【塚田一郎氏刑事告発の周辺】記載漏れは「政治とカネ」というよりただの「ズサン」なのではないか、という指摘

新潟市民オンブズマンに刑事告訴された衆議院議員・塚田一郎氏だが、これを「政治とカネ」で括るのは行き過ぎか

「記載漏れ」と「虚偽記載」の印象差

自民党の衆議院議員・塚田一郎氏が、新潟市民オンブズマンに刑事告発された。

サミットが終わり、ほんのりと「解散風」をにおわせ始めたここにきて、各紙が「またもや政治とカネ」というアオりが入るかと思えば少々辟易とする。これは別に「政治とカネ」の問題ではない、と記者は考える。ここまでの顛末をざっと振り返りたい。

新潟市民オンブズマンが新潟県警に出した告発状

塚田氏が代表を務める政治団体「自民党新潟第一選挙区支部」の、令和4年3月1日に提出された「令和3年度分の政治資金収支報告」をめぐっての問題だ。政治団体の収支報告書の収入の欄には「個人の党費・会費収入」を記載する必要があり、それを記載する枠も設けられている。そして令和4年3月1日付の同支部における収支報告には、この「個人の党費・会費収入」について記載が一切なかったのだという。

塚田氏は参議院議員を2期務め、現在は衆議院議員の1期目にあたる。言ってみれば昨日今日の素人ではないのだから、政党支部において「個人の党費・会費収入」が皆無という状況は考えにくく、普通に考えれば「記載漏れ」である。なぜ記載漏れなど起こすのか、自民党なりの事情があるので、後に説明したい。

塚田氏側はオンブズマンの問い合わせに対し、当初は「個人の党費・会費収入が皆無である」という前提で回答した(これはこれで酷い話である)が、後に訂正し「調査した結果、記載漏れと判明した為に今回、収支報告書の訂正を行うこととした」と回答した、と告発状にはあり、事実この後に訂正がなされている。

衆議院議員・塚田一郎氏の告発状を持参した新潟市民オンブズマンの谷正比呂代表と代理人・加賀谷達郎弁護士

ただ今回の告発状には「記載漏れ」ではなく「虚偽記載」と書かれている。読んだ側の印象として「記載漏れ」=ミス、「虚偽記載」=意図的、というものになるのは確かだ。もちろん規定通りに収支報告をしていない塚田氏をかばい立てする言葉はないが、この二つの言葉が持つ意味の落差は大きい。これが「裏金プール」などに繋がっていれば「虚偽記載」もわかるが、現時点では確認されていない、というかおそらくない。政治団体の収支報告書は誰でも閲覧できるシロモノで、そこにログを残す「裏金」など普通に考えれば存在しないだろう。

そのうえで解散総選挙が噂されるタイミングで「政治とカネ」のイメージが少なからずついた候補が、そのまま選挙戦に突入しなければならないのは足枷に他ならない。

ただ「(塚田氏は)本件のみならず過去に代表を務めていた自民党新潟県参議院第二選挙区支部の平成25年から30年分の収支報告書についても、収入の部において個人の党費・会費収入を皆無にしている。虚偽記載が状態化している現れではないか」(加賀谷弁護士)ともいう。

 

書いていない支部、団体は少なくない

告発状の提出に先駆け、新潟県選挙管理委員会で県内政治団体の令和3年分政治資金収支報告書を、ある程度無作為に数点閲覧した。

政党支部でいえば衆議院議員・国定勇人氏が代表を務める「自民党衆議院新潟県第四選挙区支部」参院議員・小林一大氏が代表を務める「自民党参議院新潟県第1選挙区支部」などが記載なしだった。これらに関しては両者とも1期目で、実際に令和3年の収入はゼロだったと見るのが妥当だ。

党員・党費ゼロの政治団体がいくつも存在する

また県議会議員が代表を務める政治団体も複数閲覧したが、この中には「記載なし」がいくつか散見した。多いのは自民党関係者だ。ただ内情を知るとこれも「政治とカネ」というような事件めいた裏は感じ取れない。要は自民党内で「統一した書式」が徹底されていないということなのだ。自民党の場合、党員が増えてその分の党費が払い込まれると「還付金」という形で各団体に「バック」されるという、一見複雑な手続きをとっている。この処理をめぐって、「個人の党費・会費収入」に書き入れている団体もあれば「その他の収入」に組み入れている団体もありまちまちになっているのだ。党費に関する収入など県連では把握しているはずなので、照合すれば数字は間違いなく出てくるのだが、事ここに及んでも記載なしの団体は結構ある。

また、オンブズマンが一番最初にマスコミに向けて塚田氏の記載漏れをリークした4月中旬の、直前に発売された地元月刊誌には、立憲民主党の衆院議員・菊田真紀子氏が代表を務める同党「新潟県第4区総支部」についても令和3年分は「記載なし」となっており、同誌記者の取材を受けて「事務的ミス」を認め直ちに訂正したという記事が掲載されている。

月刊誌に記載漏れを指摘されてすぐに訂正した菊田真紀子衆院議員

令和3年の「記載ミス」という点では塚田氏との差異はないのだが、オンブズマンはこの件について把握しながらも、一切の指摘がないのは「忖度」と言わないまでも「選択」くらいは働いたのではないか。

加賀谷弁護士は「今回はまだ、すぐに解散総選挙へという雰囲気ではないので、この件が(投票行動に)影響する可能性は低い」と話したが、解散が遠くない空気はひしひしと伝わっている。

 

現新潟市長・中原氏もかつて・・・

現在は新潟市長になったこの方も・・・

今回、告発人のオンブズマン側は「塚田氏は参議院時代の平成25年から30年にも虚偽記載(記載漏れ)があり、状態化していた」として、最も悪質なのはこの点だとしている。しかし参議院でいえば、現在は新潟市長となった中原八一氏なども参議院議員として選挙区支部の代表を努めていた期間には、塚田氏と同様の「記載漏れ」があったことが確認されている。

これらを考えても、自民党内でこの手の「記載漏れ」は状態化していて、そこにガバナンスが効いていないこと自体は問題だが、これが即「政治とカネ」かと言えば無理があるのではないか。塚田氏の場合も、参院議員時代の平成25年~30年に記載がなかったことがことさら問題視されているようだが、それ以前の平成19年~24年は特に指摘を受けていないわけで、当該期間の会計責任者によってマチマチになっていることが問題だと言える。公明党や維新の会は、地方組織であっても会計様式については本部一括、全国共通。自民党県連も紛らわしくないように、せめて県連で一括にしてはどうか。

「不実記載」が何かを隠ぺいする目的で行われたのなら、それは「政治とカネ」として問題視されてしかるべき。報道の字面に踊らされることなく、本質を見極めたいところだ。

(記事・撮影 伊藤直樹)

 

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