新潟のスタートアップ活性化に取り組む(株)ハードオフコーポレーション 山本太郎代表取締役社長
新潟県の新設法人率は2017年が全国46位、18年は全国最下位(47位)、19年は45位と低水準で推移している。県経済の活性化のため、いかに開業率を上昇していくかが大きな課題となっているが、こうした中、株式会社ハードオフコーポレーション(新潟県新発田市)と、同社の山本太郎代表取締役社長が、県内の起業家増加に向けた動きを強化している。
山本社長は、「もともと新潟生まれ、新潟育ちだが、これまでを振り返ると、会社の仕事(全国各地の出店、海外展開など)で忙しく、地元のための活動ができていなかった。ただ、何かやりたいと思っていた所に、(新型コロナの感染拡大で)新潟にいる時間が増えて、改めて新潟が本当にいいところだと思った。そして、その新潟をもっと元気にするためには、いい会社(スタートアップ)を作らなければと思った。最終目標は新潟を元気にすることで、上場企業やそれに準じる企業がもっと新潟に生まれてほしい」と語っていた。
12月1日にベンチャー支援拠点を開設
イオンモール新発田のほか、新しい店舗や集合住宅の目立つ西新発田駅。その目と鼻の先に、今月1日、ベンチャー支援拠点が誕生した。ハードオフコーポレーションが開設した「HARDOFF Startup Shibata(HSS)」だ。月額制(1万円/1社)でコワーキングスペース(Wi-Fi、電子レンジ・冷蔵庫など完備)を自由に使用することができるほか、同社の山本太郎代表取締役社長を始め、県内の若手起業家、銀行出身などのメンターに、いつでも経営上の悩みなどを相談できる。さらに、郵便物転送などのサービスもついている。
同社の報道資料によると、「現在、新潟県内における新規開業率は全国でも最下位に近い。阿賀野以北の地域から、若く、元気な企業がもっと担持して欲しいとの思いから開設した」という。山本社長は、「阿賀北に上場企業は20年前(2000年)に上場した当社しかない。阿賀北から上場企業もしくはそれに準じるような元気な会社が生まれることをしっかり支援していきたい」と話していた。
なおメンターの顔ぶれは以下のアドレスから確認できる。
https://www.hardoff.co.jp/news/n747/
またハードオフコーポレーションは今年10月、新潟駅南口に直結しているに「プラーカ2」にあるレンタルオフィススペース「NINNO(ニーノ)」内に、システム開発拠点「ハードオフ未来ラボ」を開設した。
ニーノは、プラーカ2のオーナー企業である木山産業株式会社が今秋開設した施設。ハードオフコーポレーションのほかに、フラー(株)、(株)BSNアイネット、(株)ソルメディエージ、(株)イードア、NTTコミュニケーションズ(株)、(株)ネクストステージといったIT関連企業の入所している。先月26日に行われたオープニングセレモニーに来賓として出席した新潟県の佐久間豊新潟副知事は、「新潟県ではIT企業の集積するイノベーション拠点の整備について支援しているところ。ニーノはそのシンボル的な拠点であり、これを機に、新潟に人と企業が集まることを期待したい」と述べた。
またニーノでは、共用部に幅14メートルの大規模スクリーン、カフェ、会議室、個室ワーキングBOXなどを設置し、入所企業がイノベーティブに活動できる空間を設置している(ただし共用部については、2021年3月まで5G開発実証場所としての利用が主となり、4月以降は共用部にコワーキングスペースを設置し、入居企業や利用者相互間の事業構築を促していくという)。
さらに、プラーカ2に隣接するプラーカ3にもスタートアップの入居するコワーキングスペース・KENT HUB STATION、新潟ベンチャーキャピタル株式会社、スタートアップ支援施設のSN@P、新潟大学の伊藤龍史准教授が行ってきた様々な学生などへ向けたアントレプレナーシップ育成活動を体系化させた交流の場・Venturing Lab.(ベンチャリ ング・ラボ)などを入居し、新潟駅南一帯が新潟のスタートアップ集積地になることも期待されている。
