【トップインタビュー】株式会社ツインバード野水重明(のみず しげあき)代表取締役社長 ——リブランディングの現在地と未来
2021年に創業70周年を迎えた株式会社ツインバード(新潟県燕市)は、コーポレートロゴの刷新、2つのブランドラインを新設、そして社名変更(ツインバード工業株式会社から株式会社ツインバードに変更)など、大きな改革に踏み出した。
「新生ツインバード」を掲げ、総力をあげて取り取り組んでいるのは、ツインバードの「リブランディング」だ。
断行の理由や想い、現状の課題、そして今後の展望などについて、ツインバードの野水重明(のみず しげあき)代表取締役社長に聞いた。
■ 野水重明(のみず しげあき)
株式会社ツインバード 代表取締役社長。1965年10月13日、新潟県三条市出身。新潟県立三条高等学校を卒業後、工学院大学へ進学。卒業後、祖父・野水重太郎氏が創業したツインバード工業(当時)へ入社。1993年、長岡技術科学大学大学院に入学し博士号を取得。海外勤務や営業副本部長、経営企画室長などを歴任した後、2011年に代表取締役社長に就任。
ワクチン運搬庫大量受注が一つのきっかけ
——2021年11月に「新生ツインバード」を掲げ、リブランディングを発表した背景をお聞かせください。
私が2011年に事業承継をしたタイミングから、今後はブランディングとダイレクトマーケティングの時代が来ると強く思っていました。準備は進めてきたのですが、対外的に大きくリブランドを発表させていただいたのが2021年です。
背景としては、その前の年(2020年)にコロナのワクチン運搬庫を日本政府に納品させていただくことで、ツインバードの認知度が非常に高くなったこと。それから、結果として収益が向上して、中期経営計画で予定していた投資が前倒しできる環境になりました。
やはりなかなか無形の資産に投資をするということは、ある程度の余力がないとできません。それから、1年では終わらず時間がかかりますよね。財務体質が整ってきた背景があったので、ここで大々的に投資をしてリブランドしようということになりました。
——ワクチン運搬庫の大量受注が、リブランディング断行の大きな理由ということですか?
そうですね。あとは創業70周年というタイミングも1つありました。コーポレートロゴやブランドプロミスを刷新して、社内外の皆さんから一見して「力強く変わりました」ということが分かるようにしました。そういったクリエイティブ開発にもかなり投資させていただきました。
リブランディングの“現在地”
——リブランディング発表から1年経過しましたが、現在の評価はいかがですか?
リブランディングの発表と同時にコーポレートサイトを刷新して、そこに訪れたお客様約1,200人にツインバードに対する印象や好意度などのアンケートを取らせていただきました。
アンケート結果からは、生活者から見たツインバードの好意度が約15%向上したデータが取れましたので、ほぼ順調に進んでいるのかなと思います。
「匠プレミアム」と「感動シンプル」の2つのブランドラインに対して、全自動コーヒーメーカーやスチームオーブンレンジ、あと今回発表させていただいた「中身が見える冷蔵庫」「背伸びせず使える冷蔵庫」という中型冷蔵庫。こういったラインナップが整っていくにつれて、私たちが表現したい世界観がお客様に伝わりはじめているのだろうと考えています。
——リブランディングをする上で、定番商品を600点から300点に減らしたとお聞きしました。この影響はいかがですか?
そうですね、これは結構勇気がいることで(笑)普通に考えて商品点数を半分にすれば、売上が半分になってしまうので、とんでもないことになります。これまではどちらかというとエントリークラスの良心的な価格の小型の家電製品が多かったです。
しかし、ブランドを体現するという意味合いで、この3年間は寄り添うお客様を少人数世帯でこだわりを持つ人に絞り込み、そのお客様に本質的な豊かさをご提供するような商品ラインナップに投資をかけました。それと同時に、エントリークラスの商品、あるいは寄り添うお客様にフィットしない商品は、思い切って廃番にしていきました。
——廃番の商品を愛用していたユーザーからクレームはありませんか?
私たちはコールセンターを社内に持っており、そういったお問い合わせを直接受けております。「この製品じゃなきゃ駄目だ」「大好きだったから使っていたのに」というお客様からのお声がありますが、そこはジレンマです。
ただ、全てのお客様に愛されるブランドというのは無いと思うんです。やはり趣向性とか、ある種尖ったところがないと、まさにお客様の心に刺さらないわけですよね。
エントリークラスの商品の廃番と、少人数世帯向けのこだわりを持つ人に向けた商品ブランド展開と同時に進めて行くこと。
もちろんシミュレーションをして、これくらいは広がるだろうと計画をしてやっていますが、やはり計画は計画、実行は実行、現実は現実。これがなかなか大変です。
——リブランディングを進めて行く上での課題は?
