「子どもの活動をサポートできる大人になりたい」長岡eスポーツクラブ(新潟県長岡市)のみつるさん
記者が子どもの頃、勉強もしないでテレビゲームばかりやっているとよく親に怒られたものである。ところが、2022年現在、子どもたちを取り巻く環境は一変している。教育現場ではICT教育が取り入れられ、タブレット端末で学習するということが日常的になりつつある。また、幼少の頃に親しんだ砂遊びでさえ、現在はAR(拡張現実)と融合したりなどと、ゲームの世界と現実が混ざったような、そんな不思議な遊びが誕生したりしている。
スポーツだってそうだ。かつてはスポーツといえば、肉体をフルに用いて競技を行うものだとされてきたが、2000年代初頭からゲーム機やパソコンなどのデジタル機器を使って技を競い合う“eスポーツ”なる分野が登場した。株式会社KADOKAWA Game Linkageによると、2019年時点での日本のeスポーツ市場規模は60億円を突破し、2023年には150億円超になると期待されている。現在、信じられないくらいの速さで伸びている産業である。
そんな世の中の流れに合わせるかのように、2021年8月、長岡市内で初めてのeスポーツクラブが誕生した。同クラブのオーナーはみつるさん(37歳)である。みつるさんは元々、お米の販売事業をやっていた。ところが新型ウィルス禍が発生し、対面での販売が困難になった。何か新しいことを始めたいと考えたときに、このeスポーツ之世界に目をつけたという。
「元々ゲームが好きだった」というみつるさん。20年以上前からオンラインゲームを通して仲間を作っていったというみつるさんは、有志でeスポーツの大会にも度々出場していたが、ある時期からオンラインゲームの世界から離れていった。そんなみつるさんが再びゲームの世界に戻ったのは、お子さんにNintendo Switchをねだられてからだという。
みつるさんによれば、1時間~円と利用料金を取り、eスポーツなどのゲームが気軽に楽しめるようなカフェスタイルの店舗は、少し前から全国的に広がりをみせているという。みつるさんが同クラブを立ちあげる以前は、新潟県内でもまだ新規参入がなく、業界的にもブルーオーシャンだった。そのため、施設の立ち上げに当たっては、事前に試算も打ち出したというから、なかなかの経営者ぶりである。ところが、計算してみるととてもではないけれど採算がとれない。一度はeスポーツカフェを出すことを諦めた。その後、たまたま近くで格安で借りられる物件が見つかった。そこを借りてジムのような形にし、無料で開放することで、人々が集まる場所にした。「ランニングコストを安くして、(利用者が)リアルで困っていることをヒアリングし、新しいビジネスチャンスを探る戦略」だという。そして何より、同スポーツクラブを通して、「ゲームの楽しさやeスポーツの可能性を、もっと長岡に広めたい」とみつるさんは想いを語る。
平日は、学校帰りの中・高校生で賑わっている。1台30万ほどのゲーミングPCが、大体7~8台は常に稼働しているという盛況ぶりである。休日には家族連れの姿がみえることもあり、親子間でのコミュニケーションにも一役買っている。
「国内には全国から集まった(eスポーツの)プロチームがあるが、地方のプロチームはまだ存在しない。(同クラブから)新潟発のプロチームを作る」ことを目指している。
「自分たちが中学生の頃は、ゲームばかりやっていると大人に怒られていた。今の中学生たちは本気でゲームをやっている。そんな子どもたちの活動をサポートできる大人になりたい」とみつるさんは語る。「ゆくゆくは市内の中学校の部活動指導にも関わり、eスポーツ部を作りたい」というのがみつるさんの狙いである。
今年の夏には、新潟市内でも専門施設が立ち上がり、ますます盛り上がりを見せるeスポーツ界であるが、今後もみつるさんと長岡eスポーツクラブの動向に目が離せない。
(文・撮影 湯本泰隆)