病院を改装して、保育施設に 「お母さんが気軽に子どもを預けられる、そんな居場所に」 おうちこども園ぴったん
今年1月17日、新潟県長岡市に新しい保育施設が登場した。「おうちこども園ぴったん」(表町1-5-9)は、新潟県長岡市の街中に位置し、事前に予約さえしておけば、午前8時から午後10時までの間、気軽に子どもを預けることができる。聴けば、ご夫婦で運営しているという。街中という好立地、それも夜の遅い時間まで預けておくことができるという保育施設はどのように運営されているのだろうか。早速お話を窺ってみた。
ご夫婦で運営。建物は元病院
街中は建物が密集していて、地元の人間でも意外とわかりにくい。記者も長岡在住歴20年以上だが、未だに中心市街地の立地はわかりにくい。平潟神社のすぐ向かい側と聞いて、スマホで地図アプリを見ながら周辺を探すも、生来からの方向音痴であることもあいまって、なかなか見つけることができなかった。四苦八苦したあげく、ようやくそれらしい建物を発見するも、なかなか看板が見つからない。それもそのはず、後で知ることになるが、地図アプリの写真は、同じ建物でも看板のない方、住宅地側の建物が写っていたのである。不安になり電話をかけてみると、すぐに建物の中から迎えてくれたのが、代表の阿部基樹さん(もっちゃん 37歳)である。ゆっくりとした穏やかなトーンと、柔和で包容力のある様子でお話されたため、電話をかけた記者本人がまずは一安心した。
建物の中に入ると、玄関で出迎えてくれたのが、奥様である加菜さん(なーちゃん 31歳)である。まずは、優しそうなお二人で、記者もほっとした。玄関を抜けると、複数の子ども達が遊ぶのに十分な広さのプレイルームがあり、その奥はこれまた広い和室になっていた。
もっちゃんさんによると、この建物は元々もっちゃんさんのお祖父様が開業していた病院の跡地だったという。こども園を開業するに当たって、建物の利用を許してもらい、十年以上誰も使用していなかった建物を保育施設用にリフォームした。
なるほど、街中の住宅地でも、建物の敷地が広い理由がよくわかる。
もっちゃんさんは元々、開業するまでは地元の新潟県長岡市で、パチンコ店や飲食店などの接客業に従事していた。ご家族が病気になられた際、自宅に作業療法士や理学療法士がやってきて、リハビリなどをしている様子を見て感動し、「身体のことを勉強し、自分も直接人の役に立てるような仕事をしたい」と一念発起し、新潟市にある専門学校に通い始めた。
一方、なーちゃんさんは新潟県燕市の出身である。就職と同時に新潟市へ移住し、認定こども園で乳児保育で経験を得た後、児童発達支援・放課後等デイサービス複合施設で、1歳半~18歳を対象にした発達障がい児療育に携わってきた。二人の出会いは、もっちゃんさんが通う専門学校の共通の友人を介して、だったという。
お母さんにも子どもにも敷居の低い保育施設を目指して
長年幼児教育の現場に携わってきたなーちゃんさんだが、子どもを預ける際、施設側に理由を言わなければならなかったり、夜遅くまで子どもを預かってくれるような保育施設が限られていたりと、従来の施設のあり方では、なかなか難しい現状があることを痛感した。次第に、そういった現状によって追い詰められていった保護者に寄り添うような保育をしていきたいと考えるようになっていった。
「初めは独立することなんて、思ってもいなかった」と語るなーちゃんさんだが、昨年3月に夫婦で長岡に引っ越してきてから、とんとん拍子に開業の流れが決まった。夏頃には公式のインスタグラムを開始し、情報発信など準備を着々と進めてきた。事業を始めるにあたって、「夫婦で暖かい場所を作れれば良いね」と話し合ったという。
「保護者だって、自分のお家じゃないところに我が子を預けることに後ろ髪を引かれる想いを抱えている。そういった想いで園に子どもを連れてきて、涙するお母さん達の姿を何度も見てきている」と切実に語るなーちゃんさんの脇で静かに頷いているのはもっちゃんさんである。「お母さん達だって、就職活動や、仕事、それにリラックスする時間だって欲しい。“子どもがいるから遊んではいけない”“夜騒いではいけない”ではなく、もっと気軽に子育てがやっていけるような環境を作りたい」との想いから、夜も比較的遅くまで預かることにし、預かる際には、自分たちから理由を問わない方針に決めた。
同園の近くには、新潟県長岡市の繁華街である殿町もある。子どもを同園に預けて、夫婦で食事や飲酒を楽しむということも気軽にできる。
「今は核家族化が進んで、昔のように気軽にお祖父ちゃんやお祖母ちゃんに子どもを預けることが難しくなった。ご近所さんとの付き合いも希薄になっている。子育てに孤独を抱えるお母さんが後ろめたさを感じなくても良いように、“こういう場所もあるんだよ”と、何かあったら預かってくれる、近くのおじいちゃんおばあちゃんのような存在でありたい」と二人は語った。
同園では現在、積極的に見学などの予約も受け付けている。「地域に根付いていくためにもまずは知ってもらうことが大切。本当に必要な人に届けば」と願っている。
施設はプレイルームの他、奥の和室はそれぞれ、給食を食べるところ、お昼寝をするところとわけて使っている。それぞれの目的に沿った部屋を用意することで、子どもが、気が散ることを防ぎ、自分たちがやるべきことに作業を集中させるという意図がある。正面には神社があるので、天気の良い晴れた日は遊ばせることもできるほか、プールや絵の具遊びなど、ダイナミックな遊びができる部屋も用意されている。
街中にあるからアクセスも良く、人の往来もあるので、治安上も問題はなさそうである。
「おうちこども園 ぴったん」は、自分の時間がなかなか作れないと悩んでいるお母さんたちにとって、きっと強力な味方になってくれるはずである。
(文・撮影 湯本泰隆)
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