億円から4億円の間で推移している年が多く、2021年の15億円達成は大躍進と言えるだろう。

滝沢亮市長就任以降、ふるさと納税の制度活用に本腰を入れはじめた三条市では2021年7月、株式会社スノーピークとふるさと納税に関する内容も含んだ連携協定を結んだ。世界的メーカーである同社の返礼品は現在は50品目を超え、三条市のふるさと納税を牽引している。さらに同年後半は、転職サイト「ビズリーチ」を通じ、ふるさと納税の戦略を立案・実行するチーフマーケティングオフィサー(CMO)を募集したことが話題を呼んだ。

そのCMOに就任し、2021年10月から三条市に移住したのが澤氏だ。NetflixエンターテインメントジャパンやDAZN Japanなどで勤務経験があり、観光PRの分野にも強い。澤氏は、三条市のふるさと納税のポイントについて「ものづくり」「アウトドア」「農作物」の3点を挙げ、また「顧客満足度の向上」で、利用者のファン化・リピーター化を目指す。

 

工業製品と農産物の両輪

三条市のふるさと納税に新たに出品されたスノーピークの商品(三条市報道資料より)

感染症禍をきっかけにアウトドアブームが到来したが、三条市にとっては正に渡りに船。2021年まで500点以下だった返礼品点数は、7月現在で1,000点以上にまで拡充したが、スノーピークをはじめ、キャプテンスタッグ(パール金属株式会社)、村の鍛冶屋(株式会社山谷産業)などのアウトドアブランドが特に人気だ。

澤氏は、「単に商品点数が増えただけでなく、『三条市=アウトドア』というブランディングが成功しつつある」と手応えを話す。また、市の説明会だけでなく、事業者同士の紹介がきっかけになって出品へ乗り出す企業も最近は増えはじめているなど、行政だけでなく市全体で機運が上がっているという。

一方「農作物」について、三条市が2021年からひきつづき力を入れているのが先行予約だ。先に寄付を受け付けておき、作物が旬になったら発送する方式であるため、通年で寄付を受け付けやすくなる。

しかし、三条市と言えばものづくりが先行し、特に県外では市産農作物が認知不足にある点は否めない。「たとえば西洋梨のル レクチェ。新潟の人は普通に『追熟が……』などと説明できるが、全国的にはそもそも知らない人も多い。三条の地形の特性や農家の想いを取材し、記事として発信していくことが必要」(澤氏)。

果樹や米といった農作物はリピーターがつきやすい。工業製品と農作物の両面で売り出せるところは三条の強みであるため、今後この分野をいかに伸ばせるかにも注目だ。

新潟県三条市ふるさと納税返礼品「シャインマスカット」。返礼品の定番である果実が多様である点は強みだ(三条市報道資料より)

 

市職員による直営体制へ

澤氏が進めたのは返礼品の拡充だけではない。中間事業者への委託を止め、職員の直営体制を整えるという大改革も行った。職員が直接出品企業や農家とコミュニケーションをとることで、ふるさと納税の返礼品とサービス品質の向上にもつなげたい考えだ。

「三条市は工業製品も果物も大量生産には向かず欠品しやすい。そうなると、申し込みから数ヶ月待たせることになる。Amazonや楽天で注文するならばあり得ない話。出品事業者とのコミュニケーションを密にすることで、在庫管理を徹底した。また配送についても業者と調整し、おおむね1週間程度で届くようにした」(澤氏)

モノが良くても、サービスで躓いては台無しになる。「ふるさと納税だからしょうがない」と大目に見てもらえるものではない。澤氏は「当たり前のことが顧客満足につながっていく」と職員や出品事業者に力説し、直営のためのシミュレーションを繰り返した当時を「すごく地味で、しかし大変な作業だった」と苦笑いしながら振り返る。

「2月3月ごろに直営でやると決め、そこからシステムを切り替えていった。事業者にも職員にもなるべく負担がかからないような仕組みを作りたいと考えていた。寄付金額を伸ばすことも大切だが、この仕組みを構築できたことも価値が高い」(澤氏)。

現在も改善する点は多い。目下の課題は、サイトへのレビューの返信と、発送の確認メールの送信など。細かい点だが、それが利用者に信頼されリピーターへつながっていく。澤氏は話す。「三条市の特産品は、品質・品目はすでに世界へ通用する超一級だと考えている。だからこそ、顧客満足度を上げていくことが大切」。

 

深いファンをどうつくるか

澤正史氏

これからの取り組みについて澤氏は「ふるさと納税に限った話ではないが、いかに深いファンをつくるか」だと話す。そのために返礼品点数の拡充や、顧客満足度の向上、特設サイトの制作など「できることは何でもやってきた」。今後はさらに、観光型の返礼品も拡充していく計画だという。

「三条には、来ればファンになってもらえると確信できるポテンシャルがある。いくつかすでに話も進んでいる」(澤氏)。「工場の祭典」に代表されるオープンファクトリーの試みは、国内外でニッチなファンを獲得してきた。また、観光をきっかけに食と農産物の認知拡大や、継続的な納税者の獲得も期待できる。

澤氏の取り組みは、三条の持つ魅力をより多くの人に伝わりやすくすることに終始している。ひたすら高還元な返礼品や、自治体と関係の怪しい返礼品で人気取りをするのとは違う。いわば、原石から不純物を取り除き、形成するような作業だ。

「15億円達成が取り沙汰されるが、ふるさと納税の本来の目的は単に税収を増やすことではなく『市町村の本物の価値を全国へ伝える』こと。そのヴィジョンから外れたくはない」(澤氏)。利用者を惹きつけるその根底には、三条という土地の魅力への信頼があった。

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三条市が躍進をつづける中、燕市の2021年度の寄付額は約45億円弱で前年から反動減。そこには、工業製品が中心になっていることならではの理由があった。次回は、そんな燕市の現状と次の一手を見ていきたい。

 

【関連リンク】
三条市 ふるさと納税特設サイト

 

【関連記事】
ふるさと納税とものづくりの街・新潟燕三条 燕市編「寄付額県内2位に下落、リピーターを狙いにくい工業製品と次の一手」(2022年9月6日)

 

(文・撮影 鈴木琢真)

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