新潟県柏崎市で小型モータ業界の先陣を走る株式会社五十嵐電機製作所
モータ産業のパイオニア企業
株式会社五十嵐電機製作所は1952年の創業。神奈川県川崎市で起業し、1972年に創業者の出身地である新潟県柏崎市に工場を設立した。長年、小型直流モータ(直流電源で回転するモータ)を作り続け、家電から自動車まで幅広いニーズを獲得している。
五十嵐電機のモータ事業は、自動車用がグループ全体の約8割を占める。「自動車用」と一言で言っても、トランクオープナーやパワードアといった扉に関わるものや、シートなど内装に関わるもの、エンジンの動作に関わるもの、電動パーキングブレーキと呼ばれる電気的にブレーキを調整するものなど、その用途と形状は細分化され非常に多岐にわたる。
五十嵐電機は特に扉に関わるものと、エンジンの動作に関わるものに強みを持ち、欧米の自動車部品メーカが主な販売先となっている。柏崎工場でも海外への輸出品を生産している他、国内の自動車部品メーカ向けにも生産を行っている。
自動車用の分野で新たに受注が増え始めているのが、電気自動車への部品の提供だ。従来の化石燃料自動車は、エンジンの回転を利用してエアコンなどの設備を駆動させていたが、電気自動車は当然のことながらエンジンを回すことはなく、直接モータを電気で駆動させる。そのため、今までエンジンの動力に依存していた設備にも個別のモータが新たに必要となってきているのだ。
自動車用以外の用途に目を向けると、家電では掃除機のブラシを作動させるモータは国内シェア9割を誇り、柏崎工場はその生産の一翼を担っている。
強みとなる五十嵐電機のカスタム性
工業界において現在無視することができないのが中国ローカルメーカーの存在だ。多くの産業と同じく、強固な生産体制と低コストを実現する中国製品は自動車用モータ業界でシェアを広げている。こうした状況で五十嵐電機の強みとなってくるのが、部品提供先に合わせたカスタマイズと、それを実現する技術力・開発力である。
提供先に合わせた開発が必要となる一例は、高級車の製造だ。高級車は今まで手動だった部分が自動化される事例や、高級感を演出するための装備など、独自のモータを新たに開発する必要性が出てくる。中国ローカルメーカは現在、既存製品の低コスト生産を得意とするものの、カスタマイズは未だ五十嵐電機に一日の長がある。こうしたニッチなニーズに積極的に参入可能な点が、五十嵐電機の強みなのである。
技術力のために、国内で生産し続ける
2020年に感染拡大した新型コロナウイルスは、産業界に大きな打撃をもたらした。五十嵐電機でも、インドをはじめとする海外の生産拠点が1ヶ月以上のロックダウンを余儀なくされるなど大きな影響を受けた。柏崎工場も県外や欧米の取引先企業との商談の機会を失ったが、そんな困難な中でも生産高は2019年実績を上回った。これまでに培ってきた取引先企業との強固な関係性とそれを実現してきた技術力・開発力があったからこそ成しえたことである。
五十嵐電機の今後の展開について、五十嵐電機柏崎工場の藤沢高省工場長は、独自商品の開発を挙げる。「モータに止まらず複数部品を組み合わせた独自のユニットの開発も進めている。モータ周辺ユニットもセットにして販売することにより、お客様にとってはトータルコストを下げることができ、一方で弊社は、モータ製品から高付加価値なユニットへ販売を切り替えることで、利益率を上昇させることができる」(藤沢工場長)。
現在は電動ベッドのリフターなどでこうしたユニット販売を進めているという。今までに築いてきた取引先との関係性を利用した部品調達や、地元企業との協業も視野へ入れ、アッセンブリメーカーとしての展開が注目される。
そして、藤沢工場長は自社のモータについて「参入しないという業界は無い」と話す。前述の通り、五十嵐電機の強みはカスタマイズ性であり、今後は高付加価値の商品の製造も展開していく。しかし、業界の先端を走り続けることは、高級品に携わるだけではない。
「先進的な機能というのは、徐々に業界全体へ広がっていく。例を言えば、自動車の窓の開閉は手動だったものが今では電動が当たり前になっているし、扉の開閉も電動が主流となりつつある。パイオニアとして先に開発へ取り組むことができるのはそれだけでアドバンテージであり、携わった先進技術が普及すれば、大きな利益をもたらす。この柏崎の地で、高い技術力によるものづくりを続けることができる体制を保ち続けたい」(藤沢工場長)。
業界の先陣を切ることで、次の時代のスタンダードも作っていく──そうしたものづくりを五十嵐電機は柏崎の地から世界へ発信していた。(文:鈴木琢真)
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