【独自】サントリー創業者・鳥井信治郎「やってみなはれ」の精神で 新潟県妙高市の葭原利昌部長が語るSDGsとは

妙高市役所にあるSDGsの看板と、妙高市の葭原利昌SDGs推進部長

霊峰・妙高山を讃える自然溢れる新潟県妙高市。芸能人がお忍びで訪れるいもり池や、滝の水量が多いことで有名な苗名の滝など観光スポットも多く、今シーズンのスキー場はインバウンドで賑わっていると聞く。

しかしながら、人口約3万人のこの妙高市も全国の地方都市と同様に人口減少の課題に直面している。この課題解決のために動き出したのが持続可能な社会を作るというSDGsである。妙高市のSDGs推進部長の葭原(よしはら)利昌氏は、「妙高市が面白いことをやっていると注目されることが大事。そうすれば妙高市に来てくれる」と話す。そんな葭原部長に妙高市のSDGsの取り組みについて聞いた。

 

県内2番目でSDGs未来都市に認定

――SDGsとはどういう意味ですか?

サスティナブルディベロップメントゴールズの頭文字で2015年に国連で決められたものです。和訳すると、持続可能な開発目標となります。それは環境に限らずですが、貧困をなくそうから始まって、1から17までのゴールがあります。SDGs の前に、以前はMDGs(ミレニアム開発目標)と言って、発展途上国を対象にして一部の専門家で話し合って決めていましたが、それではまずいということで、その後、発展途上国だけでなく、先進国用における課題も含まれるようになり、それがSDGsとなりました。

市民に一番近いところの地方自治体での取り組みが一番効果的です。地方自治体での取り組みが住民一人一人の住民の動きに直結するものですからね。住民の気持ちが変わらないと駄目ですよね。だからその行動変容をいかにしていただけるか、そこが大事なとこです。我々は昨年の12月市議会SDGs条例を作りました。タイトルが「妙高市 人と地球が笑顔になるSDGs推進条例」。県内初で、全国でも9番目です。

令和3年5月にSDGs未来都市に認定されました。新潟県見附市が一番古くて、その次私どもで、昨年、新潟県佐渡市と新潟県が取りました。妙高市は県内で2番目です。未来都市になると、国が財源をつけて後押ししてくれるんです。

 

1石3鳥の電動自転車

――具体的な取り組みについて教えてください。

まずは、ゼロカーボンを進めるためのAIデマンドタクシーです。予約して相乗りするタクシーです。従来のタクシーは電話すると迎えに来てもらって車に乗って、その人のみで目的地ですが、今回のAIデマンドタクシーは、電話なり、スマホで予約して、その人が例えば、今斐太地区と水上地区で実施していますが、斐太地区の人が新井の街中に行きたいと予約すると、もし仮に同じような時間帯にBさんも新井方向に行きたい場合は、Bさんのルートを経由して目的地に行くという相乗りタクシーです。昨年秋から実証実験を始めましたが、好評につき延長しています。冬の間は妙高市の場合、雪があるから車に乗らない人もいるんですよ。来年度以降はもっと地域を拡大していこうかなというふうに考えています。

また、電動自転車は妙高高原地域を中心に、昨年8月から11月の4か月間でやりましたけど、430件ぐらいの利用がありました。私が見込んでいたより非常に多くの方からご利用いただきました。4か所に電動自転車を置いています。二酸化炭素も出さないし、免許もいらないし、自分の健康作りにもなるしという発想です。二次交通代わりでもお使いになる方がいらっしゃるんです。

 

「完璧な見通しなんかありえない」

――SDGsを導入したきっかけは何ですか?

要するに、人口減少の中で、持続可能なまち作りをしていくためには、SDGsという思想や考え方をベースにしなくちゃいけないでしょうということです。元々私ども、令和2年からの第3次総合計画をつくるとき時にSDGsの要素を入れたんですよ。実際に作り込みしたのは令和元年ですが、前の入村市長のリーダーシップのもと推進したものです。SDGsを本格的に推進したのは、令和4年度からですが、私どもの特徴点は市民委員会の普及啓発実行委員会にあります。

私が職員に言っているのは「とにかくやってみようと。失敗してもいい、完璧な見通しなんかありえないのだから、まずはやってみよう。もしも、うまくいかなかったら軌道修正すればいいんだ」ということは言っています。サントリー創業者の鳥井信治郎さんの「やってみなはれ精神」です。ただ、やる前にはちゃんと事前に調査はしますよ。

葭原SDGs推進部長

昔の方々の生活様式が今のSDGs

――我々はどんなことから始めればいいのでしょうか?

