職人の現場へ寄り添う商品を企画し続ける株式会社兼古製作所の「ANEX」ブランド

株式会社兼子製作所の兼古敦史常務取締役(写真左)と兼古耕一代表取締役(写真右)

2020年10月30日、新潟県三条市の株式会社兼古製作所の発売する「トルク管理アタッチメント」がグッドデザイン賞を受賞した。同社の製品がグッドデザイン賞を受賞するのは今回で37回目、1984年から1年も欠かすことなく毎年評価され続けている。

兼古製作所と言えば、「ANEX」ブランドを展開する国内有数のドライバーメーカーである。その技術力はもちろんだが、今回は、冒頭で述べたグッドデザイン賞連続受賞に代表される企画力・商品開発力に今回は注目した。

 

目次

・職人に密着した製品作り
・製品を「育てる」
・作業環境の効率化
・企画力の継承とイノベーションの創出(三条市立大学)

 

職人に密着した製品作り

兼古製作所の創業は1949年。創業当初からドライバーの生産を続け、長年商品企画から金属加工、プラスチック形成、組み立てまで社内一貫で製品を作っている。主力の商品は手回しのドライバーだったが、現代は電動ドライバーの先端に取り付けるネジ回し(ドライバービット)の需要が高まっており、ドライバーとビットの販売の割合は4対6程度と逆転している。

なお、輸出の割合は全体の1割ほどで、主な取引先は韓国を主とした東アジア圏が基本である。日本では精密な作業ができる高品質な器具を使い続けることが好まれる一方で、欧米は短いドライバービットを使い捨てにする文化の違いがあり、「ANEX」はあまり進出はしていない。

2020年にグッドデザイン賞を受賞した「トルク管理アタッチメント」

国内で高いシェアを誇る兼古製作所の「ANEX」ブランドだが、その展開力について兼古耕一代表取締役は「職人と現場に即したニッチな範囲へ注力しているからこそ」だと話す。

兼古製作所の商品開発は「企画開発依頼書」という書類から始まる。この書類は、営業担当や企画担当などの分け隔てなく社員は誰でも発案可能で、多くの場合、展示会や見本市に出展した際に耳へ入るユーザーの声や、職人からの直接の依頼がきっかけとなって書かれるという。現場の問題を汲み取り、それを解決するための商品を開発していくのである。

 

製品を「育てる」

このように現場の職人の声を元に毎年約50点の新商品が生み出されており、2020年のカタログには約1,500点の商品が掲載されている。さらに、リリースされた製品の評判から、それに付随する新たな商品開発がスタートすることも多い。

例えば、2015年にグッドデザイン賞を受賞した「オフセットアダプター」が挙げられる。この製品は、従来、電動ドライバーを入れることができず、ボルトを手作業で回さざるをえなかった狭い場所での作業を、内部にギアを並べた薄型アダプターを装着することで電動ドライバーでもボルトの脱着ができるようにしたものである。開発当初は木造建築での使用を想定していたが、現在では電車のシャーシ組み立てなど幅広い現場で使用したいとう要望を受けて現在は、本体やソケットの大きさのバリエーションが企画、製品化されている。

「オフセットアダプター」は内部にギアが並んでおり、狭い場所でボルトを電動ドリルで回す作業が可能

こうした状況を兼古耕一代表は「商品を育てる」と表現した。さらに、実際に「オフセットアダプター」開発へ携わった兼古敦史常務取締役も「私も入社するまでは『ドライバー類や工具は、成熟産業なだけにこれ以上改良の余地があるのか?』と思っていたが、実際に開発に携わるとやらなきゃいけないことが沢山あった。職人に密着することで、こちらが想定していなかったニーズや、新商品の企画が生まれることは多く、こうしたニッチな需要にこそ日本の産業が生き残る道がある」と語る。

近年力を増す中国などの製品は大量生産によるコストの低減を実現しているが、一方で、既存製品から外れた少数の需要には応えることができない。ANEXブランドが評価され続ける理由には、常に現場の使い手へ寄り添い続ける兼古製作所の姿勢があるのだ。

 

作業環境の効率化

株式会社兼古製作所

兼古製作所は近年、社内の改革にも力を入れている。例えば、全社員は1週間に30分、就業時間中に職場の環境を整えることのできる時間が確保されている。これは、トヨタ自動車株式会社の「5S活動」のように、職場の整理・整頓などを徹底することで物を探す作業のような無駄な作業時間を減らし、社員が効率良く働くことができるようにするための時間である。また、月に2回、外部のコンサルタントを招いて幹部社員へ職場環境改善のための指導を行っている。

社内環境の改善を進めている兼古敦史常務は「今年のコロナ禍のようなことがあっても、従業員を辞めさせたくもないし、逆に急に増員することもできない。業務の内容によっては、機械化や自働化を含めて生産性の向上を図るとともに、従業員はフレキシブルに活躍の場を変える“活人化”を目指す」と話す。

今後「企画力」が重要となっていく国内の産業では、単純作業を削減することや、発想にかけることのできる時間を確保することが必要になっていくのである。

 

企画力の継承とイノベーションの創出(三条市立大学)

三条市立大学 模型

現在燕三条地域でもっとも注目される存在の一つが、来年4月に開講する三条市立大学である。三条市立大学の最たる特徴は、燕三条というものづくりの町を舞台に、学生が何度も企業に実習へ向かうことである。兼古製作所でも実習生を受け入れ、その企画力を学生へ伝えていく予定だ。

現在の計画では、3年生の半年間に渡るインターンシップを受け入れ、前述の「企画開発依頼書」を元にした設計から試作、そして破壊試験を経た改良までを学生とともに進めていく予定だという。

兼古耕一社長は「企業実習は、単にこちらから教えるというだけではない。大学という研究機関ができて、学生がそこから出ていくことによって、燕三条地域が今まで弱かった学術的な部分が補われることで、伝統的な地域技術にイノベーションが持ち込まれることを期待している」と話す。兼古製作所に代表される燕三条の確かな技術力と実践的な製品開発力が、学術機関の持つ先進的な知識の深化とどう交わっていくのか、注目していきたい。(文:鈴木琢真)

 

【関連リンク】
株式会社兼子製作所 webサイト

 

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【連載】新潟の教育 第3回「燕三条エリアからイノベーション人材の輩出を目指す三条市立大学」(2020年11月5日)

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