【映画「EPISODE2」完成記念インタビュー】音楽プロデューサー松浦晃久氏「新しくオーガナイズすることと、文化を継承していくこと」
2002年に新潟で誕生した祭り「にいがた総おどり」は、昨年20周年を迎えた。しかし、新型コロナウイルスの影響により、2年連続で通常開催がかなわなかった。
そして、21年目となる2022年9月。新潟の伝統芸能や文化活動に携わり、それを継承する人や、「にいがた総おどり」に関わる人たちが体験した苦悩や葛藤、そして未来への「小さな光」を伝えるドキュメント映画「EPISODE2」が、10日より公開となった。
前作「EPISODE」に引き続き、今作「EPISODE2」制作に深く関わり、「にいがた総おどり」の立ち上げから携わってきた、新潟総踊り祭実行委員会副会長で音楽プロデューサーの松浦晃久氏に、ドキュメント映画「EPISODE2」や、これからの活動について話を聞いた。
■松浦 晃久(まつうら あきひさ)
1964年4月30日生まれ、東京都出身。株式会社Sight(新潟市中央区)所属、新潟総踊り祭実行委員会副会長および音楽監督。
「音楽はハート」をモットーに、平井堅、絢香、德永英明、JUJU、中島美嘉、秦基博、miwa、リトルグリーモンスター、小山豊(津軽三味線)など、多岐にわたり数多くのアーティストを手掛ける。近年では、「国民文化祭オープニングアクト」や「にいがた総おどり」の音楽監督、映画やドラマのサウンドトラックなど、その活動のフィールドを拡げている。(Sight提供資料より引用)
目次
◎「音楽をつくる環境が急速に変わった」新潟への移住を決断
◎2作目の映画「EPISODE2」への想い
◎新潟のカルチャーシーンに吹く新たな風
「音楽をつくる環境が急速に変わった」新潟への移住を決断
——今年、東京から新潟へ移住されたとお聞きしました。その理由をお聞かせください
今年の4月30日、ちょうど僕の誕生日だったのですが(笑)、新潟市の西区役所へ行って、住民票を移してきました。
移住した理由のひとつは、音楽を作る環境がここ5年くらいで、急速に変わってきたことです。DTM(デスクトップミュージック)の発達と、音楽メディアの変遷など、色々なことがリンクしてきました。僕が音楽を始めたころは、どこかに集まって誰かと合奏しないと作れなかった時代でした。
それが、技術の進化とともに便利になっていき、コンピューターに打ち込めば、音楽が作れる時代に。(そうした流れで)人と会わないで音楽を作る人と、今でも人と一緒になって音楽を作る人に二分されてきました。
——音楽業界全体はどのように変化しましたか
音楽業界としての作り方も、昔はレコーディングスタジオを借りて、何十時間もかけて作るという作り方が多かったですが、だんだん予算的にもタイトになってきました。それにともなって、集まってやることがだんだん少なくなってきて。
今は、レコーディングスタジオでないと録れない必要最低限の作業だけを行い、なるべく手短に終える。そういうやり方が主流になってきたのです。
そのようなやり方になってくると、事前作業の方が大事になってきます。DTMなど技術の発達のおかげで、事前作業が自宅でもやり易くなってきました。
——音楽制作の現場において、場所の制約が無くなってきたということですか
はい。そうなってくると、住む場所を別に東京に執着している必要はなく、新潟にいても打ち合わせは出来るし、データで受け渡しも出来る。それであれば、住みやすかったり、機嫌が良かったり、そして、「にいがた総おどり」がある新潟にいた方がいいのではないかと思うようになっていったんです。
新潟への移住の決め手は、人です。能登くん(Sight代表・映画監督)がいたり、岩上くん(岩上寛、株式会社Sight所属、新潟総踊り祭実行委員会総合プロデューサー)がいたり、Sightの人となりがあったこと。映画制作のこともあったし、近くにいた方が一緒にできることがあると思い決断しました。
2作目の映画「EPISODE2」への想い
——作品に登場する20人へのインタビュー映像にはどのような思いが込められていますか
「にいがた総おどり」は若者がつくる祭りで、彼らと一緒になって祭りをつくってきました。新しいものをどんどん取り入れていく反面、古い文化を保存し継承していくことが必要だと考えています。つまり、祭り自体が続くだけでなく、地域の文化が継承していく事もとても意味があります。
新しくオーガナイズすることと、古い文化を継承していくこと。この両側面があることから、「EPISODE2」をつくろうという発想につながっています。
——今作ではドラマが含まれていますが、どのようなことを意識しましたか
