【妻有新聞】3月11日号 社説「津南町議会のブレーキ」
行政と議会は「車の両輪」という。その片輪に大きなブレーキがかかった。津南町が医師確保で独自に打ち出した「総合診療医育成プログラム」の予算執行を規定する条例制定議案が開会中の3月定例議会で否決された。中山間地の自治体が抱える公立病院の最大課題は「医師確保」。町立津南病院はその最たる局面にあり、歴代の行政は「国や県に何度も、何度も、お願いしている」要請活動を繰り返し、現町政も要請活動を重ねている。だが…である。
そこで「持続可能な医師確保」で独自事業を打ち出したのが総合診療医育成プログラム。医師給与は人材不足で上昇し、年間2千万円から3千万円とも言われ、それでもなかなか確保できない現実を、津南町は今回の研修奨励金貸与条例の制度設計の中で、新潟県福祉保健部から聞き、今回の条例に数字を入れた。だが「町財政への影響が大きい」など疑義が相次いだ。
この先が見えてくる。国は新規事業を打ち出す前に、県や市町村が独自事業で取り組んだ「実証例」を国補助金や新規事業として打ち出す場合が多い。今回の津南町の独自事業は、その先例ではないのか。苦しい財政の中、自腹を切って独自に総合診療医を育て、常勤医を確保する取り組み。当然相当なる「先行投資」だ。だが医師確保を声高に求めるだけでは「限界性がある」現実を公立病院運営者は分かっている。国の支援は、そうした「市町村の挑戦」により初めて動き出す。
その礎に「津南町がなるリスクは大きい」と考えるなら、そこは政策判断の場が必要になる。津南町議会14人は今回の条例議案審議で、議長以外で11人が発言した。「行政の覚悟」と「議会の覚悟」が迫られる場だった。医師不足の危機感を「両輪」は共有している。その覚悟に違いがあった。
いい機会だ。とことん話し合うことだろう。必ずや、見えるものがある。
【妻有新聞 2023年3月11日号】