連載① 上松恵理子の新潟・ICT・教育「新潟がメインとしていた第一次産業にもデジタル化の流れ」
海の幸・山の幸が豊富で自然に恵まれ、明治時代の一時期、新潟県は日本一の人口だったことはご存じだろうか。その理由は稲作と海運が盛んな中で交易の拠点だったからである。
新潟はこれまで第一次産業が盛んだったこともあり、仕事に就くために高等教育を受けなくても特に支障が無かった時代が長かった。朴訥(ぼくとつ)でスキルの高いモノづくりにたけた職人が多く、遠方から文化が入ってきても、積極的には取り入れない印象がある。食料が豊富で十分な生活力があるという説もある。
ところが、新潟がメインとしていた第一次産業にも人手不足やデジタル化の流れがやってきた。ICT化に乗り切れていないのが現状である。そういった社会のニーズに対応できる人材の育成の観点も教育には必要である。もちろん専門的人材を育てることは今も昔も変わらないが、これからは全ての子供のICTのリテラシーを高くして平均的なレベルを上げることが必要だ。
今では文字のリテラシーだけでなく、AI(人工知能)リテラシーやロボットリテラシーなどの言葉も聞くようになってきた。これだけスマートフォンなどを使う現代おいては、デジタルリテラシーは誰にでも必要なこととなっている。
数年前、私は北海道の更別村に行った時に、トラクターが無人で動いていると聞き驚いた。海外の農場ではドローンが空を飛び、水不足なのか病害虫なのか肥料不足なのかを画像認識で把握し、農薬散布もピンポイントで安全かつコスト削減に役立つ時代になっているということを聞いていたが、日本も人手不足もあって農業×ICTが現実のものになりつつあると感じた。
新潟だけでなく、日本全体の人口減少が止まらない。令和2年度の新潟の公立高等学校の全日制入学志願者数は14,531人で、前年度に比べ720人減少したという。この数字で驚いてばかりはいられない。実はコロナ禍では出産数が日本全体で激減すると言われている。このまま対策を打たなければあと十数年たてばさらにその減少率は高くなるだろう。
人手をサポートできるロボットやAI(人工知能)の需要が益々高まっているが、このような時代の地場産業の新しいニーズを引っ張っていくことのできる人材は育成できているのだろうか。
デジタルリテラシーのレベルを全体的に上げるだけでなく、新たなテクノロジーを積極的に産業に取り入れイノベーションを起こしていく人材育成に目を向ける必要があると感じる。
しかしピンチはチャンス。第3次産業が7割となる中、これまで人口の流出が止まらなかったわけだが、コロナでテレワークが推進され、新潟に居ても東京の仕事ができる時代に変化した。事実、若い人が新潟に戻ってきてIT系の仕事で起業するケースも出てきた。
学んでいることが、未来に役立たねばもったいない。海外では未来の社会を踏まえて電子マネーの危険性や使い方を理解するという授業が公立小学校の正規のカリキュラムの中でスタートしている。また、仮想通貨を実際に使うという授業がある。もちろん学校内でしか使えない通貨だが、先生方の話では実際に使ってみることでフィンテックの理解に繋がるという。
以前、新潟県在住の若者にインタビューするテレビ番組を見ていたら、「現金の方が減りもわかるけど、電子マネーはお金をいくら使ったのかの感覚がなく怖い」という声が多かったのには驚いた。でも小学校でファイナンシャルを学ぶ授業を受けていたらもしかすると答えや行動が違っていたかもしれない。実際、オーストラリアやニュージーランドの小学校ではファイナンシャルの授業が行われており、スイスの銀行ではエンジニアしか採用しないというところも増えてきている。
社会的な課題を解決すると言う背景を教育が担っていかなければ、明るい未来はない。少子化が急激に進む日本において経済が活性化していくためには、誰も取りこぼさない教育とICT教育プラスイノベーションを起こすノウハウが必要となっている。このシリーズでは海外の事例を交えながら新潟県内外の話題をお知らせしたい。
上松恵理子 略歴
博士(教育学)
武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員
早稲田大学情報教育研究所研究員
明治大学兼任講師
東洋大学非常勤講師
国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員研究員
教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー
総務省プログラミング教育推進事業会議委員(H28.29)
文部科学省委託授業欧州調査主査(H29)
大学では情報リテラシー、モバイルコミュニケーション、コンピュータリテラシーの授業を担当。また最新のテクノロジーを使った最先端の教育についても調査研究しています。
国内外での招待講演多数。著書に「小学校にオンライン教育がやってきた!」など。
新潟大学大学院情報文化研究科修了、新潟大学大学院後期博士課程修了
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うえまつえりこオフィシャルサイト https://uefll.co.jp/
上松恵理子研究室 https://uematsu-lab.org/