【独自取材】「新潟県長岡市の副市長退職金が新潟市の副市長退職金よりも60万円以上も多い」長岡市の桑原望市議が問題点を指摘するも、長岡市は取り合わず

「一任期総収入という判断基準を見直すべき」と主張する桑原市議

 

なぜか副市長の退職金が新潟市より高い長岡市

「官僚制の逆機能」という考え方がある。アメリカの社会学者・マートンらによって指摘されている官僚制による弊害のことを指す。本来、目的を達成するための手段であったはずの官僚制が、いつの間にか「官僚制を維持する」ことが目的になってしまっている状態を指す。今月6日に行われた長岡市議会3月定例会の一般質問は、まさにそれを彷彿とさせるかのような事案だった。

この日、桑原望市議が長岡市副市長の退職金を巡って長岡市の柳鳥和久総務部長と応酬を交わした。桑原市議による長岡市長、副市長など特別職の収入を巡る議論は、平成16年9月の総務委員会より行われているものだ。

新潟市副市長の退職金は1,523万7,792円。それに対し、長岡市副市長の退職金は、1,584万円。長岡市副市長の退職金は新潟市副市長よりも、60万円以上も高い。新潟市副市長の月額報酬は94万2,000円であり、長岡市副市長の給料月額82万5,000円と比較し、新潟市副市長の報酬は月額で10万円以上多いにもかかわらず、長岡市副市長の退職金が多い。民間事業者も市の一般職も退職金が下がり続けているのにも関わらず、長岡副市長の退職手当率は昭和41年から一貫して変わっていない。特別職の退職金も直す必要があるのではないか、というのがもともとの桑原市議の考えである。

 

そもそも退職手当率が新潟市より高い長岡市

そもそも、長岡市副市長の退職金が多いのは、退職手当率の違いによるものである。退職手当率は、新潟市の副市長が33.7%であるのに対し、長岡市の副市長は40%と、6.3ポイントも高くなっている。現在、長岡市長・副市長の退職金は、それぞれの給料月額に在籍の月数を掛け、その後退職手当率を掛けて計算される方法がとられている。このような方法でいくと、長岡市の副市長の退職金は、給料月額82万5,000円に任期の月数48を掛け、退職手当率40%を掛けることで算出されており、先に挙げた新潟市副市長と長岡市副市長の退職金の差は、このような算出方法の結果打ち出されている。

桑原市議は、「現在の長岡市の副市長の退職金については、市民や職員に対し、合理的な説明ができてない状態」と考え、令和3年3月定例会と令和4年3月定例会において一般質問を行ってきた。

桑原市議の質問に対し、当時の近藤信行総務部長は、答弁の中で、副市長の退職金が新潟市よりも高い金額であり、類似する規模の施行時特例市との比較でも高い順位であることは認識した。しかし、「報酬審議会で退職手当の額や率のみを比較対象とするのではなく、報酬や手当を含めた一任期の総収入額(一任期総収入)で比較することが適当であるとの意見が出されており、県内や類似する規模の他市との比較により、ご審議いただき、答申を受けており、答申に基づき、適切な報酬及び給料、退職手当の額を決定している」と答えている。

 

新潟県議より多い長岡市副市長の月収

一任期総収入とは、特別職が任期中に得た総収入のことで、具体的には、給与、ボーナス、退職金などを合算した収入額である。長岡市副市長の場合、任期が4年間なので、年収1,316万7,000円(ボーナス込み)の4年分+退職手当(退職金)を合算した数値がこれに当たる。長岡市副市長の場合、一任期総収入が6,850万8,000円となり、23特例市の副市長のなかで14番目。退職金単体でみると、23特例市の副市長の退職金のなかで、2番目となるが、一任期総収入でみると14番目となるので問題ないとするのが、現在の長岡市の認識である。

今年1月には、市長、副市長などの長岡市特別職の給与や手当の支給額を検討する長岡市特別等報酬審議会が開かれた。それにも関わらず、同審議会は、副市長の退職金の額など報酬について、「据え置き」との答申を行った。今回の桑原市議の一般質問は、同審議会の答申を受けてのことである。

