【独自】世界的デザイン賞を受賞した「くみ木の絵本」、デザイナー高井幸江さん「世界中の子供たちに遊んでほしい」(新潟県燕市)

iF デザインアワードナイト(ドイツ・ベルリン 5月15日開催)に出席した高井幸江さん。同授賞式には、受賞者や関係者など約5,000人が集まった

「世界3大デザイン賞」と名高い「iF デザインアワード2023」に、「ベイビー・キッズ部門」で新潟県燕市出身デザイナーの手がけた製品が入賞した。「AppleやSONYなどまわりが大手企業ばかりの中、本当に光栄。シリーズ2作目、3作目と考えるなかで、胸を張って作っていけるのがすごく嬉しい」。受賞作の知育玩具「くみ木の絵本 おかえりどうぶつはうす」を手に、高井幸江さんはそう喜びを語る。

直線的で単調なシルエットを持つ積み木とは異なり、組み木はパーツそれぞれがモチーフを持った複雑な形をしていることと、組み合わせることで一つの形を作り出すことが大きな特徴だ。そのため組み木を手に取った子どもたちは、パズルのような遊び方だけでなく、パーツ単体でごっこあそびに興じることもできる。

一方で制作者から見れば、パーツそれぞれが曲線を共有し、さらに合体して一つの造形になるためデザインの難易度が高い。組み木文化の普及に尽力した小黒三郎氏をはじめ、組み木作家が少ない理由はこの点にある。

そんな組み木だが、2011年に新潟でも「組み木の会」が発足した。同会では、子どもたちと糸鋸を使って一枚の板を切り取り、組み木を作るワークショップなどを定期的に開催している。大人(会員)の視点でも、ものづくりの楽しさを味わえるところに魅力がある。

高井幸江さんと、受賞作の「くみ木の絵本 おかえりどうぶつはうす」。なお、「IF デザインアワード2023」には世界から1万点を超える応募があったが、「ベイビー・キッズ部門」で入賞した日本のプロダクトは8点のみだった

木の温もりを感じる「どうぶつはうす」。絵本も高井さんが執筆したが、歌やアニメーションなどには多くのアーティストも関わった

高井さんは元々、デザイン会社の株式会社フレーム(新潟市中央区)に所属。その仕事で2012年、にいがた組み木の会と出会った。最初はチラシや広告の依頼だったが、その広告のグラフィックを組み木の図案で作ってみたところ、同会の平山力会長の目に止まり、イベントなどで使う組み木のデザインも担当するようになった。

「くみ木の絵本」制作のきっかけは2018年ごろ。「ある日の打ち合わせで、『動物が家の形になったら面白いね』とアイデアが出た。でも、ピースがバラバラになっていると組み上げるのがけっこう難しい。そこで、『(組み方の順番が分かるように)絵本もつけよう』という話になった」(高井さん)。仕事をつづけつつデザインを構想し2020年に独立。株式会社Ibiza(新潟県燕市)を2022年に法人化し、本格的な制作へ乗り出した。

スノービーチの活動に共感し、材料に選んだという高井さん。雪上間伐にも参加した

素材には、新潟県魚沼市の「スノービーチプロジェクト」で採ったブナの間伐材を使用している。こだわりのポイントだけに、「あえて着色はしていない」。時代に流されない造形がよりいっそう、木目の美しさと手触りを際立たせる。

また、コンセプトとして「子どもも森も育てる」ことを掲げる。「遊んでいる時には分からないかもしれないけれど、やがては森のことを考えるきっかけになったら、と思っています。木だから劣化もしないので、大きくなったらインテリアとして飾って、いずれまた自分の子どもに受け継いでくれたら」(高井さん)と願いを込める。

絵本も高井さん自ら手がけた。「元々グラフィックデザイナーなので、いつか絵本は作ってみたいと思っていた」という。まずは組み木をデザインし、そこからストーリーを紡ぐ。絵本は言語学習に使えるよう英語版も制作し、さらに歌やアニメーションがつき、webサイト上で遊べるゲームとしても展開している。交流のある各分野の作家が集まって実現した。一つの作品からこれほど多くの展開ができた点もデザインあってのことであり、また各賞で評価を受けたポイントだろう。

組み合わさり壮大な世界観を描き、さらに繋がっていく組み木。高井さんはその姿にクリエイター同士の協業を重ねる

現在「くみ木の絵本」2作目の発売に向け制作が進んでいる。次回は「ネコの兄弟とお花畑がテーマ」だという。今後シリーズとしてさらに作品を展開していこうとするなか、世界的な賞を受賞したのは意義深い。「英語訳をつけたのは、世界中の子どもたちに遊んでほしいからという意味合いもある。今回の受賞で、その夢が一歩進んだ」と高井さんは笑う。

もう一つ並行して進めているのが、ワークショップなどもできる工房の建設だ。燕市内に2023年中にオープンを予定する。組み木の認知拡大とともに、組み木を通してものづくりを楽しめる環境を提供したいという。

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「くみ木の絵本」は2023年4月、地元燕市で40年以上の歴史を持つコンクールでも入賞した。金属加工品やキッチンウェア、家電製品などが多い中では珍しい入賞に見えた。しかし、燕市産業史料館の学芸員・齋藤優介氏は解説する「燕は金属加工の歴史とともに、例えば鍋であれば取手部分など、木工やプラスチック加工も発展してきた」。当然、そこにはデザインの仕事も存在した。ものづくりの伝統とともに、クリエイターが集まり育つ素地が燕にはあったのだ。そしてその流れは加速しつつある。

高井さんは、各分野のクリエイターが集まり広げていった「くみ木の絵本」の世界観を、組み木のパーツが組み合い繋がっていく様子に例えて語っていた。これから工房が立ち上がることで、さらに創造的な土壌が育ち、ものづくりの伝統と理念が次世代に受け継がれていくことを願う。

 

(文・撮影 鈴木琢真)

【関連リンク】
くみ木の森 webサイト

IFデザイン賞 「”The Animal Kumi-Kit/Educational Wooden Toy”」

 

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