天皇陛下 61歳の誕生日
天皇陛下は23日、61歳の誕生日を迎えられた。誕生日に先立ち行われた天皇陛下の記者会見全文は以下の通り。
【記者】
宮内記者会の幹事を務めておりますフジテレビの宮崎と申します。天皇陛下におかれましては61歳の誕生日をお迎えになりますこと、記者会一同、心よりお喜び申し上げます。新型コロナウイルスの影響が長く続く中、陛下のお考えを、お気持ちを正確に伝えることは私たちにとってとても大切な役割だと考えております。本日こうして記者会見の場を設けていただきましたこと改めて心より御礼申し上げます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
では、一問目お伺いいたします。新型コロナウイルスの感染拡大により皇室の活動も制限され、天皇陛下が多くの国民と交流される機会も減りました。国民との直接のふれあいが難しい中、陛下は皇后さまと御進講を重ね、オンライン行幸啓を始めたほか、元日には国民に向けたビデオメッセージも公表されました。感染症の影響が長期化する中でコロナ禍の天皇や皇室のあり方、今後のご活動の方針についてどのようにお考えでしょうか。新しい取り組みについてのご感想とともにお聞かせ下さい。
【天皇陛下】
日本の歴史の中では、天変地異や疫病の蔓延など困難な時期が幾度もありました。これまでの歴代天皇の御事蹟をたどれば、天変地異等が続く不安定な世を沈めたいとの思いを込めて、奈良の大仏を作られた聖武天皇、疫病の終息を願って般若心経を書写された平安時代の嵯峨天皇に始まり、戦国時代の後奈良天皇、正親町天皇など歴代の天皇はその時代時代にあって国民に寄り添うべく思いを受け継ぎ、自らができることを成すよう努めてこられました。その精神は現代にも通じるものがあると思います。皇室のあり方や活動の基本は国民の幸せを常に願って国民と苦楽をともにすることだと思います。そして時代の移り変わりや社会の変化に応じて状況に対応した務めを考え、行動していくことが大切であり、その時代の皇室の役割であると考えております。
国民を思い、国民に寄り添う点で、災害で被災された方々、障害者や高齢者あるいは社会や人々のために尽くして来られている方々にも心を寄せ、ねぎらい、励ましていくことはとても大切なことです。それは私と雅子二人の自然な気持ちであるとともに皇室としての大事な務めであるとも思います。
この一年はコロナ禍に翻弄されてきました。愛する方を失ったご家族や、ご友人のお悲しみはいかばかりであったことでしょう。心から哀悼の意を表します。またコロナ禍の閉塞感からでしょうか、自ら命を絶つ人が増えていることも極めて痛ましいことで、皆でなんとか防がなくてはなりません。その一方で強い使命感をもって医療に取り組んできた方々や保健所などで現場の対応にあたってきた関係者をはじめ、高齢者や障害者など社会的に弱い立場にある人々を支えてきた関係者や、子ども食堂のような困難な状況に置かれた子供たちを支援してきた関係者など、多くの方々からお話を伺う機会を得、皆さんのありがたい尽力に思いをより深くいたしました。このような方々に対し国民の間で感謝の念を広く共有することができた一年となりました。
このところ新規感染者の数は幸いにして全国的に減少傾向に転じているようです。また新型コロナウイルスワクチンの接種も始まりました。今しばらく国民の皆さんが痛みを分かち合い、協力し合いながらコロナ禍を忍耐強く乗り越える先に明るい将来が拓けることを心待ちにしております。同時に現在の状況を見ると新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの国民の皆さんと直接触れ合うことが極めて難しくなっていること、私たち二人も残念に思っております。
このような状況の中で、人々との繋がりを築き、国民の皆さんの力になるために私たちに何ができるかを考え、宮内庁とも相談してオンラインでの交流の可能性が検討されました。昨年8月には新型コロナウイルス感染症大流行下の水防災に関する国際オンライン会議にお誘いをいただいてオンラインで聴講し、会議後に参加者の方々ともオンラインでお話ししてみたところ臨場感があり、人と人とのつながりを肌で感じることができました。そこで、その後さらに検討を重ね、昨年秋以降、オンラインで日本赤十字社の医療現場、高齢者や障害者の仕事や活動の場、そして今年に入ってからは昨年7月の豪雨災害の被災市町村を訪問し、それぞれ関係者の皆さんとお話をすることができました。
このオンライン訪問には感染症対策としての利点以外にも、同時に複数の場所にいる人々に会うことや中山間地域など通常では訪問が難しい場所でも訪問できるという利点があることを実感いたしました。この一年は公務に様々な制約が生じ、例えば新年の一般参賀を行うことも難しい状態でしたが、代わりにビデオメッセージで国民の皆さんに私たちの気持ちをお話することができたことも含め、オンラインによる活動に新たな可能性を見出せたことは大きな発見と言えます。地方を訪問する際の駅頭や沿道も含めて、現地で多くの方々と同じ体験を共有し、その土地その土地の雰囲気を肌で感じるなど実際の訪問でなければなし得ない部分はあるものの、感染が収束しない現状ではオンラインは有効な手段と考えられます。オンラインにはオンライン形(なり)の課題もあるでしょうが、引き続き状況に応じた形で活用していきたいと思います。
