脱プラスチック化社会を目指して、果てのない紙製品の可能性に挑む安達紙器工業株式会社(新潟県長岡市)

避難所用更衣室&授乳室の前に立つ安達眞知男さん

SDGs(持続可能な開発目標)なる言葉が世の中で飛び交うようになってだいぶ経つ。昨今では、使い捨てプラスチック製品の使用が問題になってきている。そのような中、プラスチックの代替え品として、紙製品の使用に注目が集まってきている。

紙製品と聞くと、薄くて脆い、そんなイメージを持つ読者も多いのではないだろうか。あるいは、紙の原料が木であることから、熱帯雨林減少と結びつけ、「紙を使うと森林破壊に繋がる」と誤解をしてしまっている読者も多いのではないだろうか。ところが、紙は、一度使われた紙(古紙)を繰り返し使うことで資源の有効利用になり、新たに投入される木材(パルプ用材)の量を抑制することで、森林資源の持続可能な利用に貢献できる。また、リサイクルすることによって、廃棄物として処理される紙の量を削減し、廃棄物減量化に貢献できる。しかも、素材によってはある程度の強度を持つことも可能である。このような紙製品の性質から、脱プラスチック化を推進する動きの中で紙製品が注目されるようになってきた。

新潟県長岡市にも、古くから紙製品の加工をしている安達紙器工業株式会社(新潟県長岡市東蔵王2 安達眞知男代表取締役社長)がある。同社では現在、バルカナイズド・ファイバーやパスコといった特殊紙加工品や、段ボールケースなど、包装箱全般の製造などの業務を行っている。会社の由来や製品について、同社代表取締役社長である安達眞知男さん(69歳)から話を聞いた。

同社の創業は1942年である。初代の安達正次郎氏は、元々長岡市の呉服町で、呉服商を営んでいた。ところが、世の中は徐々に戦争状態に突入し、統制経済が敷かれていくなかで、呉服商として今まで通り、自由に商売ができなくなっていった。

時を同じくして、当時の日本では、紙でありながらも十分な硬さがあるため、様々な製品に成形することができる「バルカナイズド・ファイバー」というものが導入されつつあり、日本は、国家レベルでの技術の普及や援助を行っていた。時勢を読んだ正次郎氏は、思い切って商売変えをし、呉服商を辞し、当時の先端技術であった「バルカナイズド・ファイバー」の加工を手掛けようになった。これが、同社の前身・安達ファイバー加工場が誕生した経緯である。

バルカナイズド・ファイバーでできた胴当て

創業当初は、一般家庭で使用されている裁縫箱や、地域の郵便配達員がバイクの後ろに乗せている箱というような、日用雑貨を主に製造していた。ところが、1945年8月、戦災によって工場などが全焼してしまった。翌年にはなんとか再興し、再び操業を始めた。そして、1954年には、段ボール部門を新設し、商号も「安達紙器工業株式会社」と改称、1968年には工場を現在の東蔵王に移転した。

この時期には、家電製品も世の中に広く出回るようになり、バルカナイズド・ファイバーは、電気絶縁部品としての需要が進んだ。同ファイバーはその後、プラスチック製品の登場によって需要が取って代わるようになる。その一方で、同ファイバーよりさらに加工しやすいという「パスコ」が開発されるようになると、同社もパスコの加工も手掛けるようになったという。

2002年、2代目の安達昭氏から引き継ぐ形で、安達さんが代表取締役に就任した。現在は、パスコを加工した投票箱や、バルカナイズド・ファイバーでできた胴当てなどのスポーツ用品なども製造している。

パスコを加工した投票箱

段ボール製の避難所用更衣室&授乳室は、同社の製品のなかでも一際目をひく。これは、先代・安達昭氏の考案したもので、2004年に発生した新潟中越地震のとき、新聞に掲載された避難所で、女性が自由に着替えたり赤ん坊に授乳したりする場所がないという、現場の女性の生の声を聞いて作られたものだという。その後、完成品は避難所に寄附され、2011年3月に発生した東日本大震災や、2016年4月に発生した熊本地震のときには、避難所で過ごす多くの避難者のプライバシーを守っている。

安達さんは、「現在、プラスチック製品が環境に負荷をかけているということから、紙の材料が見直されている。紙は結構硬いので、様々な用途に使える。そのためか、様々なお客様からの引き合いがある。今後も様々な製品を加工していって、様々な分野で、脱プラ化した商品作りを行いたい」と、紙製品の持つ可能性を信じ、製品開発に余念がない。

安達紙器工業株式会社から誕生する新製品の動向に今後も注目していきたい。

安達紙器工業株式会社(新潟県長岡市)

(文・撮影 湯本泰隆)

 

【関連サイト】
安達紙器工業株式会社公式Webサイト

 

 

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