エキナカのなごみポイント・TABI BAR & CAFÉ が移転、マスターの”クボケン”に聞く「新潟駅」という場所
出会いと別れの交差点に
「おかえりなさい」
顔見知りなのだろうか、そうでなくともここを訪ねる客は全てこの言葉で迎えられるのだろうか?
「駅というのは、出会いの場でもあり別れの場でもあります。そういう意味では特別な場所ですから。だから来られるお客様には全て『よく戻ってきてくれました』という気持ちをこめて」
2019年10月のオープン以来、この新潟駅を訪れる数多くの人々にTABI BAR & CAFÉ from SUZUVELと”クボケン”はおなじみだ。
JR新潟駅構内、CoCoLo西N+内にあり、飲食スペースと同時に観光案内などの情報発信基地とも言えるこのTABI BAR 。「幻のレア銘柄」まで約200種類飲める新潟の地酒、ガストロノミーツーリズムを体現する地元食材を活かした酒の肴もさることながら、ここのマスターであり「おいしいナビゲーター」の久保田健司さん=クボケンの接客術が実に見事なのだ。全ての客に胸襟を開いたスタイルで「お兄さん」「お姉さん」と呼ぶ。そこには「出会いと別れの場所」に相応しい、心地よい距離感がある。
オープン年の年末から年始にかけて、コロナ禍が始まり、3月には緊急事態宣言となった。そんな時には夜の街に出にくくなった地元新潟のファンが「エキナカなら」というギルトフリー感からか多く立ち寄って、県外旅情者の姿が消えたTABI BARを支えた。「コロナの頃はお客さんの数も限られていたので、むしろゆっくり接客ができてそれはそれで楽しかった気がします」。
クボケンの仕事ぶりは、取り扱う全ての地酒にまつわる蘊蓄を諳んじるバーテンダーの姿だけではない。地場産野菜やローカルフードの魅力を語り、「この後」の河岸を探している観光客には地元の美味しい居酒屋を勧め、知られざる観光スポットやイベントの紹介をする。県外の出張者やライブを観にきた人でまだ宿をとっていない旅行者にはホテルまで紹介する。その姿はさながら新潟のコンシェルジュ。ここまで新潟の魅力を上手く説明できる達人は、そうそういない。
そこには情報が集まる
特に県内酒蔵と銘柄のバックストーリーを語らせると軽妙な中にもシンを食った情報が盛り込まれ、聞く方もつい身を乗り出したくなる。
「酒蔵の方や有名な酒店の方がときどきふらっと寄ってくれるのですよ。中には最初は身分を明かさずに”お忍び”でいらっしゃる人もいます。そういう方々からいただいた情報はとにかく濃い。これも『駅』という場所にあるおかげでしょうね」
TABI BARをたびたび訪れる常連客の中には、あの「孤独のグルメ」の原作者・久住昌之氏もいる。人が行き交うところに情報が集まる、この必然。つくづく、駅は電車を乗り降りするだけの場所ではないという真実を知らされる。
「以前は食も酒もほとんど興味がなかった。外食産業の仕事につくようになって、(農業などの)生産者さんとやり取りをするようになってから初めてわかったのです”美味しいことは当たり前じゃない”と。生産者さんの努力と培われた技術の先に”美味しい”がある。この駅という場所、駅に来る人たちに、本当に成長させてもらったと感じます」
そんなTABI BAR & CAFE from SUZUVELが、新潟駅改修工事に伴って現在のCoCoLo西N+2階から移転する運びとなった。移転先はやはり新潟駅構内CoCoLo新潟西館1F、同じSUZUGROUPが展開するSUZUVEL内に入る。新潟のローカルフードをカジュアルに楽しめるレストランとして地元客にも観光客にも人気の高いSUZUVELとの統合は、新たなシナジー誕生の期待もある。移転後のリニューアルオープンは5月13日を予定している。
(文・撮影 伊藤直樹)