ブランドは1日ではできません。やはり、時間とお金がかかるので、そこはある程度腹を据えて取り組んでいくことが大事です。
それから私たちの場合、新しいブランドを立ち上げていくわけではなく、70年間ツインバードというブランドを展開してきていて、そこからスイッチするわけです。既存の製品イメージをたたみながら、新しいブランドイメージを発信して構築していかなければいけない。
たたむことと、足すこと、両方をやる。これはなかなか難易度が高いと思います。
しかしある程度、どなたにもリブランドしたツインバードの価値が評価されるようになってくれば、他社にはできないことを私たちが達成したということになります。
SDGsに危機感?2030年へ向けた経営ビジョン
——今後の投資はどのような分野に対して行っていきますか?
主に3つの分野で進めています。1つは、商品開発も含んだブランディング投資、あるいはマーケティング投資です。
2つ目は、全社でDX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性向上を進めています。直近では、サプライチェーンのデジタル化に取り組んでいます。
3つ目は、ワクチン運搬庫に搭載されているスターリング冷凍機の新しい技術開発というところにも投資をかけています。
株主様の中には家電事業で頑張って欲しいという方もいれば、唯一無二で私たちツインバードだけが提供できるフリーピストン型のスターリング冷凍機事業で成功して欲しいから応援しているという投資家の方もおられます。
両利きの経営ではないですが、家電事業と冷凍機事業の両方を頑張っていきたいと思っています。
——現中期経営計画が2月で終了します。次期の経営計画はどのようにお考えですか?
昨年の夏くらいから幹部メンバーと夏合宿を行うなどして、話し合ってきました。2030年に向けてどんな未来が起るのか。そのとき私たちがどうありたいのか。情報を集めて、外部環境の変化を見据えた上で、私たちツインバードの強みをどう活かしていくのか。
ニーズは多様化し、ますます専門化していきます。また、SDGs(持続可能な開発目標)の考え方が広がったことで、良いものを長く使う、簡単に捨てない、リサイクルしていくという世の中になっています。ここには、私たちもいい意味で危機感を感じています。
ツインバードという社名は、お客様と私たちは「一対の鳥」であり、製品をお使いいただくお客様に喜んでいただき、それを私たちも幸せと感じる。そういった想いが込められている社名なのです。
昨年10月に、ツインバード工業株式会社から株式会社ツインバードに社名変更しました。今後、単なる家電メーカーから、豊かな生活を創造していく「ライフスタイルメーカー」として変革していきたいと思っています。
地域と取り組む「共創」
——2022年10月に著書「ツインバードのものづくり」を出版されましたが、出版の理由をお聞かせください。
書籍出版は、ブランディングの一環として、いわゆる「メディア」として位置付けています。ツインバードは全国的にはまだまだ知名度が低いと思っていますし、ブランドの好意度ももっと向上できると思っています。
1人でも多くのみなさんにツインバードをご理解いただきたいという想いがあり、それを発信するための一つとして書籍を出版しました。
本をお読みになっていただいた地元の会社の社長さんからは、「感動した。今度、講演で話して欲しい」と言っていただいたことがありました。同じものづくりを行う会社の経営者として、製造業の大変さを共感いただいたのだと思います。
——書籍を通じて伝えたいことはどんなことですか?
読者の想定は主にビジネスパーソンです。社会人、あるいは経営者をターゲットにしていて、成功した話というよりは失敗談など、結構大変だった話を書いていますけれど(笑)
何十年間も順風満帆な会社ってたぶんありません。特に製造業は、投資とリターンの成否がすごく顕著にでますよね。ヒット商品がでるとすごい業績になりますが、出ないとなかなか大変になってしまいます。
ギャンブルをしてはいけませんが、やはりそういった度合いが高い商売なのではないでしょうか。でも、やっぱりものづくりが大好きでやっているんですよ(笑)
もちろん全国の生活者に愛される、あるいは世界の皆さんにも愛されるブランドを目指していきたい。ですが、やはり我々は地方企業であり、ものづくりの町燕三条の企業です。
地域の企業が元気になり、地域自体が良くなっていかなければいけません。地域の会社で協力して支えあっていくものづくりをずっとやってきました。「共創」はこれからも大切にしていきます。
この本を読んでいただくことで、私たちツインバードと燕三条地域のものづくりを多くの方に知っていただきたいですね。
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リブランディングへの想いを語る野水社長は、全国はもとより、世界を見据えている。その一方で、「捨てること」と「創ること」を同時進行するという難しさが、避けては通れない「壁」として立ちはだかっている。
その「壁」を乗り越えるためには、ツインバードで働く社員、商品を利用する生活者、そして燕三条地域で共にものづくりを行う企業との「共創」の精神がカギとなる。
「ライフスタイルメーカー」を目指すツインバードが、ものづくりの町燕三条地域と共に、世界へ羽ばたくことに期待したい。
(文 中林憲司)
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株式会社ツインバード
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