【閉幕したG7新潟2023を振り返る】その時、世界経済を見る目は新潟に注がれた
ウクライナ問題、対ロ制裁への結束は?
5月11日から3日間にわたって新潟市で開催された主要7カ国(G7)財務大臣・中央銀行総裁会議で、現在世界経済上で最も大きな課題として議論の多くを割かれたのは、他でもないウクライナに侵攻したロシアへの制裁についてコミットメントの呼びかけだった。
今回の会合では、主要7カ国のほか、シンガポール、インド、インドネシア、ブラジル、韓国、コモロの6カ国閣僚らを招待した。対ロ制裁に不参加を表明しているインドがこの中に入っているのはひとつのトピックでもある。またウクライナのセルゲイ・マルチェンコ財務大臣がヴァーチャル形式で参加した。この意味については、現在の世界経済に与えるショックの中で最も重大であるウクライナ問題で、ロシアへの経済制裁に向けたグローバルな結束の呼びかけに他ならない。
だが、中国やインドが不参加を表明しており、そのため十分な効果に繋がっていないのも実情だ。米イエレン財務長官は「制裁から逃れようとするロシアに対し更なる行動が必要」と矢継ぎ早の制裁を呼び掛けたが、ロシアに協力する国がある以上、その抜け道は確保されている中で米国が提案する全面輸出禁止などの措置で足並みが揃っていない印象は否めない。一方でサプライチェーン(供給網)のさらなる強化への呼びかけには、協調性が感じられ、敵対国を除いたフレンドシェアリングへの取り組みや開発支援などを通じて、新興国や経済脆弱国などの共感も得られた印象だ。
世界経済・金融システムの強靭性
このほか、この会合で俎上に上った世界的経済ショックは、新型コロナウィルスのパンデミックや、3月に相次いだアメリカの銀行破綻、気候変動リスクなどだが、いずれに対しても世界経済と金融システムが強靭だと再確認された。会合では特に、アメリカでの金融不安が取りざたされ、SNSやインターネットバンキングの普及引き起こされる新しいタイプの「取付騒ぎ」についても話されたが一方で、こうした強靭さへの信頼を厚くし「騒ぎすぎないこと」が大事だと話されたという。
今後のサプライチェーンの行方に関しては、新興・途上国ともパートナーシップを構築し、経済脆弱国もサプライチェーンによってグローバルに役割を果たせる仕組みづくりが申し合わせられた。
開催地・新潟市(情報発信・おもてなしなど)
開催地となった新潟県と新潟市ででは2021年11月に、2023G7関係閣僚会合の誘致を表明し、2022年8月に新潟市において、G7の中で特に主要な会合と位置づけられる財務大臣・中央銀行総裁会議の開催が決定した。2008年G8労働大臣会合、2016G7農業大臣会合、2019年G20新潟農業大臣会合などハイレベル国際コンベンションの運営実績が加味された。
特に新潟市では、過去の国際会議開催時にない機運の高まりが見られ、入念に準備が進められた。議長を務めた鈴木俊一財務大臣は最終日の記者会見で「市内の交通規制などに対し、多大なご協力をいただいた」と機運醸成による新潟市民の歓迎ムードを評価した。
また、植田和男日銀総裁も「信濃川が日本海にそそぐ雄大な景色を眺めつつ議論に集中することができた」と話した。過去のG7会合でも、素晴らしい景観が会議の難渋を救ったという局面は数々あるという。このほかにも海外閣僚関係者の中には「新潟の田園風景が美しい」という声があった。「景観のすばらしさ」というのは、これまで新潟がそれほど強調して発信してこなかったコンテンツだけに、新たな対外的魅力として加えたいところ。世界経済へ注がれる眼が新潟に集中するタイミングで、こういう発信ができたのは大きい。
さらに「食」に関しては、訪れたVIPやプレスセンターの各国の報道陣にも大いに好評だった。「次回議長国のイタリアの代表が、非常にプレッシャーを感じていた様子」(植田総裁)と、新潟の大きな魅力であるこの分野を存分に発信できたと言ってよい。
花火や古町芸妓の舞など文化アトラクションも、メッセージ性があってVIPたちの目を引いていた。海外からの参加者からは「NIIGATAという地名を今回初めて知った」という声を多く聞き、今回の成果が大変意義深いものであることを印象付けた。
最後に会期を通しての警備体制だが、直前に和歌山県で演説中の岸田総理に爆発物が投げ込まれる事件が発生したため、新潟県警は当初の予定よりもさらに警備体制を強化。会場周辺の人員の増強のほか、信濃川にも海上保安庁の巡視船が待機。その甲斐あって、3日間の会期が無事推移した。
(文・伊藤直樹)