【再掲載】未来に向けた「3つの貢献」、フラー株式会社(新潟市中央区)渋谷修太代表取締役会長(下)
【インタビュー・前編】からの続き
フラー株式会社(新潟市中央区)の渋谷修太代表取締役会長は、10周年の節目の自叙伝本「友達経営」を出版した。
本書では、長岡高専時代に出会った友達がビジネスパートナーとなり、それぞれの夢を実現させる場として会社を経営する渋谷会長の想いが語られており、起業を目指す若者たちの新たなバイブルとなりそうだ。
「友達経営」のあとがきには、これから行っていく社会貢献として、「新潟」「高専」「起業家育成」の3つのキーワードを挙げている。
インタビュー後編では、渋谷会長が掲げる「3つの貢献」について話を聞いた。
「新潟」のポテンシャルを活かす課題は2つ
——渋谷会長が新潟に戻り2年が経ちました。あらためて「新潟の可能性」をどう感じていますか。
渋谷会長 新潟の可能性って、ここ2年住んでいる中で、本当にたくさんあると思っています。そのひとつが、11月5日6日に朱鷺メッセで行うイベント「クールジャパンEXPO in NIIGATA」です。これなんてまさに最たる例で、新潟には世界的に誇れるものがすごくたくさんあるんです。
新潟といえばお米やお酒ですが、それ以外にも、錦鯉とか花火とか、燕三条の伝統工芸品とか。新潟はやはりすごいポテンシャルを持っていると思っていまして、その理由を考えたときに、「豊かだったから」という結論に至りました。
——「豊かさ」といえば、明治時代の新潟は全国で一番人口が多かったそうですよね。
渋谷会長 そうですね。そのために農業が栄えていって、結果として文化が栄えました。なぜ「クールジャパンEXPO」が新潟で初開催するのかというところに繋がるのですが、実は新潟にはジャパンらしいものが結構にあるんです。これからの未来を考えると、すごくポテンシャルを秘めています。
——新潟のポテンシャルを活かすための課題はなんでしょうか。
渋谷会長 課題としては大きくは2つあって、1つはデジタル化への対応です。デジタル化の遅れがあると、世界へ届けることができません。したがって、新潟はデジタル化し、効率化していかなければなりません。
もう1つが、縦割りへの課題です。
例えば、錦鯉なら錦鯉協会があり、日本酒なら日本酒協会がある。これらを売っていくときには、セットで販売したり、コラボレーションしたりする必要があると思います。
コラボレーションが生まれにくい縦割りだと、オープンなイノベーションが生まれにくい。様々な業界とのオープンイノベーションを進めていければ、とても可能性があると思います。
——渋谷会長は今年、新潟県から「IT企業誘致アンバサダー」に任命されました。新潟県への企業誘致促進についてはどのように考えていますか。
渋谷会長 新潟は首都圏からのアクセスの良さなど、さまざまな利点があるのですが、まずは選択肢に上がってもらわないといけないんです。今までだと、IT企業が拠点をつくる先としては、福岡のイメージが強いんですよね。福岡には、LINEの子会社(LINE Fukuoka株式会社)など、いろいろな会社が集まっています。
これは何故なのかというと、理由の1つは、しっかりとPRをしてきたということです。福岡市の髙島宗一郎市長は、IT系の経営者が集まるカンファレンスに行って、毎回プレゼンしているんですよ。「福岡に来てください」と。それだけで、もう選択肢に入ります。
さらに、IT企業のコミュニティって狭いんです。経営者同士がだいたい繋がっているし、IT企業となればFacebookで絶対全員が友達の友達くらいになっています。
そう考えると、既に誘致されてきた僕らみたいな企業がある中で、その経営者たちが身近な人たちに声をかけていった方が、企業誘致につながる確率が高いですよねという施策です。
——新潟県は企業誘致に対して、特に力を入れている印象ですね。
渋谷会長 そうですね。本当に県は頑張ってくれていて、以前どのように進めたらいいかとヒアリングに来ていただきました。このIT企業アンバサダーは、ヒアリングの翌年にできた制度で、花角知事をはじめ、熱心に企業誘致をやってくれているので、今しかないなという気がします。
地方創生のカギは「高専」
——書籍の中で触れていた「高専」というキーワードについて教えてください。
渋谷会長 地方創生とデジタル化の2つを掛け合わせて考えたときに、やはり高専(高等専門学校)が一番のカギになると思っています。
高専は全国に57校あって、だいたい地方に点在しています。僕らであれば、長岡高専なのですが、この高専の人材の価値が最近見直されるようになっています。デジタル人材であるとか、アントレプレナーシップ(起業家教育)という面でもそう。最近でいうと、サステナビリティや環境系の学科などもあるなかで、「高専」もっともっと価値を発揮してほしいなと思っていました。
そのような思いから、実は今年の5月に「高専人会」という財団法人の組織を立ち上げました。
——「高専人会」の立ち上げは、どのような狙いがあるのですか。
渋谷会長 今年で「高専」っていうものが設立されて60周年を迎えます。この60年で、高専生は50万人以上いるわけです。これがネットワーク化されれば結構強いという仮説のもと作った組織です。
また、財団法人にした理由にはいくつかあって、1つは57校が点在している高専への寄付対象をつくり、有効活用する仕組みをつくるためです。
例えば高専OBで事業に成功した人がいて、寄付をしようというとき、高専単体に対して寄付を行っても、全体として良いことが起きにくいです。そこで、高専会という組織を作って、そこに寄付をしていただく。そこで、我々の方で高専全体として有効な活用をしていこうと考えています。
——高専全体への活用とは、例えばどんなことですか。
