【独自】新潟県の燕三条駅にオープンした「こうばの窓口」、全国に先駆けた試み、ビジネスマッチングで地域と企業に活力を
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「JRE local hub 燕三条」館長の松岡伸彦氏
この2月、新潟県のJR弥彦線燕三条駅にオープンした「JRE local hub 燕三条」は、JR東日本の新たな地方創生展開の第一号だ。コワーキングスペースとして一般利用できると同時に、地元の工場(こうば)の窓口となって産業を盛り立てる。金属加工業が盛んな燕三条の入り口となる同駅で、全国に先駆けた取り組みが動き始めた。
「JRE local hub 燕三条」を運営するのは株式会社ドッツアンドラインズ(新潟県三条市)。同社は2020年10月にJR信越本線帯織駅(同)に「Eki Lab 帯織」を開設。無人駅だった同駅を交流拠点に生まれ変わらせると同時に、営業に力を割けなかった地元工場がこれまで以上にさまざまな案件を受け取れるようにできる環境を生んだ。
さらに特徴的なのは、複数の工場が集まることによるメリットだ。燕三条は金属加工業において、地域での分業化が進んでいる。地域の強みである一方で、会社単位では単一工程に特化していることから孫請け・曽孫請けが多くなる。高い技術を持ちつつも、完成品からは遠いところに居る工場があるのも事実である。帯織駅ではそうした地元の10社あまりが結集しそれぞれが持つ技術を持ち寄ることで、地元や全国から集まるアイデアを商品化している。
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「JRE local hub 燕三条」の「こうばの窓口」
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コワーキングスペースは工場をイメージした独特な構造
「JRE local hub 燕三条」の「こうばの窓口」は、そんな「Eki Lab 帯織」のスケールアップ版と言っていい。4月時点で登録企業は約80社。燕市と三条市の間に立地し、上越新幹線が止まる燕三条駅は正に「玄関口」として多くのビジネス客が利用する。
「これまで(取材時の4月時点)すでに、関東地方など県外からいくつかの案件を受けて動き始めている」と「JRE local hub 燕三条」館長の松岡伸彦氏。「こうばの窓口」では松岡氏を含めた5人のコンシェルジュが在籍。発注希望者の要望をヒアリングして、それに合う地元企業を選び出す。
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松岡氏は三条市の地域おこし協力隊として同市へ移住。現在はシングルマザーをはじめとしたファミリー層の移住支援や、空き家利活用などの事業に携わる
「この時代、インターネットで検索すれば会社はいくらでも出てくるが、だからこそどこを選べばいいのか分からない。どの企業にどういった技術があるのか、どれだけの生産能力があるのか、そういった情報を備えたコンシェルジュが居るため、企業同士のミスマッチが起きにくい」(松岡氏)。
また、一社で完結できない場合はコンシェルジュが数社をとりまとめて製品の完成まで導く。帯織駅と同様に多様な専門技術が集まると同時に、大量生産にも対応する。「この地域で1万ロットを作れる会社は少ない。だが1,000ロット作れる会社は複数ある」(同)。それは燕三条ならではの強みだ。
なお、コンシェルジュの取り扱う情報は金属加工業だけではない。デザイン関連の企業なども紹介するほか、観光客が訪れた際には飲食店や宿泊施設も案内するという。「JRE local hub 燕三条」は燕三条へのあらゆる来訪者が最初に訪れる場所として定着するかもしれない。
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「こうばの窓口」で提供されている登録企業のロゴカード。カードを作るためにロゴを新調する工場も
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「こうばの窓口」では工場見学への案内もしている。ロゴカードと同様、工場自身がしっかりと「見られている」感覚を持つことで、現場の環境や企業理念の共有などが改善する効果も期待される
現場において、試作品の小ロット生産などでは特に、「自分自身が何の部品を作っているのか」さえよく分からないケースがある。だが「Eki Lab 帯織」や「こうばの窓口」を通して発注を受けることで、自社の成果が製品にどのように反映されているかが分かりやすくなる。一次請けや自社製品に携わる機会が増えることで、従業員にとっても、ものづくりの楽しさを再発見する機会となるだろう。
同時に、案件の利益率も向上する。やりがいと労働環境の両方を改善し、目指すのは人手不足に喘ぐ業界の課題解決だ。「マッチングによって企業の利益率と従業員の給与が向上し、働きがいも、女性の働く場所も増えていけば、後継者問題の解決や若い人材の確保に繋がっていく。『関東から移住してでも燕三条に住みたい、働きたい』という人が増えてくるようにもしたい」。地域の移住促進にも携わる松岡氏は力を込めた。
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「JRE local hub 燕三条」
(文・写真 鈴木琢真)
【関連リンク】
燕三条こうばの窓口 webサイト
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