【単独インタビュー】3年ぶりのフル開催を実現したにいがた総おどり、総合プロデューサー岩上寛氏
2022年9月17日から3日間、新潟市内全7カ所で日本最大級のオールジャンルのダンスフェスティバル・にいがた総おどりが開催された。
パンデミックの影響により2020年は中止となり、存続をかけたクラウドファンディングを実施。2021年は3日間完全オンライン配信による開催を行い、今回3年ぶりに有観客のリアル開催が実現した。
開催から約1ヶ月、総合プロデューサー岩上寛氏のインタビューから、3年ぶり・パンデミック禍で開催した思いや目の当たりにした現実、21年目を迎えたにいがた総おどりの意義など、文化と祭りの現在と未来を問う。
ー3年ぶりのフル開催、おめでとうございました。パンデミック禍での判断や運営には、難しいものがあったのではないでしょうか?
開催を諦めている期間、人と文化のつながりや文化の持続可能性の要が「お祭り」なのではないか、と改めて強く感じていました。文化があることで人のつながりや安心感、地域で暮らす喜びなどが守られていて、この3年の間に文化を失うことで排他的な空気や精神にも不調をきたす人もいたり、どういった形にしても文化活動を戻していくべきだと思ってきました。
例年、参加要項を発表してエントリーの受付が始まるのが開催前年の12月ですが、状況を見ながら今年はギリギリの6月の上旬に発表。参加募集期間はわずか1ヶ月半でした。「フル開催をする」と発表しても状況は刻々と変化するので、イベントフェンスなど感染症対策を準備しながら、最終週までずっと最善の対応を試行錯誤していました。
ー公式の発表によると踊り子8,000人、観客動員数12万人が参加したということで、数字的にはパンデミック前よりも減少こそしましたが、これまでの自粛の風潮の中では大きな反響だと思いますし、現場の熱気は例年を上回るのではと感じるほどでした。
この3年の間に解散してしまったチームももちろんありました。しかしエントリーしてくれたチームはどこもブランクを感じさせず、むしろ洗練されていたり、スケールアップしたりしていて、活動に意義や根のようなものを感じる場面が多々ありました。
にいがた総おどりはオールジャンルの踊りのお祭りなので、ジャズやヒップホップ、民謡など様々な演舞が披露されますが、今年はエリアもジャンルもさらに多様になりました。新潟県外からのチーム参加は2019年と比べて割合は増えて、全体の約4分の1を占めています。チーム参加だけではなく、総おどりオリジナルプログラムへの個人参加も多く、いよいよにいがた総おどりが文化交流の拠点になってきていると感じています。
ー現場で取材をしていても、「(にいがた総おどりオリジナルのプログラム)華鳥風月を踊りに来ました」「3年ぶりに帰ってきました!温かいお祭りで大好きです」など、県外から熱い思いを持って来県されている踊り子たちの声の多さに驚きました。
4部作である華鳥風月は個人参加のプログラムで、東京の講習会をはじめ全国に広まっていっています。にいがた総おどりから生まれた下駄総おどりと同じく、いつものメンバーとは違う様々な世代の人たちとその都度その瞬間に作り上げていく作品です。難しさもある分、やり遂げていくプロセスの中で生まれる熱量やたどり着ける境地がすごく深い、価値があるものになっているのではないでしょうか。
―会場を見ていると、スタッフの年齢層が全体的に若い印象です。
20代の社会人や学生が中心です。例年みんな頑張っていますが、今年は本当に頑張りました。運営する実行員会のメンバーは、にいがた総おどりのホストチームの踊り子たちです。彼ら全員が集まって踊れるのは2日目の万代十字路で行われるフィナーレのみ。そこに至るまでには何回も限界を超えて運営や踊りの準備に奔走しています。でもその分、あの場所に立って得られるもの、それが「今、ここに、新潟に生きているんだ」という実感です。
お祭り作りに一生懸命関わった分だけ、その人にとって新潟という場所が特別なものになっていく。そういうものをたくさん持つことは、生きていく中で宝だと思うんです。それは心寄せる場所であったり、新しい場所に行っても頑張れる原動力であったり、そしてまた帰ってきたときに再び活躍できる場所にもなるだろうし。帰る場所、故郷なんだという風になれたらすごくいいですよね。
―パンデミック禍で不要不急とも言われた文化活動。お祭りづくりの中断・復活を経て改めて今感じるところをお聞かせください。
パンデミックを経験して、改めて文化活動に必要性や手応えを感じたし、だからこそやり続けていく価値がある=本物をやりたいと思う人たちが繋いできたと思います。文化は続けることが大変だけど、続けることにものすごく価値がある、だからどうやったら続けられるかという時に祭りが絶対必要になると思うんです。
参加者や観客からの反響で大きいのは、楽しんだりすごく感動したという声。さらに刺激を受けたり与えたり、出会いがあったり、インスピレーションが生まれたり…。そういう力を文化が持っているとするならば、その文化を続けていくためにも祭りが必要になってくることを、改めて僕らも感じました。
ー一方で、3年ぶりの開催で見えた課題はありませんでしたか?