渋谷会長 資金の用途については、いくつか案が上がっています。例えば、高専生は5年間学校に通って、その後、就職したり大学に編入したり、高専の専攻科に行ったりするんですけれど、普通の高校から大学へ行くルートと違って、抜け落ちている仕組みがいくつかあります。
例えば、海外留学をしたいとなった時、対象となる奨学金のジャンルがとても狭まってしまうという話を聞きました。
ある高専生がF1のメカニックになりたいという夢があり、イギリスへ留学を考えましたが、奨学金がもらえなかったそうです。そこで、クラウドファンディングを行って、何百万円か集まって留学が出来たという話がありました。
これって、もっと再現性持たせないといけないと思いました。こんな高専生を海外へ送り込んでいきたいと。留学するときのための奨学金制度のようなものを、この財団があれば実現することができる。現役の学生たちに対し、OB達が還元するしくみです。
あとは、OB同士がネットワーク化されて、相互に助け合うことができる組織にしたいと考えています。
——今後、「高専人会」をどのように運営していきますか。
渋谷会長 まずは年に1回の連合同窓会を企画します。高専のOBが一同に会せる会として、今年の第1回は東京高専会としての開催が決まりました。持ち回りにして、毎年どこかの地域の高専会でやろう企画しています。
こんなかたちで、OBのネットワークづくりや、成功したOBたちが高専生に還元していく。その仕組みを作っています。
「起業家育成」生み出すだけではなく、生存させていくこと
——「起業家育成」についてお聞きします。現在、新潟ベンチャー協会の理事をされておりますが、今後どのように貢献されていくお考えですか。
渋谷会長 11月末に「新潟ベンチャーサミット」という大きなイベントを行います。毎年行っているピッチイベントでは、今年はそれを予選にして、サミットの本選に何人かを厳選して送り込もうとしています。このように、どんどんと規模感を大きくしていこうと考えています。
今、新潟県の政策もあって、スタートアップ拠点がいくつも新潟県内にできてきていますよね。それぞれある程度コミュニティが育ってきているのですが、一堂に会したことがこれもないんです。
全国だとよくベンチャー企業の経営者が集まるカンファレンスを年に何回もやられていて、僕もよく行っているのですが、その「新潟版」を作ろうということで、サミット化してみました。
——新潟における起業気運の高まりはいかがです。
渋谷会長 起業家育成は2年前くらい前から始めていまして、最初やっぱり起業家集めて何かしようとなっても数名だったのですが、もう今は平気で数十人が集まるような形になってきています。
これが100人、1000人集まるという状態に、3年から5年で持っていければ、結構変わる。起業というのがもっとありふれていて、そしてそこに雇用が生まれていく。そんなビジョンを持っています。
——どのようにして起業家を増やしていこうと考えていますか。
渋谷会長 個人的に今一番心配しているのは、生存させていくこと。生まれてきた後のケアって、行政でも結構手が回らないというふうに思っています。どうやったらみんな生存させられるかを考え、最近では、東京や新潟に関係がないネットワークに、新潟の起業家を送り込んでいくという方式に変えていっています。
IT企業化のカンファレンスの全国版がいくつかあるのですが、そういうところに送り込んだり、みんなを連れていったりしています。次は10月に福岡であるのですが、もう10数人を連れていきます。
新潟にはそういうアクセスがなかったんですよね。東京にいると、そういうものに自然に誘われたりするんですけど、新潟だとはやりそこでの接点がなかったんです。その接点を作ってあげていこうということをやっています。
新潟の課題は、日本全体の共通課題
——「3つの貢献」によって目指す新潟の未来像はどんな形ですか。
渋谷会長 これまで話してきたとおり、新潟にはポテンシャルがたくさんあります。その一方で、新潟の価値を最大限に発揮できていないんです。眠っているリソースと、流出している学生たち。この2つを元気にさせて、マッチングさせていくことで元気になると思います。
それには、新潟のデジタル化や、高専ネットワークの強化、起業家育成が大事だと思っていて、僕がやっていることはそれぞれが結びついているんです。
わかりやすい「未来像」としては、今100人くらいの規模になった新潟県内のいくつかの起業家を、1000人規模にまで伸ばしていきたいと思っています。そうすると、当たり前に起業している人が増えてくる。まずは、数を増やすことです。
それともう一つは、長続きする会社をつくるという事もすごく大事なことです。そちらの方も、個人的にはやっているのですが、何かもう少し仕組み化ができたらと思っています。まずは、数を10倍にして、生き残る年数も10倍くらいにしなければいけない、そんな課題を持ってやっています。
——新潟での成功事例を増やしていくお考えですか。
渋谷会長 やっていることは、世の中に必要だねっていうこともやっていて、それが全部結びついているんです。その大きく分割すると、「新潟」のような地方という意味合いと、「高専」と、「起業家育成」なのですが、結構は全部1つのトピックで、実は日本全体のトピックです。
今、実は他の地方でも近しいような動きが徐々に出てきています。沖縄では新潟の事例を見て、スタートアップ協会が立ち上がったり、それこそ元々うちで働いていた人が、茨城でベンチャー協会を作ったりとか。それで、交流会をするということもやっています。
要するに、新潟でやっているこのモデルというのは、全ての地域の共通課題だと思っているので、僕自身としては、新潟をという思いは当然地元だからあるものの、日本全体の課題解決というふうに思っています。
(文・撮影 中林憲司)
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