【独自】「ながおかペイ」は、長岡の地域経済にメリットをもたらすのか否か?
2000年代前半、経済を地域内で循環させ、地域経済や地域コミュニティを活性化させる目的で導入された地域通貨はその後、全国的にブームを見せた。ところが、維持するのにコストがかかることや、偽造品が出回るなどによって、2005年頃をピークに稼働数が漸減し、現在は200に満たない数の地域通貨が、稼働しているにすぎない。その一方で、近年は、デジタル技術の進展などにより、従来の紙ベースの地域通貨の課題をクリアした「デジタル地域通貨」が登場し、岐阜県の「さるぼぼコイン」などのような成功した事例もある。ここにきて再び、地域通貨が注目されている。
新潟県長岡市では、2022年11月から、キャッシュレス化の推進と地域経済の循環を目指した独自のデジタル地域通貨「ながおかペイ」を運用している。導入から1月で3ヶ月が経過した。一方、「PayPay」などのような大手決済サービスと比較しても、「ながおかペイ」が導入されたメリットがなかなか見えにくい。そこで、「ながおかペイ」が今後、長岡地域の経済にどのような可能性を持つのだろうか。関係者から話を聞いてみた。
そもそも、「ながおかペイ」の導入に際しては、「岸田政権下において導入された『デジタル田園都市国家構想交付金』が大きい」と話すのは長岡市商工部産業支援課の河上雄一課長(48歳)である。長岡市は2022年2月頃、政府に同交付金の申請を開始、3月に交付が決定すると、交付が降りたタイミングで、長岡市、長岡商工会連合会、そして長岡市共通商品券協同組合などからなる「長岡市デジタル地域通貨協議会」が結成された。その後、昨年5月から度々会議など会合の場が設けられ、6月市議会にて補正予算の承認を得、7月には運用するシステムを開発する業者が決定した。「とにかく時間がなかった」と話すのは、同「協議会」の構成団体である長岡市共通商品券協同組合の渡部直美事務局長である。渡部事務局長によると、長岡市の産業支援課から「交付金を申請するよ」と知らされたのは、2月から3月にかけてのことだったという。無事に申請が通り、11月からの運用が決まってからは、かなりのハイペースで物事が進んだ。
長岡市が「ながおかペイ」を導入に踏み切った一番の理由は、物価高騰対策である。その上で、渡部事務局長は、「長岡市内で経済の循環をしていきたい」と話す。デジタル地域通貨ならば、本来、手数料などとして、大手クレジットカードやキャッシュレス決済サービスから地域外に流出してしまう通貨を大幅に減らすことができ、地域内だけでの経済を回すことができる。地域外に流出していく資本経済を、地域内に留め、循環させていく意図がある。
しかし、「ながおかペイ」が利用できるのは、新潟県長岡市内にある「ながおかペイ」取扱店での取引のみである。また「ながおかペイ」を使用する場合は、あらかじめスマホなどの端末にインストールしたアプリに、必要な金額をチャージしておかなければならないが、アプリに必要金額をチャージできるのも、取扱店を介してであり、他の決済サービスのように銀行やATMなどで気軽にチャージできるわけではない。利用できる場所が、著しく限定されてしまう分、ユーザーにとっては、不便に感じることもあるのではないだろうか。
「そこがまさに、今後工夫が必要なところ」だと力を込めて語るは、川上課長である。「ながおかペイ」のチャージに当たっては、1月中にチャージした場合、チャージ額の30%分のポイントが付与される。また2月中にチャージした場合にも、同様に30%のプレミアムポイントが付与されるというキャンペーンが行われている。1月2月で、1万円ずつチャージした場合、一人最大で3000ポイント(3000円)ずつ、合計で6000ポイント(6000円)が付与されるという。どうやら、このキャンペーンも、多くのポイントを付与することで、利用者のチャージを促し、一定のユーザー数を獲得することが狙いらしい。「1月・2月と併せると、合計6000ポイントの付与となる。ここまでお得にポイントを付与できるのも、なかなか大手の決済サービスにはできないことでは」と川上課長は語る。
