新年の街に祝いの歌響く、新潟県長岡市で「越後瞽女唄才蔵ズ」らによる「蔵開き門付け」
かつて新潟県長岡市では、商家の蔵が並び、年末に閉じた蔵を1月11日に一斉に開く「蔵開き」をしていたという。この日になると、盲目の女性旅芸人・瞽女(ごぜ)が大手通りの店先を歌って回る「蔵開き門付け」という習わしがあった。瞽女たちは商家の門口に立つと、商売繁盛や健康長寿を願い、店先で新春を寿ぐ祝いの唄を響かせたという。
そのような伝統的な長岡の正月行事を伝えていこうと、長岡市を拠点に活動する市民団体「瞽女唄ネットワーク」(鈴木昭英代表)では、4年前から「蔵開き門付け」を行っている。今年は9日に行われ、新潟県長岡市内のアオーレ長岡(長岡市大手通1)や大手通りの店先などで明るい歌声を響かせていた。
市内で伝承活動をするグループ「越後瞽女唄才蔵ズ」の4人(直子、幸江、未来、鈴子)が瞽女の様子を再現し、女性角巻きと、かさを身に着けて、前の人の肩に手を置きながら、一列に並んで、杖を突きながら、商店街を歩き回った。
今回、門付が行われた店舗は、「宝石・時計・メガネのミヤコヤ」(長岡市大手通1)「くらしの道具 鍋忠」(長岡市大手通1)「斉藤和楽器店」(長岡市東坂之上町1)「器の店ふじい」(長岡市本町1)「Gallery 沙蔵」(長岡市本町1)の5店舗である。アオーレ長岡から出発し、順番に各店舗を巡った。店先では、「ごめんなんしょ」と声をかけ、三味線を使って歌う「岩室」と、語りだけの蔵開き門付歌の2曲を、「しょんがいなー、しょんがいなー」というかけ声に合わせて、聞いていた周りの人たちも一緒に声を出す。関係者によれば、まだまだ門付させてもらう店舗を募集中という。
たまたま観光旅行で長岡の街を散策していたところに、門付の様子に出会ったというオーストラリア人男性(50代)には、言葉がわからずともその素晴らしさが伝わったらしい。「素晴らしい」と称賛の声をあげていた。また、門付けを受けた「器の店ふじい」の藤井良治(りょうじ)さん(87歳)によると、長岡では昭和30年代頃までは瞽女による門付の歌声を聞くことができたという。「(今日も)一緒に口ずさんでいた。懐かしく思います」と感想を述べた。また妻・文江さん(84歳)も、「70年前くらいには本物の瞽女さんが連なって歩いているのをみた。自宅は商家を営んでいたが、毎年必ずうちに寄られていた。伝統を守って偉いなと思う」と感慨深げに語った。
「越後瞽女唄才蔵ズ」の1人、鈴子さんは、「今年は私たちの仲間のうちにも流行り病などが発生したりなどして手不足、お稽古不足で歩ききれるか心配だったが、なんとか歩ききれた。“来年も楽しみにしている”といわれるとまた来年もやりたくなる」と感想を語った。
門付が終わると、Gallery 沙蔵の1階では、「越後瞽女唄・葛の葉会」の室橋光枝さんと小片理恵さんによる祭文松坂の三段と四段が披露された。
明るく希望に満ちた2023(令和5)年の蔵開きだった。
(文・撮影 湯本泰隆)