デザイン思考で新潟県産品をトータルプロデュースする株式会社ネルニード(新潟県三条市)
「食」は新潟を代表する産業の一つだ。平成29年度の新潟県の製造業における産業別出荷額では食品産業(食料品など)が第1位であり、また新潟県の米の栽培面積も全国1位。豊かな自然によって生み出される豊富な食物と、それを商品にする食品加工メーカーに恵まれている新潟県だが、多くの県内企業が販路拡大に頭を悩ませている。
こうした中、新潟県産の商品を関東圏に次々と発信している企業が2020年4月に設立した株式会社ネルニード(三条市)だ。ネルニードは商品開発からブランディング、販路拡大まで一括で行うブランド戦略のトータルプロデュース業を行っている。ネルニード代表取締役の遠藤智弥氏は新潟県新潟市生まれで、マーチャンダイジング(商品化計画)業務に携わって24年になるという。
遠藤氏は、会社設立に踏み切った理由を、「新潟には全国から見ても最高レベルの商品や商材がたくさんあると思っている。しかし、商品開発時にユーザーの利用シーンが詰め切れておらず、物は良いのに売れない商品や、素材の良さをマーケティングにまで生かし切れていない商品が多く、新潟で埋もれてしまっている製品事例も散見される。こうした状態を打破したいという想いがあった」と話す。
続けて、「ネルニードという言葉は、イタリア語で『巣の中』という意味で、この言葉は私にとって『新潟』を意味している。巣の中のように暖かく、ホスピタリティ溢れる新潟の商品をもっと全国へ発信し、様々な人に新潟の魅力を知って欲しい」と話した。
「新潟県の商材のレベルは全国でもずば抜けて高い」と言う遠藤氏。実際にネルニードがプロデュースした、黒米を利用して食の豊かさを届けるフードブランド「HIEN」は、県外の様々な場でコラボ販売やブース出展を展開し高い評価を受けている。
人が豊かになる商品を創る
遠藤氏はプロデュース業へ対する考えを「一番先に『どんな人がその商品を使うことで人生が豊かになるか』ということを考えなければならない。そこを詰めると、『ユーザーのライフスタイルにどうやって自社の製品が入り込むか』という部分が見えてくる。そこで初めて、製品のサイズ感やパッケージのデザイン、販売戦略などを立てることができる」と話す。
ユーザーに商品を使われるシーンから逆算し、販売経路を考え、そこにマッチした商品を開発する。必要があれば、一つのプロダクトに複数社も関わることもある。ネルニードが商品開発から出口戦略まで一貫して行うのは、商品開発を行うだけでなく、複数社の調整の役割を担う必要があることも大きい。
続けて遠藤氏は、「新潟が個々の地域のみでマーケティングを行っているという現状は、些か勿体ないように感じる。例えば、『新潟の物産展』という形での売り出し方はバイヤー目線だと、『扱いやすく魅力的な商材』という認識となる。なぜなら商品は豊富にありコンセプトも作りやすいからだ。現状だとバイヤー目線では、コンセプトとしても地域を推すしかできない『扱いにくい商材』となっている」と話す。
「個人的には新潟県という大きな枠で出口を一本にまとめた上で、一つの大きなブランドを作るべきではないかと考えている。様々な企業が参画し、一つの大きな集合体として様々なコンセプトを展開するようなプロダクトが達成できれば、新潟の商品が全国で取り扱われる機会も多くなるだろう」(遠藤氏)と語る。
都市圏は商材難で困っている
一方で遠藤氏は、「地方は商品の魅力をどう外に発信すれば良いか困っているが、逆に東京では魅力ある商品が無くて困っている。こうした地域間のギャップを埋める力が新潟にはある」と話す。
現在の消費は、『あれば買われる』という時代から、『自分のライフスタイルに合ったものを“選んで”買う』という流れにシフトしてきている。こうした感覚が一般化してきた理由として、「日本人のモノに対する審美眼が成熟してきた証だ」と遠藤氏は言う。現在、遠藤氏は『restaurant6』という、食に関わる企業が集合し、大きなブランドを創ろうとするプロジェクトも手掛けている。
作るだけでは売れない時代。この先、ネルニードが市場に対しどのようなプロダクトを仕掛けていくのか注目だ。(文:石井優)