地域の宝”佐渡島の金山“ 世界遺産に向けて 長岡市で講演
佐渡島にある佐渡金山をはじめとした鉱山遺跡は、間違いなく、我々新潟県民にとってかけがえのない“地域の宝”である。
日本政府はこれまで、新潟県など関連する自治体などと連携し、佐渡金山の世界文化遺産登録へ向けて働きかけてきた。
佐渡金山を世界遺産に登録するためには、加盟国が、ユネスコの世界遺産委員会に対して、登録にふさわしい理由をまとめた世界遺産登録推薦書の提出をしなければならない。推薦書提出に向けて、新潟県内でも様々な調査・研究など準備が行われてきた。そのような動きの中、2022年7月、国が提出した推薦書の内容に不備が発覚し、審査が大幅に遅れるという事態が発生した。
そのような中でも、新潟県や佐渡市といった関係自治体は、佐渡金山の世界遺産登録へ向けた取り組みを日々行っている。
新潟県世界遺産登録推進室(新潟市中央区新光町4-1・澤田淳室長)では、より多くの県民に、世界遺産を目指す佐渡島の鉱山遺跡の魅力やその価値を知ってもらおうと、新潟市、長岡市、上越市などを中心に定期的に講演会を企画している。
11月7日、長岡まちなかキャンパス(新潟県長岡市大手通2)では、『「佐渡島の金山」-日本の史跡が世界の遺産-』というタイトルで、講演が行われた。講師は、日本イコモス国内委員会委員長を務める岡田保良氏である。
冒頭では、同推進室の澤田淳室長よる報告があり、西三河砂金山や相川鶴子金銀山の歴史やその特徴、ロボットによる坑道探査などの調査の様子について触れ、現地を訪れるための情報発信拠点として2019年に開館した「きらりうむ佐渡」の紹介もなされた。
報告の中で、澤田室長は、鉱物を採掘するために全国から人々が集まった結果、地元の文化が持ち込まれ、その結果として、佐渡独特の鉱山文化が誕生したと結論づけた。
また、講演では、岡田氏が、世界各国の世界遺産や、世界遺産条約について述べ、実際に世界遺産として登録されるまでの具体的な道のりとその条件について説明した。佐渡島の金山が世界遺産として、ユネスコの世界遺産委員会が掲げる登録基準のうち、どの項目に当てはまるかということを、実際の基準に照らし合わせながら詳しく説明した。
絵図や文献が数多く残されている同金山は、佐渡には価値を補強する上で重要な史料が多く残っていることについて触れ、佐渡市の金山文化が世界的にも普遍的な価値をもつ文化遺産であるとした。
岡田氏によれば、一度世界遺産として登録された後でも、管理国は、同遺産の保存状態について、定期的にユネスコに報告をせねばならないという。最近では、近年の世界遺産委員会では,世界遺産の資産範囲,緩衝地帯及びその周辺において事業が計画された際にその影響を評価する「遺産影響評価(Heritage Impact Assessment:HIA)」の実施を求められる事例も増えており、世界遺産に加わる国の責任は、ますます重くなっているという。
周辺の再開発によって同遺産に影響が出れば、イギリスのリヴァプールのように、認定が取り消されることもある。このことから岡田氏は、登録後も、世界遺産としての価値を損なわないように、県民、行政、研究者が手を携えて、責務を果たしていかなければならない、とした。
世界遺産になることは、必ずしも経済的にプラスになるばかりとは限らないが、世界遺産を得ることによって、(地元の人々の)生活の充足に関して、得がたいものがあるのではないだろうかと、岡田氏は締めくくった。
講演会の最後では質疑応答の時間が設けられ、活発な意見交換が交わされた。
今回の講演に参加した、新潟県長岡市在住の川辺義己(よしゆき)さん(78歳)は、もともと新潟県佐渡島の生まれである。学生時代から、30年間長岡市内に暮らしている。「(県の主催する佐渡金山の)講演会は、今まで全て参加してきたが、今回が一番良かった」と満足そうに語る。
また、本紙記者に対し、岡田氏は、「参加者が佐渡の金銀山について、事前にどれだけ知っていたか、よくわからないまま話した。余計なことを話していなければよいが」と不安を漏らしつつも、「皆さんから熱心に話を聞いていただいていた」と喜んでいる。「世界遺産は、地元の方はもちろん、世界中の人がその価値を認めて、保存していかなければならないということを、改めて承知していただきたい」とコメントを寄せた。
世界遺産登録の鍵を握るユネスコ世界遺産委員会では2022年11月、議長国であるロシアのアレクサンドル・クズネツォフ氏が議長を辞任した。次の議長が決まるまで、サウジアラビアのユネスコ代表部大使であるハイファ・アル・モグリン王女が議長を務めるなか、2023年2月に、日本政府は推薦書の再提出を行う予定である。
多くの国際情勢が複雑に絡み合うなか、今度こそ推薦書は受理され、佐渡金山は、世界遺産の審査台に立たせてもらえるのだろうか。新潟県民を含め、多くの関係者が、固唾を飲んで情勢を見守っている。
(文・撮影 湯本泰隆)