【特集】地方分散の流れを受け新潟県内で加速するU・Iターンの取り組み
2020年は新型コロナウイルスの影響で地方分散の流れが加速した。総務省の統計によると、過去3ヶ月間(9月から11月)の東京都市圏への転入は前年同月と比較して減少しており、11月には転出超過となっている。新潟県内でも、この流れを取り込んで人口減少に歯止めをかけたい行政や、ビジネスを拡大したい民間企業のU・Iターン関連の取り組みが増加している。
地方での雇用やコミュニティとの関わりなど、移住希望者が抱える課題を解決し、新潟の活性化を目指す企業や団体、個人の取り組みを取材した。
転職という課題の解決を目指す企業
地方移住にとって大きな問題となるのは、働き先の確保だ。大都市圏に比べて仕事の絶対数が少ないだけでなく、自分が今まで培ってきた経験を活かせる仕事、やりたい仕事を新たな土地で見つけるのは困難であり、さらに、今の仕事を続けながら遠隔地で転職活動をすることになるため、尚のことである。
2010年に新潟市で創業し、現在は北陸・甲信越などにもU・Iターン支援の事業を広げる株式会社エンリージョンの江口勝彦代表取締役は「Uターンを考える人の多くは、子育てを地元でやりたい20歳代後半から30歳代。もしくは、親の介護が必要となった40歳代以上世代。彼らは、働き盛りの時期で家庭もあるため、首都圏と比較して年収が低下する傾向の大きい、地方への転職に踏み出せないことが多い」と説明する。
そうした「転職活動に足を踏み出せない」人々を支援しようという企業は、ここ数年、新潟県内でも増加してきている。エンリージョンでは、首都圏で経験を積んだ人材へ一定のポストを用意する企業などピックアップし、企業と転職希望者の両者にとって満足のいく雇用条件が提示できるよう業務を行っているという。
また、株式会社絆コーポレーション(新潟市中央区)の「絆エージェント」事業では、転職希望者に専任コンサルタントをつけ、細やかなヒアリングと企業訪問による情報収集といった手厚い支援を特徴とし、また首都圏にいながらの相談も可能なサービスを展開している。
なお、絆コーポレーションの小川潤也代表取締役自身も新潟市(旧・巻町)出身。社員も新潟出身者を採用し、土地勘や地元の視点を生かした地域密着のコンサルティングを武器にしている。
企業同士の結びつきが強い地方においては、地域内にある他社からの有能な人材の転職やヘッドハンティングが行いにくい。そうした場合、首都圏の企業で経験を積んだ人材は貴重であり、U・Iターンは企業側にとってもメリットが大きいようだ。
テレワークで広がる遠隔地での仕事
近年、特に新型コロナウイルスの感染拡大によって注目を浴びているのがテレワークだ。新潟県の花角英世知事がワーケーション施設の整備により県外テレワーカーの呼び込みに期待を寄せる発言をするなど県行政でも関心が高まっているようだ。
そうした流れを受けて、2020年には多くのコワーキングスペース・ワーケーション施設が開業した。この現状から先駆けて、2016年に新潟市関屋浜で開業した「Sea Point NIIGATA」でも利用者が増加していると同時に、コワーキングスペースという空間で異業種同士の交流が生まれ、新たな事業や起業の発端にもなっているという。
一方で、未だテレワーク可能な職種は限られており、転職や移住のハードルは低くないのが現状だ。そこで、まずは副業という形で地方との繋がりを築き、土地への知識やネットワークを広げながら、移住という選択肢を手の届く高さにまで変えていくことを提案しているのが株式会社リペリア(新潟市中央区)である。
リペリアでは、都会にいながら地方の企業で働ける副業を検索できるサイト「ともるい」を運営。2020年2月からサービスを開始し(4月から6月は新型コロナウイルス拡大の影響から一時的に停止)わずか1年弱で、募集を終了した求人も含めた掲載企業は約20社。副業を探す利用者は約300人に登っており、今後の成長が期待される。
新潟大学大学院在学中にリペリアを創業した若き起業家、室田雅貴氏は「私たちは“ルーツのある土地に移住する”という意味で”Rターン”という言葉も使っているが、自分の出身地や思い入れのある場所など、好きな土地に暮らすことのできる社会を作りたいと考えている。今後は、例えば経理職など”本当は出社しなくてもできる仕事”へのIT技術の導入をさらに進めることで、人材の流動性を高めたい」と、人が住む場所を自由に選択できる社会の実現を語る。
地方への密着と独自の試み
湯沢町に拠点を置く株式会社きら星も、湯沢町と南魚沼市への移住をサポートするサイト「暮らしごと」を運営。特定市町村への密着を大きな特徴とするこのサイトでは、仕事の紹介に留まらず、地域の補助金制度や暮らしのレポートなど総合的な情報の提供も豊富だ。
さらに、地元企業や自治体と協力の元、最短1日から湯沢と南魚沼の生活を体験できる「お試し移住」といったユニークでより実体験を伴った試みにも挑戦している。
県内のU・Iターンを支援する活動の中でも独創的な提案をしているのが、自身も神奈川県から長岡市へ移住した村上孝博氏だ。村上氏は定年退職後に米粉パン屋を開業。そのノウハウと人脈を生かし、農村の資源を用いて、移住による生きがいの創出と過疎化・高齢化が進む新潟の農村地帯の活性化の両立を目指している。
村上氏に移住希望者の現状を聞くと「現在はコロナ禍の影響で首都圏から面談や見学に来る人は居ないが、長岡を見てみたいという声はよく聞くようになっており、様子見をしている人が多い印象がある。また、当初私の活動は定年退職後のシニア世代を念頭に置いていたが、実際には主婦層や40代の方からの相談も多い」という。村上氏は現在、新型コロナ収束後の始動を目指し準備を進めている。
移住を勧める県の施策
県でも産業労働部にU・Iターン支援就業促進班を設置するなど、起業家の創出や県外企業の誘致と並び、移住者の誘致には力を入れているようだ。U・Iターン支援就業促進班の主な活動は3点で、1つ目は情報の発信。移住者をゲストにしたセミナー(現在はweb上での配信が中心)や県のポータルサイトなどを通して、地方の魅力や補助金の情報などを告知している。
2点目は、受け入れ態勢の整備。移住者へ対する補助金を使った金銭的な援助のほか、特にIターン者のような移住先との縁が薄い人に対してコミュニティへの紹介などを行い、移住しやすい環境づくりに注力している。3点目は、東京への相談窓口の設置である。
U・Iターン支援就業促進班の担当者は「移住促進の為には、移住を考えている人の背中を押すことのできる情報が伝えられるようにすることが重要」と話した。
今回紹介した企業と個人は、いずれもU・Iターン組。「好きな土地に住める社会を創りたい」という想いと、人と仕事の関わりに変化をもたらそうという考えに突き動かされた人々だ。先駆者であり、そしてまた先導者である彼らの活躍は、「新たな働き方」というだけではなく、日本の仕事へ対する価値観や産業の構造へも革新を与えていくだろう。(文:鈴木琢真)
【関連リンク】
株式会社絆コーポレーション(絆エージェント)
村上孝博氏 noteへの投稿
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