ところがこのプレミアムポイントの利用期限は、当該月のみ。即ち、1月に付与されたポイントは1月中に、2月に付与されたポイントは2月中に使い切らなければ無効になる。ポイントに期限を設けることで、「ながおかペイ」による消費を促す意図もあるのだろう。
長岡市内に住む50代女性は、「ポイントに有効期限があるのなら、チャージしても意味がないのではないか。PayPayなどの大手決済サービスのポイントには、(一部を除いて、)基本的に、有効期限はない。ながおかペイを導入するメリットがわからない」としている。
このような疑問に対して、長岡市商工部産業支援課の板鼻克洋主任は、さらに説明を加える。「ながおかペイ」は、2月1日以降、決済金額100円(税込)につき、「ながおかポイント」として1ポイント付与されるようになる。このポイントは「ながおかペイ」の最終利用から1年間の有効期限を持つ。有効期間があるといえば聞こえは悪いが、さすがに1年間、「ながおかペイ」を全く使わない人は滅多にいないだろう。1年以内に買い物をすれば、ポイントの有効期間は、さらにその日から1年間有効になる。「つまり、買い物すればするほど、ループしてポイントを使えるようになるということです」とした。
もちろん、現在も新規加盟を募集している取扱店側にもメリットがある。こういうデジタル地域通貨に関しては、通常、システム管理料など、取扱店側にもいくらかの金銭的な負担がかかるの通常だが、今回の取扱店加入に当たっては当面の間、店舗側への金銭的な負担を求めないとしている。取材時点で、飲食店を中心に90店舗が取扱店として登録しており、中には、エステサロンや接骨院のような個人事業主などの屋号もみえる。
運用して間もないこともあり、長岡市としても、現段階では、未定のことも多い。今後の運用に関しては、例えば、長岡市主催のイベントに参加した際に、参加者に「ながおかペイ」のポイントを付与するなど、市民が、幅広く活用できるように検討している。そのほか、将来的には、市民税の納入や、補助金・助成金などの支給なども、「ながおかペイ」で行えるようになる可能性もある。「マイナスではなく、プラスを与えることによって、ユーザー側にも、取扱店舗側にもベネフィットを与えていく方針」であると河上課長は語る。広報活動についても余念がない。最近では、長岡駅のコンコースでも、「ながおかペイ」の広報活動を行った。「今後は長岡市の公式SNSなどでもPRしていきたい」と意欲をみせる。
さらに、河上課長は、「長岡市の経済圏でお金を回していくことが、地元の経済の発展に繋がる。せっかくプラットフォームを立ち上げたので、(今後は、市民に積極的に)使ってもらえるような仕組みが求められていくだろう。今後もユーザーや取扱店の声を聞いた上で、いろんな面で喜ばれる取り組みをしていきたい。幅広く使っていただけるようにするので、ご協力をお願いします」と、弊紙を通して、市民に呼びかける。
まだまだ誕生したばかりの「ながおかペイ」。これからの使い方次第で、大手決済サービスに負けないくらいの利便性を得る可能性もある。一方で、そもそもどこの店舗で利用できるのかといった疑問の声もいまだに聞こえる。今後も取扱店の周知など、さらなる広報活動の展開にも期待したい。
最初から斜に構えた態度で臨むのではなく、まずは実際に「ながおかペイ」を使ってみる。その上で、新しい活用の仕方や改善点を見いだしていくことこそ、今後の活用促進につながり、長岡の地域経済の発展にも良い影響をもたらすのではないだろうか。
まずは、長岡発の新しいデジタル地域通貨の活躍に、エールを送りたい。
【関連サイト】
「ながおかペイ」取扱店
(文・撮影 湯本泰隆)