「認知症の人も、そうではない人も、お互いに助け合える地域社会を」「ひとのわ・ルナの会」が「通いの場」づくりを実践

「ひとのわ・ルナの会」を主宰する松本妙子さんが会をコーディネートする

高齢社会の進展に伴って、65歳以上で、認知症を発症している人の割合が増加している。公益財団法人生命保険文化センターの推計によれば、2020年現在、65歳以上の高齢者の認知症有病率は全体の16.7%になっている。割合でいうと、実に「6人に1人が認知症」ということになる。そのような中、政府は、令和元年に「認知症施策推進大綱」を取りまとめた。認知症に対する予防策のひとつとして、高齢者が身近に参加できる「通いの場」拡充などを推進している。

10年以上前から「通いの場」づくりを実践している市民団体が長岡市にある。臨床心理士で、新潟県立大学非常勤講師などを務める松本妙子さん(70歳・長岡市在住)が主宰している「ひとのわ・ルナの会」である。同会は、月に1度、定期的に集まり、脳活性ゲーム、折り紙など、脳が活性化するプログラムを市民に提供している。

「認知症の人も、そうでない人も、お互いに助け合いながら、楽しみながら過ごせる場所を作りたい」というのが会を立ち上げた松本さんの目的である。

15日、アオーレ長岡第1・2協働ルームで行われたイベントでは、「ミュージックベル」「パタカラ体操」「風船バレー」などで盛り上がっていた。「パタカラ体操」とは、「パ」「タ」「カ」「ラ」の4文字を発音することで口・舌の筋肉を使い、食べたり飲み込んだりする機能を鍛える体操のこと。童謡「夕焼け小焼け」を「パ」「タ」「カ」「ラ」の4つの音声のみで歌うなどしていた。

風船バレーを楽しむ参加者

松本さんが同会を起ち上げたきっかけとなったのは、70歳で認知症を患った母親の介護だったという。20年間における長い介護生活の中で、「自分も将来認知症になるかもしれない」という不安を抱くようになった。そして、「健康状態に備え、お互いに助け合うコミュニティ」として同会を立ち上げたという。松本さんは、「『予防』という言葉に抵抗」があり、「むしろ、『備え』という言葉を(意識的に)使うようにしている」という。

現在、同会に所属しているメンバーは、20~30人ほど。手話が出来る方や、折り紙を折るのが得意な方、理科を指導していた元校長先生など、個性豊かな人たちが参加している。お互いがそれぞれの得意分野を「講師」として披露し、他のメンバーがそれを習う。和気あいあいとした、楽しい学びあいの場となっている。起ちあげたばかりのときは、月に何度も集まっていたが、会を重ねるうちに、現在の毎月第3土曜日に集まる形に、落ち着いていったという。

この日、特に印象的だったのは、参加者の中に島津喜作さん(102歳)の姿があったことである。島津さんと松本さんとは、家族のご縁で繋がった。以来、時々、会にも顔を出して遊びに来てくれる。島津さんは、小学6年生の頃に「支那事変」(日中戦争)を経験した。この日、松本さんからプレゼントが贈られると、かなりご機嫌な様子だった。周囲に促され、自身の戦争体験などについて語っていた。

長岡市内から参加したという吉田真奈子さん(40代)・真実さん(30代)姉妹は、「元々自分たちの母親が楽しく参加できるイベントをインターネットで探していた」ところ、同会のことを知り「今回初めて参加した」という。1歳の悠(はるか)ちゃんと、4歳の凪ちゃんを、それぞれ抱きかかえながら「非常に楽しかった。次回も是非参加したい」と、楽しそうである。

1歳から102歳までの幅広い年齢層の参加者たちが、同じ空間・時間を楽しそうに共有している、とても素敵な「通いの場」となった。

戦争体験について語る島津喜作さん

初めて会に参加した吉田真実さんと悠ちゃん(左)、真奈子さんと凪ちゃん(右)

(文・撮影 湯本泰隆)

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