そうした中でシステム開発拠点「ハードオフ未来ラボ」の開設は、この集積化の流れに貢献した形だが、山本社長はニーノに入った理由をこう語る。
「当社はリアル店舗の強化とともにインターネット通販の強化、スマートフォン用アプリの開発などを進めてきたが、さらにネット部門を増強するため、システム拠点の開設を考えていた。ただエンジニア確保の観点から、現在の(同社の)東京の拠点ではなく、新潟県でシステム開発をやりたいと思っていた。その同じタイミングで、木山さん(木山光氏、木山産業株式会社代表取締役社長)、渋谷さん(渋谷修太氏、フラー株式会社代表取締役会長兼CEO)がシリコンバレーのように未来の企業のように伸びてくる企業が集まるスペースを作りたいと話していた。そこで当社もそのスペースに入ることを決めた」(山本社長)
なおハードオフ未来ラボでは、今後、同社社員と、今年4月に子会社化したリンクチャネル株式会社(同社のポスレジなどを開発した会社、十日町市)の社員が常駐し、共同でネット部門の強化を目指していくそうだ(具体的には2023年までにシステム開発・運用の内製化80%を目指している)。
今年3月に発足した新潟ベンチャー協会
山本社長は、今年3月に発足した新潟ベンチャー協会(NVA)代表理事も務めている。
この協会の目的は次世代を担う若手経営者などが、お互いに切磋琢磨するとともに、協業による新たなビジネスの創出やベンチャーやスタートアップ支援など を行うことで、県経済を盛り上げていくこと。「今まで起業して挑戦したいけれど、どうすれば良いかわからない人が多かったと思う。そういう方の相談に乗ることも協会の役割だと思う」(同)
協会が設立された経緯については、「もともと、渋谷さん(協会代表理事)などと数年前から仕事で繋がっていて『新潟を元気にしたいよね』という話があったりした。そうしたなかで、渋谷さんや、星野さん(星野善宣氏、新潟ベンチャーキャピタル取締役、協会理事)、池田さん(池田祥護氏、株式会社NSGホールディングス代表取締役社長、協会理事)など仲の良いメンバーで立ち上げた」(同)と話す。
発足後、今年10月22日にNVAピッチイベントを開催し優秀者5名を選出する取り組みを行なった。さらに、その5名を対象に、佐渡合宿イベントを11月15日から16日にかけて開催し、5名の中から最優秀者にゲーミフィケーションやSNSの要素も盛り込んだ釣り人向けアプリのSIIG(株)・谷川奨氏、準最優秀者にオンラインでの活動を可視化させるプラットフォーム運営の(株)プロッセル・横山和輝氏を選んだ。
今後は、この2者に対しては、NVA理事が約半年間、集中的にメンタリングや伴走支援を行っていく。加えて、一部のNVA理事では2者に対し出資を検討しているとともに、NVA理事の人的ネットワーク(東京などの県外ネットワーク)を活用し、大型の資金調達支援を開始している。
なお第2回NVAピッチは、令和3年の春先を予定しているという。
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起業家、起業支援者、大学、金融機関、公的機関などが結びつき、(研究や資金面などから)スタートアップを次々と支援・成長させ、それがまた優れた人材・技術・資金を呼び込む「スタートアップ・エコシステム」。新潟にもこうした好循環(エコシステム)がしっかりと根付くために重要な役割を担うのは、山本社長や新潟ベンチャー協会をはじめとする支援者の存在だ。その山本社長は、こう話していた。
「今まで東京と地方には情報の格差があって、東京で起業する人も多かった。しかし、コロナによって格差は減っているうえに、協会理事など世界の最先端の情報を知っているメンバーも多い。これからは東京で埋もれるよりも地方で輝く人が増えていくと思う。その地方の中でも新潟はポテンシャルがあると考えている」(同)