連載① 流通最前線「コロナ禍で今後生き残っている流通の業態はどこか」
「コロナ禍を乗り越えた時、流通業界の風景は一変しているはず」と話すのは、ある大手小売業の幹部だ。従来の消費行動は静か変質し、流通業界もそれに合わせて変革を迫られている。今後生き残っている流通の業態はどこか――。
日本チェーンドラッグストア協会の池野隆光会長は今年の正月、「ドラッグストア市場は現在の7兆6859億円の市場規模から今後は10兆円、いや20兆円だって見えてくる」と話し記者達を驚かせた。記者の中には池野会長の発言に半信半疑だったようだが業界団体の長の発言だけに「あるかもしれないな」という印象を持った記者も少なくなかったはずだ。
実際、コロナ禍流通業界では、成長を続けている業界と停滞している業界と明暗を分けている。コンビニや大型スーパーはさえないが、食品スーパーは巣篭もりで伸び、それを上回る勢いがあるのがドラッグストアだ。
消費者のドラッグストアへの〝日参〟は新型コロナの感染拡大で拍車がかかった。マスクの購入に連日、ドラッグストアの店頭には行列ができたのは記憶に新しいが、ドラッグストアの品揃えの充実ぶりをマスクの購入に訪れた消費者は改め実感したに違いない。
ドラッグストアは今や新しいニーズを満たすのに十分な品揃えだ。食品といっても加工食品だけではない。チルド食品はもちろん、冷凍食品に加え、生鮮食品を自前で加工センターを持ち供給している北陸地盤の「ゲンキー」を運営するgenky drug storesなど業態も多様化している。
従来のような医薬品、化粧品、日用品、調剤という枠組みにとらわれず成長を続けるドラッグストアと競合が激しくなってきた食品スーパーや、コンビニエンスストアの首脳の警戒感は日増しに募っている。
「うちが食品スーパーを1店作るとそれほど間を置かずして周囲にはドラッグストアが数店、コンビニが数店と出来ているということが当たり前になってきた」。バローホールディングスの田代正美会長兼社長はこう話し流通の生態系の秒速の変化に舌を巻く。
食品スーパーもコロナ禍での在宅勤務の増加や、外出自粛の恩恵を被り好決算をたたき出すチェーンが少なくないが、ドラッグストアはそれ以上。まさに、食品スーパーやコンビニの領域に一気呵成に攻め入っている。
コンビニではコロナ禍以降、既存店売上高は2ケタのマイナスを記録するチェーンが多い。コンビニトップのセブン―イレブンの既存店売上高は一進一退が続くが、2位のファミリーマート、ローソンのそれは一貫して下がっている。ドラッグや食品スーパーにお客が流出していることも一因だ。
コロナ禍で流通業界はこれまで経験したことのない変化に遭遇している。百貨店が営業の自粛で大きな痛手を被ったし、ショッピングモールを多店舗展開するイオンも巣篭もりで総合スーパー(GMS)が不振。20年3―11月期の当期損益が625億円の赤字だ。
加えてコンビニや衣料品業界の不振とまさに、流通業界は巣篭もりで日常必需品を扱う食品スーパーやドラッグストア堅調だが、百貨店やSCは大きく落ち込んだしコンビニも低迷が続く。
明暗を分けている格好の流通業界、果たしてコロナ禍が沈静化したその時、流通業界の勢力図はどうなっているだろうか。
「現在のドラッグストア、食品スーパー堅調という流通の景色に変化はないとみられるし、むしろ、その様相は鮮明になっている」(ある流通のコンサルタント)とみる。流通はコロナ禍を契機に新たな勢力図を描くことになりそうだ。
流通ジャーナリスト 青山隆
流通専門誌、大手新聞社記者を経て、流通ジャーナリストとして活動中。青山隆はペンネーム。