「差別の実態に気がついて」 フリーアナウンサーの藪本雅子氏が新潟県長岡市で人権講演
新潟県長岡市で11日、「長岡市人権講演会」が開催された。同講演は、人権について正しい理解を深めてもらうことを目的に、新潟県長岡市人権・男女共同参画課が毎年開催するもの。
今回は、今なお偏見や差別が残っているハンセン病問題から、差別について考えることを目的に、日本テレビ出身のフリーアナウンサーで、記者としても同問題に長年取り組んでいる藪本雅子氏を招き、「ニュースが伝えない差別の裏側~ハンセン病に学ぶ~」というタイトルで、まちなかキャンパス長岡(長岡市大手通)にて1時間30分ほどの講演だった。32人が直接会場に来場して参加し、11人がオンラインから参加した。
ハンセン病は、「らい菌」による感染症で、かつては「らい病」と呼ばれていた。発病すると、斑紋が現れたり、身体の末梢神経が麻痺したりすることなどが特徴で、病気が進むと顔や手足が変形したりすることもある。適切な治療が行われなかった時代には、多くの罹患者が差別や偏見に苦しめられた。さらに、隔離を必要とする病気ではなかったにもかかわらず、国が法律によって患者を強制的に隔離や断種を行うなどの誤った政策をとったことにより、罹患者は劣悪な環境の中で非人間的な扱いを受けることも多くあったという。医療的な知識が進み、治療ができるようになった現在でも、誤った知識や偏見により、多くの関係者が差別や偏見に苦しめられている。
藪本氏は講演のなかで、自身がハンセン病の問題と向き合うきっかけになった経緯と、ハンセン病患者への差別や虐待の実例や実態を、自身の取材の経験と体験を元に、具体的な事例を紹介しながら、詳細に話した。
藪本氏によれば、ハンセン病患者が差別されるようになった原因に、宗教的な価値観や、日本人独特のケガレの概念、優生思想があるという。そして、かつてハンセン病患者が密告され収容所などに送り出されていた時代があったことを取り上げ、「密告するのは意地悪な人たちではない。正義感に溢れた人たちだった。正義は時代によって変わっていく。“正義”の名の元で、らい病の人たちが犯罪人のように連れて行かれた」と語る。
そして、「(差別を受ける側は)自分は何も悪くないのに、劣等感を背負わせられる。びくびくしながら過ごさなければならない。自分が悪くないのに、劣等感を持ってしまう。それが残念。劣等感を持つ必要ないのに、堂々と生きればいいのに、そのことを(今後も)伝えて行きたい」と自身の想いを語った。その上で、「差別に“中立”はない。(差別)する人を、無関心な人が支えている。その理不尽な状況を見て見ぬふりすると、差別に加担したことになる。“違うんじゃないの”と思うことは、“違うんじゃないの”と声をあげていくことで、必ず社会が変わる」と力強く語った。
新潟県長岡市在住の友人に誘われて新潟県湯沢町から来場した60代の女性は、「元々ハンセン病に関心があって、ハンセン病をテーマにした映画なども見ていた」と語る。「今日の講演は良かったです」と満足そうである。また、新潟県長岡市内から参加した40代の男性は、「テレビで最近ハンセン病のことを知って、関心を持った。今まで知らないことを知れて、勉強になった」と感想を述べた。
講演会を企画した長岡市人権・男女共同参画課の穂刈美枝課長(40代)は、「新型コロナウィルスの感染症でも、偏見とか差別の問題が課題になりましたが、今の世の中でハンセン病の問に気づいてもらうことが重要なのでは」と思い、今回のテーマを企画したという。
「講師の藪本さんは、(ハンセン病のことだけではなく)広範囲にわたって人権の活動をされているので、様々なものにふれていただいた。(参加者には)人として大事なことに気づきを与えていただいたのでは」と語る。今日の講演をきっかけに、色々なことに気がついたり、学びを進めていただけたりする足がかりになればいいのではないか」とコメントした。
(文・撮影 湯本泰隆)