新潟県内屈指の温泉地「月岡温泉」を歩く(その4)
非日常を求める個人客型にリニューアルした摩周
月岡温泉 摩周が創業50年にあわせて進めてきた全面改修工事が今年7月に終了した。工事は通常営業を行いながら、3期に分けて4年がかりで行った。その結果、部屋やレストランを含む館内全体が、ほかの温泉旅館の改修でも見ることができないほど団体客仕様から、個人グループ仕様へと大きく生まれ変わった。地元の宴会受け入れもやめ、細部に至るまで「非日常空間」に生まれ変わった旅館には、多くの宿泊客が訪れており、今年8月には90%の客室稼働率となった。
第1期は大浴場の改修を行った。第2期では、親子3世代が楽しんで寛げる「3世代宿泊可能な部屋」を2部屋つなげて作ったほか、旅館を利用したことのない若いカップルが泊りたくなる瀟洒な部屋、二人だけでゆっくり過ごせるツインルームなどのコンセプトルームを作った。
2期工事では、80人程度収容可能な会議室を、オープンキッチンを備えたレストラン「えん」に改修した。レストラン内には高価な椅子とテーブルを配置するなど、非日常を徹底的に演出した。3期工事では、利用客のニーズの高いベッドを設えた客室を増設。また、かつて観光バスで訪れる団体客を受け入れた宴会場(180畳)を改装し個室型のレストラン「雪terraceあかり」を整備した。
改修前の摩周では、宴会場などで宿泊客や地元の宴会が行われていたことから、泥酔客から、静かさを求めて泊まりにきた客まで様々な来館者が同じ空間にいた(摩周に限った話ではないが…)。非日常を求めてきた宿泊客が、こんな現実的な場面に出くわした場合、2度とこない(リピーターにならない)ことが想像できる。このために非日常を求める個人客型に特化した旅館へと大きく舵を切り、非日常を求める宿泊客に徹底的に応えたのだ。結果、単価も客室稼働率も向上した。
多くの旅館でも、摩周と同様に、時代の変化も見据えながら団体ツアーから個人グループツアーの受け入れを拡大していく動きを加速した。だが、館内のワンフロアーを個人グループ客向けに改修はするものの、団体客も完全には捨てきれず、完全に個人グループ型に対応した旅館に切り替えるという決断ができなかった。このため、依然として、にぎやかに楽しみたい団体客と、静かな非日常の楽しみたい宿泊客が“ごちゃ混ぜ”の状態(中途半端な状態)が続いた。そんななか、石塚社長は、団体客や地元宴会客の受け入れをきっぱりとやめ、完全に個人グループ型に切り替えたのだ。