新時代へと突き進む新潟の郷土芸能・新潟樽砧【動画あり】

 

トットンットンッ、軽妙かつ心地よい響きで新潟甚句を踊る人を盛り上げる新潟樽砧。江戸時代から約300年続く新潟の郷土芸能が、令和の今、新たな転換期を迎えている。

2022年12月10日、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館で、永島流新潟樽砧伝承会代表の岡澤花菜子さんが新潟樽砧の研究及び普及に努めた永島鼓山氏(1928~2017)の名跡を継ぐ、「二代目永島鼓山襲名披露会」が開催された。篠田昭学校法人新潟青陵学園理事長(前新潟市長)が後見人となり、会場では約80人もの観客がその瞬間を見届けた。

15年以上、新潟樽砧の演奏活動を続けている永島流新潟樽砧伝承会

「二代目永島鼓山襲名披露会」で演奏する二代目永島鼓山氏。永島流の樽砧は、激しいバチさばきと踊るような振りが特徴

初代鼓山氏は、約80年にわたり新潟各地にあった樽砧を研究して「型」と呼ばれる7つの叩き方を編纂し、後進の育成や演奏活動を展開してきた人物。二代目鼓山氏は12年間初代に師事し、初代が設立した「永島流新潟樽砧伝承会」の代表を2017年から務め、その技と志を継承している。

伝承会は現在新潟市内の公民館を中心に毎週練習を重ね、にいがた総おどり祭をはじめ各地のイベント、さらには国民文化祭閉会式や新潟市と姉妹都市のハバロフスクでの記念事業など、さまざまな場面で新潟を代表する芸能の一つとしてパフォーマンスを披露している。

襲名披露会では、二代目鼓山氏の独奏や永島流新潟樽砧伝承会メンバーとゲストによるパフォーマンスのほか、トークセッションも催された。本イベントはFM新潟の番組「ART MIX JAPAN RADIO」の公開収録イベントも兼ねており、MCの能登剛史氏の司会進行のもと、篠田氏と二代目鼓山氏、そしてゲストの松浦良治新潟大学名誉教授と伊野義博新潟大学名誉教授が登壇し、初代のエピソードや二代目への期待など、樽砧にまつわる多彩なトークが繰り広げられ、参加した観客が聞き入った。

二代目永島鼓山氏

トークセッションの様子(上2枚)。二代目鼓山氏は新潟大学の学生時代に両教授の授業を受けたことも

先代の没後から襲名の声は上がっていたが、当初は固辞していた二代目鼓山氏。襲名を意識したのはコロナ禍で世の中全体が文化の今後の在り方を模索していた時期、伝承会の方向性が整い、改めて会の活動と樽砧の未来を見据えた時に自身が担う役割として決心したそう。「鼓山の名前は先代のイメージがしっかり固まっているので、二代目としての樽砧を発信できる自分になった、このタイミングでよかったなと思います」と語り、新潟樽砧の歴史の新たな一ページを刻む記念の日となった。

今年1月に七回忌を迎えた初代永島鼓山氏(写真中央)

新潟樽砧のルーツは、江戸時代。船が出港する際に、遭難しないよう海の龍神に祈りを捧げ、船縁を木づちで叩いていた風習に由来している。それが盆踊りで醤油樽や酒樽を叩く伴奏へと繋がっていった系譜は、いかにも北前船が来航していた湊町新潟らしい。

新潟市史にも近世中後期の新潟町における町民の生活と行事の記録として、盆踊りの日は、夕暮れ過ぎにはどこからも樽太鼓(※当時の樽砧の呼び方)の音が響き始め、町中の老若男女が入り乱れて踊り歩いたと記されている。

花街・古町のお座敷にも樽砧が響いており、新潟出身の作家火坂雅志氏が執筆した江戸時代の新潟を舞台にした小説「新潟樽きぬた 明和義人口伝(小学館)」にも、踊り、三味線、樽砧が芸事として紹介されている。作品の最後には「みなを動かした樽きぬたの響き、あれが絶えない限り新潟湊はいつまでも栄え続けるだろう」とあるなど、当時の新潟の人々と樽砧の強い結びつきがあったことは想像に難くない。

当時の盆踊りの様子を描いた絵巻物「蜑の手振り(あまのてぶり)」

古町芸妓が演奏する様子は、明治36年には尾崎紅葉が「短夜の 夢ならさめな 樽ぎぬた」と歌にも残し、現在もお座敷遊びとして、古町で受け継がれている。

人から人へと受け継がれてきた新潟樽砧、その中でも一つの独立した流派としても大成されたのが永島流だ。初代から二代目へ、そしてさらにその先の未来へも樽砧の奏では受け継がれつつある。

新潟大学附属新潟小学校3年1組では、総合学習の一環としてクラス全体で樽砧の研究や練習に打ち込んでいる。休み時間も練習するなど、カリキュラムを超えて新潟樽砧の習得に励む子も。二代目永島鼓山氏にインタビューも敢行し、そこで知った演奏者の少なさに危機感を覚えた児童たちが「素敵な樽砧なのに、打ち手が少ないなら、自分たちで演奏してたくさんの人に樽砧を知ってもらおう」と、3月9日に古町ルフル広場で発表会を開催した。

当日は、演奏にとどまらず、クイズや映像を使うなど工夫を凝らした研究発表も行い、町行く人々が足を止めてその発表に聞き入った。

難しい奏法も習得するなど、日頃の練習の熱心さが伺える演奏の様子

これからの活動について二代目鼓山氏はこう語る。「叩き方の一つに『みだれ』というものがあります。先生(初代)が私のみだれを見て『同じことをやってもしょうがない』と叩き方を変えたことがありました。そんなストリートの即興性が新潟の盆踊りの本来のいいところだし、自由な探求は先生がやりたかったことで、私も大事にしていきたいことです。そのためには研鑽を積んで、引き出しを増やさないといけません。今あるリズムを残しながら、同時に時代ごとに民衆の中から生まれて「面白いね」と思われるものを生み出し、面白がってもらえて、繋いでいって、仲間が増えていったらすごく素敵だなと思います」

永島流新潟樽砧伝承会は、4月15日に開催されるイベントART MIX JAPANの公演「にいがた総おどり(祭り)」に出演が予定されている。

時代を超えて、世代を超えて、新潟の地で脈々と受け継がれていく新潟樽砧。型を守りながらも自由に広げていく先に見える、新潟の伝統の未来は明るい。

襲名披露会では、新潟のさまざまな伝統芸能のアーティストがお祝いのパフォーマンスを披露した

(文・丸山智子)

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