【記者】
二問目をお伺いいたします。ご家族についてお尋ねします 。皇后様は療養が続く中でもこの1年多くの活動をされましたが、体調や様子について陛下はどのようにご覧になっていますか。愛子さまは今年で二十歳になり成年皇族の一員となられます。入学した学習院大学に通学できない中でのお過ごしようや、父親としての向き合い方、将来の活動や結婚についてのお考えをお聞かせください。陛下は平成期、上皇様と秋篠宮様と定期的にお話をする機会がありましたが、直接顔を合わせられない中でどのようにコミュニケーションを取られていますか。
【天皇陛下】
雅子は新型コロナウイルス感染症の感染拡大による活動への制約などから体調を整えにくくなっている面はありますが、種々の工夫や努力を重ねながら幸いにして昨年も諸行事や諸儀式を滞りなく務めることができました。特に昨年の5月から6月にかけては初めての養蚕に取り組んだほか、11月には立皇嗣宣明の儀朝見の儀を無事に終え、また新年のビデオメッセージでは一緒に国民の皆さんにご挨拶ができたこと良かったと思っております。
ただ雅子は未だ回復の途上にあり体調には波があり、大きな行事の後には疲れがしばらく残る傾向があります。これからも無理をせずにできることをひとつひとつ着実に積み重ねていって欲しいと思います。また雅子は私の日々の活動を支えてくれる大切な存在であるとともに、公私にわたり良き相談相手となってくれております。私も今後とも出来る限り雅子の力になり、支えていきたいと思っています。国民の皆さんには、これまで雅子に暖かく心寄せていただいていることに改めて感謝の気持ちをお伝えするとともに、引き続き雅子の回復を温かく見守っていただければありがたく思います。
昨年の4月から大学生になった愛子は新型コロナウイルス感染症の影響によりオンラインでの授業が続いておりますが、昨年秋に初めて大学に登校した際に、「大学では新しい知識を得た時に感じられる喜びを大切にしながら様々なことに取り組んでいければと思っています」と語っていたように大学での勉強に意欲的に取り組んでいることを私と雅子も嬉しく思い、また少し頼もしくなったように感じております。
オンラインでの授業では課題もかなり多く、愛子もその一つ一つに一生懸命に取り組んでおり大変そうですが、授業を準備される先生方のご苦労も大きいものと思いました。私たちも愛子がオンラインで授業を受けているのをそばで見る機会もありましたが、私達自身も新たな知見を得ることができたり、何か学生時代に戻ったような気持ちになりました。
今後どのような状況の大学生活になるかは分かりませんが、愛子には有意義な学生生活を送ってもらいたいと願っております。愛子は普段時間のある時には屋外で運動も少ししたりしていますが、家の中で過ごす時間も長いので私たち家族3人で楽しく団欒する時間を大切にしてくれています。
また早いもので今年の12月で成人を迎えます。愛子が誕生した時の会見でも申しましたが、孟子の言葉を参考にした敬宮愛子という名前には人を敬い、人を愛してほしいという私たちの願いが込められています。それは20年経つ今でも変わっておりません。今後、成年皇族として公務にあたっていくことになりますが、今後も感謝と思いやりの気持ちを持って一つ一つの務めを大切に果たしていってもらいたいと思います。そして色々な方からたくさんのことを学び、自らの考えを深めていき、また今まで以上に様々な経験を積み重ねながら視野を広げていって欲しいと願っています。その過程で将来のことも含め私達で相談に乗れることはできる限りしてあげたいと思います。
上皇陛下や秋篠宮と直接会う機会が減っていることは残念ですが、上皇陛下や秋篠宮とは適宜連絡を取るようにしております。ただし詳細については回答を控えたいと思います。上皇陛下、上皇后陛下には新型コロナウイルス感染症の感染拡大にお心を傷められつつ日々を送っておられることと拝察いたします。どうかご無理をなさらずお体を大切に末永くお健やかにお過ごしいただきますよう心よりお祈り申し上げます。
【記者】
秋篠宮様の立皇嗣の礼が終わりました。陛下のご感想をお教えください。長女眞子さまは小室圭さんとの結婚についてのお気持ちを公表した文書で「天皇皇后両陛下が私の気持ちを尊重して静かにお見守りくださっていることに深く感謝申し上げております」と記されました。秋篠宮様は結婚を認める考えを示されましたが、陛下はどのようにお考えですか。お二人の結婚に関して国民の間で様々な意見があることについてどのように捉えていらっしゃいますか。
【天皇陛下】
延期されていた立皇嗣の礼関連の主要な諸行事が滞りなく終了した事に安堵しています。その立皇嗣宣明の儀において秋篠宮は、「皇嗣としての責務に深く思いを致し務めを果たして参りたく存じます」と述べたことを心強く聞きました。秋篠宮には皇嗣としてその職務もますます重いものとなっていきますが、秋篠宮妃共々体に気をつけながら務めを果たしていってもらいたいと思います。眞子内親王の結婚については国民の間で様々な意見があることは私も承知しております。このことについては眞子内親王がご両親とよく話し合い、秋篠宮が言ったように、多くの人が納得し喜んでくれる状況になることを願っております。