連載② 上松恵理子の新潟・ICT・教育「DX時代における銀行とIT教育(前編)」
2021年新年から、新潟では金融機関における大きな動きがあった。それは新潟県を本拠とする銀行同士の合併である。新潟県内トップ銀行と第2位の銀行の合併には驚いたがシステムの大きなトラブルもなく出だしは順調のようだ。そこで海外出張が多かった経験から海外の銀行事情を少し述べたい。
コロナ禍前は年に1度は訪れていたスウェーデンは脱現金化に成功した国としてあげることができる。現金を運ぶのには経費がかかる。運送の車や運転手、そしてセキュリティのために人を雇用する必要もある。銀行はコスト面でのメリットがある。しかしそれだけではない。
スウェーデンでは数年前からパン屋さんの店先に「現金お断り」という貼り紙をみるようになった。パン屋さんの場合は衛生面の理由がある。やはり現金を触った手で、パンを触るというのは好ましくないということだろう。
最も大きなキャッシュレスにシフトした背景としては、国が推奨しているスマホアプリ「Swish(スウィッシュ)」の存在がある。毎年調査に行っていたので聞いたところ、日本のマイナンバーのようなものと銀行口座を紐づけたものでアプリを登録すると使うことができるという。現金を扱わない銀行の行員は何をするかというと融資の相談が主だと言う。
話がそれるが、このような番号を銀行口座に紐づけている国は少なくない。新型コロナウイルスの補助金の振り込みが遅かったということが日本では話題になった。しかし、海外ではそのようなことがなく即座に振り込まれる事例があった。そういった国では個人番号と銀行口座が紐づくメリットは大きいということがわかった。
日本では紙で申請した方が早い自治体がありITの遅れが露呈した。すぐに入金されるといったメリットだけではない。医療における電子カルテが世界一早くに導入されたニュージーランドは個人番号が電子カルテとも紐づけられている。病気になって大きな病院へ行っても何度もレントゲンや採血などの検査の必要がない。
エストニアもマイナンバーカードを提示する必要がある場面が多く、銀行だけでなくお酒を買う時にも必要だと言われて驚いた。それだけではない。小学校から1人1台の端末に入るときには国から付与された個人番号とパスワードを毎時間入力する。小学校1年生であっても例外ではない。
さて銀行と言えばスイスが有名だ。時計やチョコレートも有名だが、ファイナンシャルと銀行はスイスの基幹産業だ。スイスを訪れて一番驚いたことは街のあちこちにある銀行の数の多さだった。
文部科学省の委託調査で訪問したスイス連邦工科大学チューリヒ校(ETH)はコンピュータ関連においても欧州で首位にランキングされている。スイスの銀行の頭取には銀行で数年間仕事をし、それから大学に社会人入学をして情報通信学部、日本で言えば理系の博士課程を修了した学生が少なくないということを伺った。
海外では日本のように一斉入試、一斉就職するというところは少ない。そもそも社会人入学は当たり前の海外において、就職してから学びなおしをしたいと思うことは少なくないのだ。驚いたのは、スイスでちょっとしたランチと思ってハンバーガーとサラダ、そして飲み物を頼んだら4,000円くらいした。円が強い時代を知っていると悲しくなるかもしれない。
ところで半世紀前の日本の銀行の窓口業務は高校を卒業した女性がなることも少なくなかった。しかし、それが短大卒、その後は学部卒の女子行員になった。メガバンクの本店行っても受付にはたくさんの女性がいまだに並んでいる。けれども、海外ではその流れが今や機械に取って変わっている。そしてシステムはトップの頭取であってもITの知識がなければなれない。そもそも理系の知識ありきで銀行の仕事が成り立っている。
モナコに出張に行った時に知ったことは国外にあたるスイスの銀行を使うことが少なくない。モナコでは中流階級でも自家用飛行機やクルーズ船を所有している。そういった人たちがどうやって資産を増やしているかというと、それはITを駆使しているからである。
もはやITを使えないと資産を維持することすらできないフェイズに入っている。銀行の頭取がなぜ、最新のコンピュータの専門知識を学ぶのか、理工系で博士課程に社会人入学をするのか、それはこれらのことみれば明らかだ。
ニュージーランドでは公立小学校の正規のカリキュラムにフィンテックを使う授業がある。実は小学校でファイナンシャルを学ぶことは海外ではよくみることである。
ところで私は新潟県長岡市出身だが、母親は花火で有名な小千谷市片貝町出身である。花火を打ち上げるために、毎月銀行に行き、同級会の口座に振り込みをしていた。今やスマホでお金のやりとりができるようになったことをあの世でびっくりしているかもしれない。最近は現金を使わなくても、メルカリなどはアプリで売った商品の金額を購入にあてることが日常的なことになっている人もいる。ここで銀行は使わない。
最後に、銀行にはこれからいろいろなことをトライしてほしい。信頼性の高い情報を提供する総合センターの役割も果たせるかもしれない。そう変わるには制度の問題もあるだろうが、行員のITスキル必須だろう。ネット回線の高セキュリティ化と高速化、大容量化などは言うまでもない。また、長期を見据えた社会貢献として子どもたちにファイナンシャル教育もしてほしい。これからのDX時代は銀行にとって実はチャンスでもあるのだ。新しい金融ステージに期待したい。
上松恵理子 略歴
博士(教育学)
武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員
早稲田大学情報教育研究所研究員
明治大学兼任講師
東洋大学非常勤講師
国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員研究員
教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー
総務省プログラミング教育推進事業会議委員(H28.29)
文部科学省委託授業欧州調査主査(H29)
大学では情報リテラシー、モバイルコミュニケーション、コンピュータリテラシーの授業を担当。また最新のテクノロジーを使った最先端の教育についても調査研究しています。
国内外での招待講演多数。著書に「小学校にオンライン教育がやってきた!」など。
新潟大学大学院情報文化研究科修了、新潟大学大学院後期博士課程修了
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うえまつえりこオフィシャルサイト https://uefll.co.jp/
上松恵理子研究室 https://uematsu-lab.org/