副市長の報酬等が同審議会で据え置きとなったことに関して、長岡市の柳鳥総務部長は、「物価高騰やエネルギー価格の上昇などにより厳しい経済情勢にあり、市内中小企業の賃上げは先行き不透明であるため、特別職の報酬等を引き上げることは現時点において市民の理解を得がたいことや他の同規模団体に改定の動きがないことなどから報酬額等を据え置くことが適当であると判断された」と説明した。

桑原市議の質問に対して、「審議会の答申を尊重すべき」とする柳鳥和久総務部長

一方、桑原市議は、「そもそも基準になっている一任期総収入という判断基準を見直すべきでは」としたうえで、「市長の退職金は2,700万円以上、副市長の退職金は、1,500万円以上にものぼります。これほどの支出を行うためには、当然長岡市として、退職金を払う目的が必要だ」とし、「他の長岡市がやっている多くの事業には、目的があり、それに対して効果を検証している。長岡市は、特別職の退職金についてどのような目的を持っているのか」との質問をした。

それに対して柳鳥総務部長は、退職金の目的についての一般的に考えうることができる目的をいくつか列挙したにすぎず、桑原市議の求めていた「長岡市としての目的」については全く言及をしなかった。当然、桑原市議にとっては満足のいく答弁ではなく、市議本人としては納得のいかない様子である。

さらに桑原市議は、今回の報酬審議会で、一任期総収入について、説明と議論がなされた後、事務局の説明のあと、報酬審議会の委員から「一任期総収入の考え方を用いている自治体の数はわかりますか」との質問に対し、事務局側が「調査したことがなく把握しておりません」と応えたことを指摘、自身がその前の議会にて、一任期総収入という基準が、他市には長岡市独自の基準であるという問題点を指摘したあとでの報酬審議会であったのにも関わらず、「他市での実態について調査してなかったことは極めて残念」とし、「退職金手当率については、民間や一般職の退職金の実態を考慮して検討すべき」と主張。その上で、「新潟市を超えた1位となっている退職手当率を現在の40%から新潟市と同じ33.7%に下げたとしても、4年間の年収と退職金を合わせた一任期総収入では、新潟市についで、2位となるため、一任期総収入という点でも問題がなくなる。新潟市より高い手当率と退職金も改善され、民間の対象金の傾向や一般職の退職金との兼ね合いも解決する」とした。

また、「新潟市は、一般職の手当の改正と同様に、特別職の手当の改正も実施している。民間の動向を反映し、一般職とも乖離が起きないように引き下げられてきた。長岡市も(新潟市のように)民間の動向や一般職との状況などの視点を入れて退職金の手当率を検討すべき」とし、これらの視点を含めて再び審議することを長岡市側に要請したところ、これに対して、柳鳥総務部長は、「特別職は一般職とは、身分や職責が異なり、必ずしも一般職と連動するものではない。ただ、考慮はすべき」としつつも、「審議会の答申を尊重すべき」と、桑原市議の主張を退けた。

 

桑原市議「先例踏襲規則・マニュアルを疑わないのが問題」

桑原市議は、弊紙記者の取材に対し、「報酬審議会というのは、お手盛りを防ぎ、民間の視点を入れることが目的なのに、(報酬審議会が)一任期総収入という慣例を疑わないこと。先例踏襲規則・マニュアルを疑わず、報酬審議会にかけたから正しいとしていることが、そもそも問題なのではないか」としている。

新潟県議会ホームページによると、新潟県議会議員の月額給与は79万2,000円で、長岡市副市長は前述の給料月額82万5,000円である。つまり、選挙という洗礼を受けていない副市長の方が新潟県議より多いという現状だ。副市長の退職金をはじめ、長岡市特別職の手当を巡るこの一連の議論は、まだまだ終着点を見いだせそうにない。
(新潟市、長岡市副市長の年収などは長岡市特別職報酬等審議会資料を参照)

議会にて、問題点を指摘する桑原望市議

 

(文・撮影 湯本泰隆)

 

【関連サイト】

新潟県長岡市議会令和5年3月6日本会議④(一般質問・桑原望)

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