連載① 新潟初の本格モルトウイスキー「新潟亀田蒸溜所のウイスキーに対する思い」
新潟亀田蒸溜所(新潟市江南区)で、新潟県で初となるモルトウィスキーの製造が着々と進められている。新潟亀田蒸溜所(以下:同社)は、印鑑販売の株式会社大谷(新潟市江南区:以下、大谷)が設立した合同会社である。2018年に野村証券新潟支店などが主催した「新潟イノベーションプログラム」で、大谷を含めた3社がチームとなり発表したクラフトウィスキー製造の事業案を実現し、2019年3月に事業を立ち上げ大谷の本社工場の敷地内に蒸留所が建設された。
本来であれば昨年の春にウィスキーの製造を開始し樽熟成に入る予定だったが、新型コロナウイルスの影響で蒸溜機器メーカーがあるスコットランドや中国からの物資の供給がシャットアウトされた。それにより取り寄せる機械の到着に遅れが生じたため、ようやく本年からウィスキーの仕込みに入り、樽熟成をする段階まで来たという。樽熟成に入る時期は未定だが、近々熟成を開始し、そこから約3年間もの月日をかけて熟成される。そのため同社のウィスキーが販売されるのは約3年後の見通しだ。
ウィスキーが商品として販売されるまでの工程としては、“大麦を発芽させて乾燥→仕込み(糖化・濾過)→醗酵(発酵)→蒸溜→樽熟成(貯蔵)→瓶詰め”という流れになっているが、同社では麦汁を醗酵させる際に使用する槽をステンレス製・木桶の2種類を併用している。
ステンレス製の槽は木桶に比べると清掃が容易で、清潔に保てるので微生物管理に優れている。一方木桶は乳酸菌の繁殖を助け、ウィスキーに独特の風味を与えられる利点がある。他社ではステンレス製を使用する蒸溜所はステンレス製のみ、木桶を使用する蒸溜所は木桶のみと別れることが多いという。2種類の醗酵槽を使用している蒸溜所はそう多くないというが、同社では「両方やってみよう」という思いから2種類の醗酵槽を使うことでそれぞれ味わいの違うウィスキーを製造する。
新潟県でもウィスキーの蒸溜免許を持っている会社はいくつかある。外国から購入したウィスキーと日本産のウィスキーを混ぜて販売している会社もあれば、米焼酎の樽に詰めたウィスキーで蒸溜免許を取得した会社もあるが、原料である大麦を発芽、蒸溜するところから行ういわゆる本格的なジャパニーズウィスキーを製造する会社は新潟県では同社が初なのだという。
「最近になってクラフトウィスキーが流行してきたが、3年前はここまで流行するとは思わなかった」と話す同社取締役社長の堂田浩之氏。かつて、日本でもウィスキーを製造する場所が多く存在した。ウィスキーの本場・スコットランドのスコッチウィスキーは非常に高価だったため、日本では海外・ニッカ・サントリーなどから原酒を購入しブレンドして販売していた。
ところが1990年代、当時のイギリスの首相サッチャーが日本に酒税の撤廃を求め、貿易の自由化が始まったことによりスコッチウィスキーが流れるように日本に入ってきた。関税が撤廃されたことによって当時高嶺の花のような存在だった本物のスコッチウィスキーが手に入りやすくなり、スコッチウィスキーに人が流れてしまい日本のウィスキーメーカーは軒並み廃業していったという。
しかし、近年では小規模な蒸溜所の新設や改修が徐々に増えている。堂田氏は「最近になってクラフトウィスキーが流行してきたが“流行に乗って”とは思われたくない。このウィスキーには新潟イノベーションプログラムでチームを組んだ3社の思いが詰まっている」とウィスキーへの思いを語る。
続けて、「自社では基本的に軽めの、香り豊かで香り高いウィスキーを作っていきたい。県内、国内のみならず海外の人にも飲んでもらえることで、新潟の名を知ってもらえるという相乗効果が生まれるような取り組みをしていきたい。新潟の酒文化を大切にしていくために私達にできることがあればいいなと思う」と話した。
今後、同社ではバーボン樽、シェリー樽など数種類の空樽を利用して樽熟成を行ったり、将来的には海の近くや山で熟成を行うなど様々な製造方法に挑戦し、試行錯誤を重ねて多くの人に愛されるウィスキーを製造していくという。堂田氏は、「ウィスキーが完成するのは約3年後になってしまうが、本物のウィスキーを目指しているので今まで本格的なウィスキーを飲んだことがないような人や、ハイボールしか飲んだことがないという人にもぜひ一度飲んでいただきたい。新潟にウィスキーの文化が定着してほしい」と3年後のウィスキーの完成に期待を滲ませた。
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現在、同社では樽オーナーを募集している。3年後に出来上がる本格的なクラフトウィスキーに興味がある方は同社の公式HPから問い合わせてほしいという。
【関連リンク】
新潟亀田蒸溜所:https://www.niigata-distillery.com/