“命のしまい方”を考える  玉置妙憂さんが新潟県長岡市で講演

玉置妙憂さんの講演は断定形ではなく、必ず会場の参加者に疑問形で投げかける

病気で余命わずかと宣告された患者などが、残された時間をより充実して過ごし、自分らしく満足して最期を迎えられるようにできるように、治療による延命よりも、病気の症状などによる苦痛や不快感を緩和し、精神的な平穏や残された生活の充実を優先させることを目的とした手当てを「ターミナルケア」(終末期医療)という。

死を目前に控えた患者のなかには、「人生の意味への問い」や「過去の出来事に対する後悔」など、精神的な苦悩「スピリチャルペイン」を抱える人々も多いという。

わが国でも、ホスピス・緩和ケア病棟など、十分な空間と時間の流れの中で、主治医をはじめとした精神科医、看護職員、メディカルソーシャルワーカー、ボランティア、宗教家などさまざまな職種の人々が、末期を迎えた患者に寄り添いながら、最期まで看取るための施設が90年代から増加している。

一方、こういった施設の普及は地域によっても偏りがあり、新潟県内では、ターミナルケアを一般病棟で迎える人の割合が高い。そういった病棟では、主治医、看護師などの医療従事者や家族などが個人的にケアを行っている場合が多く、患者のスピリチャルペインに対して、対応が困難な現状がある。ターミナルケアにおけるスピリチャルペインに対して、今後は専門性の高い宗教家などが介入することによって行われる「スピリチャルケア」の必要性が求められている。

長岡市内の病院でターミナルケアなどの活動を行っている僧侶らから成る「仏教者ビハーラの会」(新潟県長岡市、雲林重正代表)は14日、看護師でありながら、僧侶という肩書も持つ玉置妙憂(みょうゆう)さんをまちなかキャンパス長岡(新潟県長岡市)に招聘し、講演会を開催した。玉置さんは、1964年、東京都中野区生まれ。法学部を卒業後、看護師と看護教員の免許を取得した。

その後、ご夫君の自然死があまりに美しかったことから開眼し、高野山にて修業を積み、真言宗僧侶となった。現在は、現役の看護師としてクリニックに勤めるかたわら、院外では、非営利一般社団法人「大慈学苑」代表としても活動している。今回の講演は、過去に玉置さんが、同会の勉強会で講師を務めたことがきっかけとなり、実現した。

講演に先立ち、台湾の尼僧たちによるスピリチャルケアの活動の様子を描いたドキュメンタリー映画『回眸(フェイモウ)』の上映が行われ、映画の内容やスピリチャルケアなどの質疑に答える形で玉置さんの講演が行われた。

講演の中で、玉置さんは、台湾と日本におけるターミナルケアの現状について比較し、台湾で行われているターミナルケアのやり方をそのまま日本に導入することは難しく、双方の国の文化的背景や制度的な違いを理解する必要があるとした。そのうえで、スピリチャルペインの内容は、文化によって異なるということを指摘し、家族や社会など、自身の周囲の人たちに対して許しを請う傾向が強い日本人のスピリチャルペインに対して、日本独自のスピリチャルケアが必要であることを訴えた。また、同じ日本国内においても、土地ごとに異なったスピリチャルペインがあるのではないかとし、それぞれの土地ごとにスピリチャルケアが行えるように、各地域に拠点が根付くと良いとした。さらに、従来のように、病院や家族といった患者との利害関係が成立しているうえでのスピリチャルケアを行うことは難しいとしたうえで、利害関係のない人物が患者の生前から死後まで一貫して、患者本人やその家族など関係者と信頼関係が築ける「線」のケアこそ、これからのスピリチャルケアに必要なのではないか、と問いかけた。

会場には、僧侶や元介護士などを含む35名が参加し、玉置さんの話を真剣に聴いている様子だった。

講演に参加した、長岡市内在住の僧侶と元介護士の夫婦(ともに27歳)は、「最初は、心とスピリチャルとは、どう違うのかなと思って聴いていたが、なんとなく違いがわかってきた。日本と台湾のターミナルケアへの違いを知り、日本にももっと広がって欲しい」と感じたという。

講演終了後のインタビューでは、玉置さんは「講演の前は伝わるかな、どうかな、と心配している部分もあったが、私が思っているよりも深く受け取ってくださっている」と感想を述べた。安心した様子で語るその笑顔には、多くの人の死と真剣に向き合った玉置さんの強さと優しさが溢れていた。

台湾と日本のターミナルケアの違いについて、制度的な違いを時系列的に説明する玉置さん

夫の死が「潔くきれいに見えた」と語る玉置さん

 

(文・撮影 湯本泰隆)

 

 

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