【妻有新聞】古道でトレイルラン、魅力引き出す 地域おこし協力隊・新坂志保里さん
「よい驚きばかりです」。東京都出身の新坂志保里さん(35)。関係人口拡大のミッション型地域おこし協力隊として十日町へやって来て1年余り、2回目の冬を迎えた。
「昨年の今頃は1週間ずっと家の屋根から落ちた雪の片付けも経験しました。今年は少ないですね、ちょっと拍子抜けかも。でもまだわかりませんね。スノーボードやバックカントリースキーも楽しんでいるので雪はまったく気になりません」。雪国での生活を楽しみながら、十日町市民となって2年目の今年、今は全く利用されていない古道を活用したトレイルランニング大会を6月に開く準備を進めている。
アメリカの大学を卒業し都内にある東証一部上場企業に勤める傍ら、里山が抱える社会課題の分野に興味を持ち、武蔵野美術大学でコミュニティデザインを学び卒業。学んだ分野を実践するため、過疎化などが進む地域の役に立ちたいと移住を決断。「東京からさほど離れていなくて、利便性も良い長野や新潟でフィーリングが合う土地を探している時に、学んだことを活かし仕事が出来そうな十日町市の地域おこし協力隊のことを知りました」。松代・蓬平地域を訪れた時、「温かさを感じたんです。東京での表向きだけの関係ではなく、お互いがつながり助け合う暮らしを垣間見て、まだこうやって暮らす文化が残る地域があると驚いた」と振り返る。
昨年12月、パートナーでフランス人のルイさんと蓬平に移住した。「地域を知るには地形から自然や歴史を読み解く必要がある」と考え、自ら山に入り探索を続ける中で山中に道があった跡があることに気づいた。地域住民に聞いたが詳しい人はおらず、「10年くらい前までは山菜取りの時に通っていた」などという話を聞けただけ。「昔は棚田などに向かうために使われていたんだと思います。今は使われなくなった山の中の古道によって、松代地域の生活が形成されて来たのだと思います」。
この古道で何ができるか、新坂さんとルイさんが長年の趣味としているトレイルランニング、そのコースとしての活用を思いついた。「地域のみなさんも忘れかけていた古道を再び使うことで、昔あった文化に気づき、地域の自然環境についても考えるきっかけになれば」とすでに大会の日程を6月4日に決め、今月から参加者も募集している。トレイルランニングはヨーロッパ発祥で林道、砂利道、登山道を走るスポーツ、日本でも近年競技人口が増えている。
かつて生活のために使った古道を再生活用するトレイルラン。新坂さんは地域に暮らす子どもたちにボランティアを呼びかけ参加してもらいたいと考えている。「子どもたちが大会に出場する様々な大人と関わることで松代地域以外の世界も知り、視野が広がるきっかけになればと思っています」。一方で大会を通じて「松代のことを知った人たちが地域の人との交流を通し、ただ訪れたという浅い交流人口ではなく、深く付き合える交流人口を増やせるのでは」と期待する。
昨年10月から地域住民やランニング仲間で週末に倒木や雑草で荒れたコースの整備を開始。発着点を農舞台に太平―会沢―蓬平―千年など10の集落を通るコースを完成させた。「コース内には不法投棄の農耕車や電子機器などの大型の粗大ゴミが多くあり、春になったら撤去を始めます」。撤去作業などの費用の援助を現在クラウドファンディング『にいがた、いっぽ』で行っている。「すでに目標金額には達成しました。ありがたいです。でも募金額が増えた分で、より多くの不法時投棄のゴミを撤去したいと思います」。28日まで寄付を募っている。
「初大会では25㌔コースで3百人。2㌔コースは百人募集中です。大会の収入は全て地域の保全活動に使います」。新坂さんの挑戦は始まったばかり。トレイルランニングを活用しての地域作り、交流の広がりが期待される。大会の詳細は大会ホームページ「越後松代春の陣」で検索。
【妻有新聞 2023(令和5)年1月21日号】