「与えられているものに感謝して欲しい」ウクライナからの避難夫婦が新潟県長岡市で講演

ウクライナから避難してきたイリナ・シェフチェンコ(Iryna Shevchenko)さんとムタル・サリフ(Salif Mutaru)さん

2022年2月24日に突然始まったロシア軍によるウクライナへの侵攻は、攻撃から1年を経ようとする現在も、厳しい情勢が続いている。今年の1月14日には、ロシア軍によりウクライナ各地で新たなミサイル攻撃がなされ、首都キーウや東部ハルキウ市、南部オデーサなど多数の都市が攻撃を受けた。東部ドニプロペトロウシク州ドニプロでは集合住宅が破壊され、少なくとも子どもを含む14人が死亡したとされる。これまで戦争とは無縁の生活を送ってきた市民が命の危険に晒されている。ウクライナでは現在も、子どもを含む591万人以上が国内での避難を余儀なく強いられており、1700万人以上が、安全を求め国外へと避難している。

ウクライナ侵攻発生直後の2022年3月から、日本でもウクライナ避難民の受け入れを開始した。同年7月下旬で1600人を超えた。1982年から2021年までの約40年で日本政府が認定した難民の数である915人を、わずか4カ月で超えたことになる。日本財団の調査によれば、2022年12月9日時点で、2179人のウクライナ避難民が日本に渡航している。

現在ウクライナの情勢と、戦争の悲惨さを知ってもらおうと、長岡蒼柴ライオンズクラブ(長岡市三和3・石田理惠子会長)は、2022年5月、ドニプロから小千谷市に避難した夫婦、ムタル・サリフ(Salif Mutaru 36歳)さんとイリナ・シェフチェンコ(Iryna Shevchenko 38歳)さんらを講師として招聘し、2月5日に特別講演会を企画した。会場は、ホテルニューオータニ長岡 NC ホール(長岡市台町2)である。会場には、およそ170人が来場し、二人の話に耳を傾けた。

夫のムタルさんはガーナ国籍。同国で看護師免許を取得し、大病院で6年間働いた。自国の医療制度における不平等と資源不足を憂慮し、医学学位を取得するためにウクライナに渡るも、資格取得直後にロシアによる侵攻が始まった。また、妻のイリナさんは、ロシアの侵攻から批判しながらも、現在もリモートワークでウクライナの会社に勤務している。両親は現在もドニプロに残っており、不安な毎日を過ごしている。渡航先に日本を選んだのは、渡航先での人種差別を避けるためだったという。

講演が行われたホテルニューオータニ長岡NCホール

最初にイリナさんがパワーポイントを用いながら、ウクライナの概略や、同国が置かれている現状について説明した。ウクライナではロシア軍からの攻撃を受けて以来、水道や電気の供給がとまり、日々暖房もない中で、市民が日々不安な毎日を送っている。電気が通らないため、外で焚火をしながら料理を作ることや、水の供給が絶たれているため、水たまりや雪解け水などから水を得ようと、人々が容器を持って並んでいる。その場所に突然ロシア軍が襲撃し、何人もの市民が命を落としたこと、また爆撃から身を守るために、自宅の地下室に避難した人たちは、長い人は3カ月間出られないでいる状況、肺の病気を持つ子どもの親が、子どもが必要な医療機器を使えるように、停電中にガソリンスタンドやスーパーマーケットまで車で行っている状況など、写真を交えながら説明した。現地の学校や病院が、停電の中での営業を余儀なくされ、今も、暗闇の中で授業や手術などが行われている。

今年1月、ロシアのミサイルが故郷ドニプロの住宅を直撃し、子どもを含む45人が亡くなった際の説明になると、それまで淡々と語っていたイリナさんが声を震わせながら語る様子が伝わってきた。

「今年は、長岡より気温が低く厳しい冬を迎えたが、みんながベストを尽くしている」と結んだ。

ウクライナという国について説明するイリナさん

ウクライナという国について説明するイリナさん

夫のムタルさんは冒頭、「私は今日ガーナ人としてではなく、この世界の一人として、一人のアフリカ人だけではなく、肌の違いに関係なく、一人の人間として皆さんの前に立っている」と語り、会場にいた聴衆に、「多くの人たちがお互いへの愛を育て忘れているのではないだろうか」と疑問を投じた。そして、その上で、「全世界は創られた国境を認識し、尊重しなければならない。握りしめた拳で握手はできない。憎しみには、憎しみを消すことはできず、憎しみを消すことができるのは愛だけだ」と、改めてお互いを尊重し、思いやることや対話をしていくことの大切さを説いた。10代の女性に「サリフさんたちにとって“幸せ”って何だと思いますか」という質問が投げかけられると、サリフさんは、「与えられているものに感謝すること、それが幸せだ」と答えた。

講演の後、二人から直接話を聞くことができた。今回、講演できたことについてサリフさんは、「とてもうれしい。とてもよかった。次は日本語でうまく話したい」と語った。また、イリナさんは、「こうした機会を設けてもらえたことを、とても感謝している。皆さんに楽しんでもらえたらうれしい」と笑顔で語った。

二人は現在、日本に半年以上滞在しているが、「日本人はとても優しくて、温かい。長岡と小千谷には自然がある。友人や家族のような人たちがいる長岡は第2の故郷だ」と語る。

また、ムタルさんは、日本に来る前には日本は外国人にとって難しい暮らしや文化が難しいと思っていたが、実際にきてみるとみんながお互いにルールを守り、過ごしやすい国だ。ガーナでは、日本人は死なない国民だと聞いていたが、それは本当ではなかったということも日本に来てからわかった」と冗談交じりに話していた。

石田会長は、「自分も戦争の話は親世代から聞いている。戦争の悲惨さを言い伝えていくことも奉仕になる。平和の心を知ることから、優しい気持ちを常にもっていただき、口から口へ伝えていってくれれば」と語った。

講演の後、取材陣の質問に応じるサリフ夫妻

「戦争の悲惨さを言い伝えていくことも奉仕」と語る石田理惠子会長

 

 

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