ドラマについては、ちょっとふわっとしています。たとえば、日本人が海外へ旅に出た時、ウェルカムに迎えられる部分と、その一方で、拒絶される部分もある。それを、違和感として感じることがあります。それは文化の違いもあるだろうし、分からないことに対する恐怖みたいなものもあるのかと思います。
人間が本能的にもつ群れる意識と、個の持つ独自性は、相反するものがあり、いろいろな形で、住む場所や性別、ジェンダー問題など、線を引かれることがあります。
多様化が叫ばれる一方で、コロナによって、いろいろなものを分けたがる。それに対して、この作品では、「本当の人の心の中は、相反する感情が同時にあいまいに進行している」ということがテーマにあります。
——今作の音楽はどのように制作を進めましたか
前作の時は、わりとミニマムに作ろうと思ってやったのですが、その匂いは2作目も残したいと思いました。
通常、映画音楽は、映像が出来上がって、それに合わせて音楽を作るのですが、ただ今回の場合はまったく時間がなくて、そんなことは全然間に合わなかったので(笑)。
僕も一緒にロケに同行して、録音をやったりしたり、演出もやったりしました。そんなことをするなかで、ストーリーの概略や、その場の「匂い」みたいなものを自然に感じていました。
ロケから帰って、一晩寝て、朝またロケに行く前に、ピアノをさっと弾いて曲を作っていました。いよいよギリギリになって映像が出来上がってきて(笑)、とりあえず作っておいた曲を映像に貼ってみたら、意外と合っていたんです(笑)。
——楽曲制作で意識したのはどのような点ですか
音楽が少し突き放した位置にいようと意識しました。音楽によって絵を語るということはやめようと。いわゆる絵を演出する作り方ではなく、もうちょっと客観的に、出ている人の心情よりも、その場の空気感や部屋の匂いのようなもの。それが、音楽であればいいのかなと思って作りました。
また、(ドラマには)セリフがないので、心理描写を語れません。言葉に出来ない心理描写を、音楽の中に「もやっと」した感じで表す。あまりダイレクトでない形で表現することを意識しました。
——映画「EPISODE2」で伝えたいことはどんなことですか
作り手は自分の想いがあるものを作っていて、その想いを正確に伝えられるのがプロだということがあると思います。もちろんコマーシャリズムとしては届きやすい。けれど、見方をかえれば、飽きやすいともいえます。
もちろん表現者として、上手に伝わりやすくする努力は絶対に必要だし、それが誇りやプライドだと思います。一方で、それが世の中に出た時に、受け手がどれだけ正確に把握できるかなんてことは、どうでもいい事なのだと思います。そんなことを、聞き手、観客に求めることは、傲慢だし、必要のないことです。
こちらが思っていないような、すっとんきょうな言葉をもらうことがあるのですが、それが意外と嬉しいものなんですよ(笑)。
僕らは僕らの思いで作品をつくり、それで何かが伝わったらいいなと思います。それが何でもいいのですけれど、いままで見ていなかったことや、気づいていなかった視点を持てたり、発見があったり、誰かに興味を持ってくれたりしたら、それは嬉しいですね。
新潟のカルチャーシーンに吹く新たな風
——昨年1作目「EPISODE」を作ったことでSightの事業に変化はありましたか
昨年公開した初の映画作品は、能登監督が一人でコツコツと始めたのですが、映画制作なんて初めてなはずなのに、思った以上に才能があって(笑)。
それまでは、プロモーション映像などは外注で行っていましたが、実際映画を作ったことで、CMを作らせていただくなど、映像や音楽のマルチメディアなものを作ることが増えて、仕事の幅が広がりました。
——松浦さんが新潟に来られたことで、文化や芸能の広がりが期待できるのではないでしょうか
そうなればいいですね(笑)。僕なりに経験してきたことがあるので、僕が知っていることで、未来の人のヒントになるものがあれば、何か残していかなければならないのかなと思っています。
僕もそうであったように、これまでいろいろな人に出会って、刺激を受けて、蓄積してきました。例えばクリエーターを目指す人との交流とか、そういうチャンスがあるなら、残していけたらと思います。
せっかく新潟に引っ越してきたので、是非使ってください(笑)。
*
ドキュメント映画「EPISODE2」は、新潟・市民映画館 シネ・ウインド(新潟市中央区)において、休館日を除き今月30日まで上映する。
また、3年ぶりのフル開催で実施する「にいがた総おどり」は、17日から19日までの3日間、新潟市内7会場にて開催する。
(インタビュアー・文・撮影 中林憲司)
(協力・有限会社にいがた経済新聞社)
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【関連サイト】
「EPISODE2」 公式サイト