【道の駅特集】良寛、古民家、田舎料理──郷土の魅力を最大限活用する「峠の茶屋」、良寛の里わしま(新潟県長岡市)【動画あり】

新潟市中央区と柏崎市を結ぶ国道116号、新潟の中心街から出て一時間余り自動車を走らせると田園の中に見えてくるのが、道の駅「良寛の里 わしま」(新潟県長岡市)だ。築年数もうすぐ200年という古民家に、「けんさん焼き」や「だんご汁」といった素朴であたたかな田舎料理を提供するドライバーのオアシス──レジャー施設化する道の駅が注目される中、「休み処」という在り方を示しつづける同駅を取材した。

 

良寛最期の地に立つ古民家

「わしま」が立地する長岡市旧和島村地域は、江戸時代後期の僧侶・良寛が最期を過ごした地。ランドマークにもなっている地域交流センター「もてなし家」はバイパス開通時に現在の場所へ移築されたが、元は良寛が没した翌年に建てられたものであり、当時の人々の記憶を偲ばせる。

今でこそ個性的な「わしま」だが、開駅当初は現在よりも規模が小さかった。1995年、道の駅に登録されたのは現在「美術館ゾーン」と呼ばれている一帯で、これらは元々「ふるさと創生一億円事業」を活用して建てた施設。現在と同様に、郷土と良寛に焦点を当てた施設ではあったものの「(当時は)どんどん陳腐化していっていた」と「わしま」の指定管理者・NPO和島夢来考房の副理事長でゼネラルマネージャーの久住郁夫氏は語る。

「ほかと同じような近代建築で、同じようなことをしていた。バイパス(現在の116号)横に移設する話が出た際、『せっかく良寛の里なのだから、和島だけの道の駅をつくりたい』と話が出た」(久住氏)。

道の駅「良寛の里 わしま」 外観

良寛の里美術館

そのころちょうど、現「もてなし家」の元となった古民家の取り壊しの話が重なった。かつて良寛は村へ托鉢へ出ており、裕福な家は彼を迎える休み処のような役割を担っていたという。良寛没後すぐに建てられた同家もそうした性質を受け継いでおり、「これほど良寛の名と『もてなし』の場所にふさわしいものはない」と活用の道が見出された。

なお和島夢来考房は、合併によって消える和島村の名と伝統を受け継ぐことを目的に設立された組織。2004年から指定管理者として「わしま」を運営している。指定管理者制度は現在では一般的になっているが、制度の施行間もなかった当時は県内でも珍しく、現在でも先行事例として注目されている。

 

オシャレでなくても本物を

けんさん焼き(けんさ焼きとも)は、味付け味噌を塗った焼きおにぎりで、農民食だったものが兵糧に採用され「剣先に刺して焼いた」ことから名がついたとされる。一方でだんご汁は、すいとんにも似た汁物で、年貢や商業用に出せない「クズ米」を団子状に丸めて汁物に入れたものが起源だという

「わしま」に立ち寄った際に食べたいのが、中越地域の郷土食だった「けんさん焼き」と「だんご汁」だ。古民家の落ち着いた雰囲気と相まって、運転に疲れた身体へ染み渡る。長年提供されてきた定番メニューだが、導入にあたっては一筋縄ではいかなかった。

「今でこそ味にこだわって作っているが、元々は田舎料理。地元の人間からは『そんなもの、人様に出せないよ』と反対され、『ラーメンやスパゲティを作ろう』と色々言われた。しかし、この建物(もてなし家)でそれはないだろう」久住氏は苦笑いしながら振り返る。「この古民家と同じで、地域にあるものが魅力になる。オシャレでなくても、本物を提供したいと説得した」。

また「わしま」では、夏は近隣の加勢牧場で採れた牛乳を使ったソフトクリームが、冬は焼き芋が人気だ。特に後者、年間6トンを売るというサツマイモは中越地域の農業法人が契約栽培しており、ブランド化が進められている。今年の目標は10トンだ。

道の駅「わしま」 もてなし家のお土産コーナー

農産品関連で言えば、近年は直売所にも力を入れる。以前は規模も小さく「余り物のお裾分けの場」(久住氏)という趣だったため、小国など周辺地域の農業法人を回って出品を増やした。量も品目も充実したことで利用客も増加し、合わせて地元農家の出品する野菜も売上が増えはじめた。さらに、B品C品も買取って加工して売り出している。

そしてそれは、地域経済の循環にも繋がるという。「NPOと言えども、地域経済のためには、物産を作り出して、生産者としっかりとしたギブアンドテイクの関係を結ぶことが重要。究極的に、NPOは運営資金を稼ぐことができればいい。だからこそ、農家から少しでも高く買ったり、B品も買い取ってロスを無くすことが大切」(久住氏)。

 

ウチは「峠の茶屋」でいい

道の駅「わしま」 もてなし家の飲食スペース

県の観光統計によると、「わしま」の2021年の年間入込客数は約28万5,000人。このうち6割が新潟市・燕市方面と116号沿線からで、残りが柏崎市や長岡市街地からと県内客が中心である。ただ、「わしま」自体を目的として来る人は少ない。周辺はコンビニすら少ないこともあり、多くの利用者がドライブの休憩や、寺泊や柏崎からの帰りに立ち寄る程度だ。しかし、久住氏は「それでいい」という。

「食事やトイレ目的で立ち寄って、その1時間でも利用者が満足できるサービスがあればいい。なんとなく気が安らぐ……良寛を癒した休み処とは、そういう場所。近年、道の駅はレジャー施設化しており、それもまた在り方の一つではあるが、ウチは『峠の茶屋』でいい」。

一方で、良寛の足取りを追って訪れる人も確実に存在している。久住氏はインバウンドの例を紹介した。「数は少ないながらも、フランスやドイツから観光客が来た。話を聞くと、ロシアによるウクライナ侵攻で、良寛のような生き方への関心が高まっているらしい」そうした観光客にも、「本物」のモノと体験を提供できるのが強みだ。

良寛というテーマで観光圏をつくる取り組みも始まっている。良寛と縁のある出雲崎や分水の道の駅との間で、互いにキッチンカーを派遣しはじめた。むしろ、近隣であるにもかかわらずこれまではほとんど連携が無かった。これから取り組みを強化し「多くの人に、良寛を知ってもらうためのハブとしても活躍し、地域おこしにも繋げていければ」と久住氏を力を込める。

前述の通り、現在道の駅の人気が高まるにつれ、その在り方は多様化してる。しかし「わしま」は、派手なテーマパークではないからこそ、ドライバーや地域にやすらぎを提供でき、多くの支持を得て、その影響は地元を潤していく。116号にある「峠の茶屋」は、地域資源を最大限活用する場所でもあった。

道の駅「わしま」の看板

NPO和島夢来考房の久住郁夫氏

(文・撮影 鈴木琢真)

 

【グーグルマップ 道の駅良寛の里わしま】

 

【関連リンク】
道の駅良寛の里わしま webサイト

 

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