【特集 新潟県燕三条】世界最大級の見本市「アンビエンテ」(ドイツ)と、海外進出へ向け準備を進めるものづくりの街
ドイツ・フランクフルトで毎年2月に開かれる「Ambiente(アンビエンテ)」──世界160の国と地域から10万人を超える来場者が集まる世界最大級の見本市だ。感染症禍の影響によりここ2年開催中止を余儀なくされていたが、2023年は3年ぶりの開催が決定した。
開催日は2月3日から7日の5日間。久しぶりの大舞台に新潟の企業も準備に追われている。中でも、地域をあげて地場企業の海外進出を後押ししてきたのが「ものづくりの街」燕三条だ。独自にアンビエンテへ出展する企業も多いが、燕三条地場産業振興センター(新潟県三条市)では長年、共同出展という形で企業を後押ししてきた。
「身近な企業でも案外(海外へ)行ってるところが多い。だから海外を近く感じるというか、『じゃあウチも申し込んでみようか』というムードが地域の土壌としてあるのでは」地場産センターで企業の海外展開を支援する酒井利昭部長は話す。
地場産センターでは、そうした「やってみようか」と思える環境を整えている。「地場産センターのアンビエンテ共同出展は、どちらかというとファーストステップ。ハードルを低くしている。ブースの用意から商品の輸送、通訳の手配など……企業は手がかからないように」(酒井部長)。一方で、複数社が参加するためスペースは限られる。共同出展で手応えを掴み経験を積むことで、より自由度の高い独自での出展にステップアップし、燕三条企業がどんどんと海外へ挑戦していくことが理想だという。
そんな地場産センターの共同出展、前回2020年は11社が参加。会期中に各国のバイヤーと数多くの成約が結ばれた。世界最大級の展示会だけあり、バイヤーは大手から地元ドイツのセレクトショップまで多種多様。想定していなかった買い手との「思いがけない出会い」も出展の一つの利点だ。また、世界の消費のトレンドを知る機会でもある。
3年ぶりとなる今回、共同出展に参加する企業は前回から大幅に増え17社となった。
アンビエンテと消費を取り巻く環境にも変化が訪れている。アンビエンテは2023年、本来は別の展示会だった「Christmasworld」と「Creativeworld」が同時開催となった。オンライン展示会・商談会の存在感が増していることが原因の一つと考えられる。
「Creativeworld」は、工作関連も取り扱うため燕三条製品との親和性がある。一方、例年とは異なる開催形式から、地場産センターのブースも例年とは異なる場所となり、いわゆる「常連客」の誘導に不安が残る。酒井部長は「新しい分野のバイヤーの開拓への期待と、少しの不安が入り混じるっている」という。
また、未開催の2年間で「サスティナビリティ」の風潮も加速した。消費者の意識が変化しつつあることに加えて、世界情勢の変化もあり「中国製品一強」の形が変わりつつある。燕三条は生産力や価格競争では遅れをとるが、高品質と「職人技」のブランド力で巻き返しを狙う。
特に、共同出展では地域というブランドを打ち出しやすい。商品そのものの品質と同時に、バックボーンである新潟・燕三条の自然や伝統は商品の価値を向上させる強みになる。
アンビエンテ共同出展に参加するうちの一社である燕物産株式会社──110年以上洋食器産業に携わってきた老舗の捧和雄代表取締役社長は「燕市が洋食器を180カ国以上に輸出していた時代を、世界のみなさん知っていただきたい」と話す。燕物産を含む燕市の洋食器企業はかつて世界各国を席巻したが、中国製品の台頭によって国内転換を余儀なくされた。今回、日本金属洋食器工業組合の中から希望した数社が地場産センターの共同出展に参加し、海外市場へ打って出る。
「現在、ヨーロッパブランドのステンレス製品はほとんど中国やベトナムで製造されている。しかし、市場ではその品質が(かつての)ヨーロッパ製と違うことに疑問の声が上がっている。改めて、私たち燕市の品質と技術を発信していきたい」(捧社長)。日本金属洋食器工業組合では、デザインに関する研究会も定期的に開催。海外市場へ向けての研鑽をつづけてきた企業の底力に注目したい。
今回初めてアンビエンテへ出展する企業も多い。そのうちの一社が、高品質なおろし金を作る株式会社ツボエである。「『おろす』というのは他の国ではあまり見ない日本独特の食文化で、和食の下支えをしている商品。日本人には馴染み深いが、海外ではそうではない。『おろし金』という物があって、それを作っている日本の企業がある、ということを紹介する第一歩だと思っている」とツボエの笠原伸司代表取締役社長。
しかし同時に「ただ文化を紹介して、売り込むだけではない」(笠原社長)という。「おろし金の技術を活かした、外国向け商品の開発へ向けたリサーチも兼ねている。大根や生姜のための道具というわけでなく、例えばチーズなど『こういう調理に使えるのではないか?』という情報や手応え、『(現地の)生の意見』を仕入れたい。すぐに結果が出るとは思っていないが、収穫は必ずあると思っている」。正に挑戦の第一歩を踏み出そうという企業からも、目が離せない。
────
10月には「燕三条 工場の祭典」が世界的デザイン賞である「Red Dot Design Award」のグランプリを受賞した。直接的には関係無いが、海外展開への機運を高め、また地域のブランド価値が高まる一つの契機にもなっただろう。世界情勢の変化や円安の進行など、さまざまな状況が重なる今は、同地域における好機となりうる。
地場産センターの酒井部長はアンビエンテで待つ世界中のバイヤーへ向けて意気込む。「オンライン商談会が世の中に増えてきたとはいえ、燕三条製品の価値は実際に手に持って初めて分かる部分も多い。3年ぶりの開催、燕三条の『リアル』を感じていただきたい」。
(文・鈴木琢真)
【関連記事】
「匙屋に徹す」──洋食器を製造して100年以上の老舗、燕物産株式会社(新潟県燕市)
【特集】新潟県の2大都市・新潟市と長岡市に挟まれた「燕三条」はなぜ積極果敢に世界の市場へと向かうことができるか?(2020年10月15日)
日本国内初の快挙、「燕三条 工場の祭典」実行委員会が「Red Dot Design Award2022」グランプリ受賞を報告(2022年11月7日)