いっぱいですね(笑)。にいがた総おどりの大事なことは、新潟の、本当に普通の市民が主体となって手作りでチャレンジし続けていることだと思っています。手作りだからこその難しさも良さもあるわけですが、お祭りを作るミッションをたくさんの人がシェアできて、大変だけど楽しみながらみんなが活躍していける組織を作っていくことが1番の課題です。
僕自身、昨年から総合プロデューサーの職務に就きましたが、自分ができる限界ではお祭りは成長していくことができません。もっといろんな人の手を借りたり、次の世代を育てていかないと。さまざまな世代、踊る人、見る人、作る人、OG・OB…たくさんの人たちの思いをまたいただきながら、一緒にこれからのお祭りを作っていきたいです。
―2022年のにいがた総おどりならではのポジティブな発見はありましたか?
今年初めての試みだった提灯にスポンサー企業名を入れる「提灯協賛」はとても好評で、お店の装飾用など希望する企業にはお持ち帰りいただけるようにしました。企業やお店の方たちも楽しみながら支援できる体制は、持続可能なお祭りづくりにも大切だと思っています。
提灯で作ったゲートの前が写真を撮ったり楽しむ場所になっていたので、応援してくださる方と楽しむ方がお祭りの中で繋がれる仕組みは、現地にいる人はもちろん、当日来られない人も楽しめるお祭りづくりにいいですね。
ー当日来られない人というと、昨年に引き続き、オンライン配信も行われていました。
オンライン配信を見て、チームに入りたいという声や、クオリティが高かったから臨場感があって楽しめたという反響が届いています。実は昨年のオンライン配信は色々と失敗がありました。今度は自分たちでトラブルのない配信をとテストも重ねて、3日間無事配信をすることができたりと、。去年の失敗が今年の成功に繋がっていることもたくさんあります。
ー今後の展望について、教えてください。
改めて、すごいお祭りだなと思ったんです。僕の中学生になる娘は、何のてらいもなく「もっとたくさんの人に知ってもらうべきだ」って言ったんです。本当に感動するので、日本を代表するお祭りに名乗りを入れられるように、たくさんの人に見に新潟に訪れてもらうものになるために、これからまたやっていきます。
関わる全ての人に本当に喜んでもらえる祭りにするために、今年やり残したことはたくさんあります。
子どもたちが祭りの風景を見たときに、「私たちはもしかしたら一つになれるかもしれない」と思える風景を作りたいんです。肌の色や、国籍や障がいの有無…一見価値観が違いそうな人同士が一緒になれる場を作ることが、一番たくさんの人が繋がれる可能性を感じられる景色なんですよね。それが2023年、どれだけできるのかということを、今考えています。
(文・丸山智子)
(協力・有限会社にいがた経済新聞社)
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本記事は、新潟総踊り祭実行委員会提供による記事広告です。