【妻有新聞】魚道調査、世界発信の重要データ JR宮中取水ダム 筑波で水理模型製作、多様条件でデータ収集
JR東・宮中取水ダム魚道の今季のサケ遡上調査は先月11日終了し、例年通り先月末まで魚道通水をストップし、魚道清掃など行い、今月から通水を再開している。21日、第9回信濃川発電所宮中取水ダム魚道構造改選検討フォローアップ(FU)委員会を十日町市クロステンで開き、魚道に発生するセシュ(横波)の発生を防ぐ方策を「カゴ詰め玉石」を魚道に敷設するなど取り組みをしているが、管理面や清掃時の断水期間などから、「さらなる遡上環境の改善」をはかるため、魚道の8分の1の模型を製作し、なにも敷設しないパターンを含め5ケースで実験を行うことになった。この水理模型は筑波学園都市で製作し実験する。玉石に替わる代替物などを含め実験し、魚道内を魚類遡上に影響がない環境整備のヒントを見出す方針だ。同委員会委員長の淺枝隆・埼玉大名誉教授は「外国の魚道研究に関わるが、これほど多様な調査研究に取り組むのは国内では他になく、外国でもないだろう。この研究データは魚道のあり方にとって極めて貴重なデータになる」と取り組みを評価している。
宮中取水ダム魚道は、ダム右岸にあり全長約200㍍のU字型の階段型魚道。同ダムの不正取水を機に魚道改善に取り組み、調査研究を重ね2012年にアイスハーバー型魚道に改修。ただ、通水後に魚道の各段にセシュ(横波)が発生し、魚道内の流れの滅勢を改善するため「カゴ詰め玉石」を各段に敷設。セシュは大部分解消されたが、玉石の経年劣化や毎年の清掃作業による魚道断水が生じているため、今回の委員会では「玉石に代替する対策を検討し、横波の抑制と、魚の休息場の確保による遡上環境の改善により、魚道断水期間の短縮」を目的に、今回の水理模型による実験に取り組む。
筑波で製作する魚道模型は、宮中ダム魚道の8分の1で、U字型の上流部分の模型を製作。大きさは長さ15㍍、高さ1㍍。実物と同じように隔壁部がある階段状の魚道模型で今月中に完成、1月から実験を開始する。
実験は魚道改修時と同じように何も敷設しない状態、現在と同じ玉石を敷設、さらに玉石の代替品を敷設し、下流部に間隔を置いて敷設、上流部に集中して敷設、さらに魚道隔壁部の中央に分離壁を設けるなど5ケースの実験を予定している。このほか「想定外の実験結果によりさらにケースを増やし実験することも可能」などと多角的な実験に取り組む方針だ。計画では来年8月まで実験を行い、様々なデータを収集する方針だ。
FU委員会メンバーの十日町市・池田克也副市長は「魚道の環境整備の取り組みとしては画期的ともいえる。どういう実験結果が出るか興味深く、模型実験の視察にも行きたい」と話す。同委員会・淺枝委員長はヨーロッパなど世界の河川・魚道を研究している工学博士で科学技術振興機構の防災部門研究主幹も務める。
淺枝委員長は「宮中ダム魚道の研究は国際的に見てもレベルが高く、これほど魚類の環境改善のために調査し研究を続ける事例は世界でも私は知らないし、国内では他にないだろう。ここの研究データは極めて貴重で、世界に発信すべき重要なデータだ。日本の技術を世界に知らせることになり、それが日本の河川環境への取り組み姿勢にも通じ、日本の誇りになる」と話している。
FU委員会では従来の遡上魚類の捕獲調査と共に「環境DNA」調査を実施している。魚道内の水を採取し含まれるDNA分析で魚類や魚の量などを推定する観測方法。だが委員会では「おおまかな傾向と魚種は把握できるが、魚の量は精度を上げるためデータ蓄積が必要」とした。アユ遡上は大型魚道では環境DNA調査とほぼ同じ傾向が調査で明らかになっているが、「これを従来の採捕の代替手法にするには課題解決が必要で、今後の調査では並行して数年間実施していく」として、従来手法の採捕調査は継続することになった。
【妻有新聞 2022(令和4)年12月24日号】