大上段に構える必要はないでしょうね。身近なところで、無理なくやれることをやってほしい。例えば、我々小さい時に「ご飯を残すものじゃない」とかよく言われたじゃないですか。要するに食べ残ししないってことですよね。あとは、電気をつけっぱなしにしないとか。昔、親から小言のように言われてきたことがそっくりそのままSDGsですよね。今から思えば、昔の人はSDGsと言われなくても実行していたんです。

例えば、服一つにしても今だったら捨てるんですけど、昔の人は何か着物を変換していたじゃないですか。仕立て直すだとか、リユースだとかそういうことですよね。だから本当に昔の方々の生活様式が今のSDGsと言っても過言じゃないんじゃないでしょうかね。昔のおばあちゃんの知恵がSDGsに繋がっているという感じです。基本的なものを大事にするとか、感謝するとか、もしかしたら現代に足りないから、また大事なんだよねって言ってくれているじゃないですか。やっぱり歴史は繰り返しですよね。忘れかけていたことを何か目覚めさせてくれている。そんな気がするんですけど。

我々はその豊かな暮らしの中で当たり前に過ごしてきた。でもそれはおばあちゃんの時代お爺ちゃん時代に振り返ってみると、その時代のやってきたことって大事なことで気づかされるわけですよね。資源を大事にするとか、それらは皆、持続可能につながることじゃないですか。余分なエネルギーを使わないと二酸化炭素を出さないことになります。それが例えば地球環境を一つにしても、何度上昇して気候変動だとかって言われている。ちりも積もれば山となるです。

 

いかに「妙高はここが先んじているよ」ということを売り出す

――SDGsを人口減少解決にどうやって繋げますか?

妙高市を注目してもらって来てもらいたいです。それが人口減少の対策の一つなんですよ。転入してもらうということで、要するに社会増ですね。「いいよね。進んでいるよね、住みたいよね、行ってみたいね」と思ってもらいたい。

例えば、テレワーク研修交流施設では妙高市はZoomと提携しました。差別化して、人と違わなくちゃ駄目なんです。普通に作っても、他のコワーキングスペースなどと変わらないじゃないですか。行政だけで完結する時代なんか、もうとっくのとうに古いですよ。民間の力を借りることが必要です。

あとは、地域間競争ですから、いかに「妙高はここが先んじいてるよ」というのを売り出す。そうすると人はちゃんと来ます。やっぱり、時代の風をキャッチしなきゃ駄目ですよね。だって我々が勝手に思っていても外の人が全然見向きもしなかったら駄目だから。我々は結構、外に出ていますよ。例えば、東京の企業さんのところにアポ取って行ったりだとか、県の東京事務所で引き合わせていただいたことは何件もありますよ。直接聞かないと失敗は聞けない。いいとこだけネットに載るけれども、対面でリアルで会うと、「いやここはいいんだけど、この点はあまりよくなかったんだよね」と言ってくれます。

前妙高市長の入村明市長はとにかく先進的で、今回のSDGsのほかにも、カーボンニュートラルなど全国初、県内初の取り組みが多かった。葭原課長は部下に「まずはやってみろ」とよく言う。これはサントリー創業者の鳥井信治郎氏の「やってみなはれ」から来ている。葭原部長は「とにかくやってみないとわからない。行政も今の時代はとんがっていることが必要」と説く。

人口減少という現代社会の最重要課題ともいえるに難題に真っ向から立ち向かう妙高市。今月11日には内閣府主催の「地方創生テレワークアワード」において、妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会と妙高市が2022年度の地方創生担当大臣賞を受賞した。SDGs推進も含めて地域に根差し、さらには全国の模範となるような事業を城戸陽二新市長のもとでどう進化(深化)させていくのか、注目されるところだ。

妙高市役所玄関にあるSDGsのボード

 

(文・撮影 梅川康輝)

 

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