「良さを活かす」 築58年の古民家をフルリノベーション 株式会社大庄の挑戦(新潟県長岡市)
夢のマイホームを手に入れるために、日々頑張って働いている人たちも多いことだろう。マイホームを取得する方法には、大きく分けて、新築住宅を建てる方法と、空き家など中古物件を取得し、リノベーションして住む方法の2種類がある。
確かに新築住宅は、最新の基準に従って設計、施工されるため、耐震性や断熱性は常に最新の基準を満たしている。また、注文住宅であればプランや外観のデザイン、設備機器など、家づくりの自由度が高く、施主のこだわりも反映させやすい。
一方、一から設計して造るため、それなりの予算を用意しておく必要がある。また、建ぺい率や容積率によっては、増改築が難しいということも、問題として挙げられる。加えて、新築の最も難しい部分は、完成までは住宅の全体像がつかみにくいということである。近年では、モデルハウスやCGなど、ある程度事前に体感できるような手段があるものの、実際に住んでみないと実感できないことも多く、住み始めてからあれこれと不満が生じることも決して少なくない。
一方、好立地の物件でも、手頃な価格で購入でき、場合によっては、新築よりも広い住居が選べる場合もある。
固定資産税の差も大きい。新築住宅に課される固定資産税は、評価額(建物は建設費の7割程度、土地は国税庁が定めた路線価から算出)の1.4%となる。一方、中古住宅では、新築に比べ、取得時から固定資産税が低く設定されているので、大幅に節税できる。
総じて、中古物件を購入し、リノベーションした方が、結果としてコスト面でメリットがある場合もある。
目黒剛志さん(38歳)が購入した、新潟県長岡市中沢にある築58年の住宅は、そのような中古物件をフルリノベーションした戸建住宅である。この度、中古戸建住宅の性能向上リノベーションを実証するプロジェクトの一環として、新潟県長岡市に本社を置く株式会社大庄(大竹 大代表取締役)と、新潟県長岡市に支店を持つYKK AP株式会社(魚津 彰代表取締役社長)が協働で完成させた。
リノベーションにあたっては、“既存建物・周辺環境の魅力を最大化する設計”をコンセプトに置き、中古物件では難しいとされる「断熱」と「耐震」という課題に、高水準なリノベーションを施すことにより、一般的な新築住宅を上回ることを目指した。
室内は、もともと使用されていた丸太梁などの木材を一部見せることで、古さと新しさを混在させた空間を創出し、建物の良さを活かした造りとなっている。
元々の建材の良さを活かした設計
「2階のダイニングキッチンからの眺望がこだわり」と、得意げに話すのは、(株)大庄の大竹大代表取締役(39歳)である。外の景色が楽しめるように、同社では初めて、2階をリビングにするという試みにも挑戦した。室内から、奥行きのある緑道が楽しめることから、‟緑遠鏡(りょくえんきょう)の家“と名付けた。
(株)大庄の建築士でもある目黒さんは、自宅のリノベーションを、自身で設計とデザインを行った。「元々、リノベを新築以下だと思っていなかった」と目黒さんは語る。2階からの眺望が良かったことが、この物件を選んだ一番の理由だという。初めて足を踏み入れたとき、「これは簡単に捨てていいものではないな」と感じた。
設計とデザインに関しては、持てる技術の最大限を活用した。「現時点での自分の集大成」だと目黒さんは自信満々に語った。目黒家(大人二人、子一人)が住むにはちょうど良い広さと奥行きである。
しばらくは、モデルハウスとして一般公開し、目黒さん一家が実際に住み始めるのは、今年のお盆を過ぎたあたりからだという。今後も生活しながら、耐震性や耐熱性など、様々な検証実験を続けていく予定である。
元々はアルミサッシの販売などを行っていた(株)大庄が、リノベーション事業に取り組み始めたのは2019年からのこと。見附市にある平成3年建築の中古住宅をフルリノベーションし、エアコン一台で全館冷暖房できるモデルハウスをオープンした。その技術が、この建物にも活かされている。
近年では、中古物件のリノベーションやリフォームの技術は、SDGsの観点からも、その重要性が指摘されている。また現在、多くの地方都市が抱えている空き家問題の解消にも役立つ。今後、日本のストック住宅市場の流通活性化と、そのベースとなる住宅の断熱化や耐震化が強く求められる中、(株)大庄の取り組みでは、業界内でも注目を集めている。
(文・撮影 湯本泰隆)